神戸市立医療センター中央市民病院は「1年365日・24時間断らない救急医療」を理念に掲げ、あらゆる救急患者を受け入れてきた。厚生労働省が毎年公表する「救命救急センターの評価結果」でも、現在まで6年連続全国第1位の実力を誇る。しかし、感染症指定医療機関として新型コロナウイルス感染症の重症患者を受け入れる中、院内感染が発生し、4月11日、救急外来(ER)や救命救急センターなど救急部門すべてで患者の受け入れを停止した(現在は受け入れを再開)。



 基幹病院での大規模クラスター発生と突然の救急ロックダウンについて、2013年から救命救急センター長を務める有吉孝一医師に話を聞いた。まずは前半をお届けする。

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■救命救急センターが救急患者の受け入れを停止したのには驚きました。
 
 本当に苦渋の決断でした。当院にとって、救命救急センターと感染症指定医療機関であることは、どちらも重要な機能です。結果的に、そのうちの一つを止めることになったのは痛恨の極みです。地域の医療体制に多大な影響があることはわかっていましたが、院内感染がさらに拡大すれば病院復旧への期間がより長くなり、影響が広がってしまう可能性があります。それを避けるため、コロナ患者以外の救急患者の受け入れをすべて止めたのです。
 
■救急車の受け入れは年間1万件超、救急外来の患者数は年間3万5千人超です。それらの患者はどこへ。
 
 重症・重篤患者に対して行う三次救急については、神戸大学医学部附属病院と兵庫県災害医療センターがほとんど受け入れてくれました。また中等症から軽症の患者は、輪番で救急を担う市内48の病院が引き受けています。また、どうしても市内で対応しきれない患者は、市外の周辺地域の病院に搬送されたケースもあったかと思います。市内外の消防・医療機関に、ご協力いただきました。

 地域の救急医療体制にとって幸いだったのは、市内の救急搬送そのものの件数が、例年同時期から2割ほど減ったことです。新型コロナの感染者数が急増し、緊急事態宣言が出されてステイホームが広がった影響もあったのかもしれません。
 
■新型コロナの患者を受け入れる医療機関は、決めていたのですか?
 
 神戸市のメディカルコントロール協議会(消防や医療機関など救急医療体制を整備する組織)では、ダイヤモンド・プリンセス号の事例報告などを受けて、新型コロナ患者の診療と通常救急の診療を別々の医療機関で行うことを提言していました。一つの医療機関で両方の患者を診療するのは、さまざまな観点から難しいと考えたからです。市内では、当院のほか数件の医療機関がコロナ患者を受け入れました。当院は基幹病院のため、コロナの主に重症患者とコロナ以外の救急患者を両方受け入れていましたが、結果的に院内感染が発生してしまいました。また、神戸労災病院や神戸赤十字病院などは発熱外来と通常救急を並行して行っていましたが、やはり院内感染が起きて通常救急を停止しています。
 
■感染症指定医療機関として、新型コロナウイルス感染症への備えも十分にされていたと思います。
 
 1月に国内初の感染患者が確認されて以降、院内および地域の保健所や市内外の医療機関とも連携し、さまざまな対策が検討、実施されました。院内では職員への感染対策の周知や面会の制限、地域では感染状況のフェーズごとの診療態勢検討や、新型コロナ患者が発生した場合の受診フローの作成など、多岐にわたる内容です。

 状況が大きく変わったのは、4月の初旬でした。市内でPCR検査陽性者が急増し、当院には1日あたり10人ほどの患者が入院するようになりました。院内には1・2類感染症に特化した個室病床が計10床あり、そちらで対応していましたが、中等症の増加とともに重症患者を受け入れる中で院内感染が発覚したのです。
 
■院内感染の発生を知ったときは。

 うちの病院で?と、愕然としました。飛沫感染だけであれば、それなりの対策もしていたし、抑えられると思っていたのです。職員全員が「愕然とした」というのが、正直なところではないでしょうか。 
 
■大規模クラスターとなり、救急だけでなく病院機能全体に影響が出ました。
 
 当院では最終的に患者7人と職員29人、計36人の感染者が出ました。そのうち医師は3人、看護師は19人です。 

 最も想定外だったのは、複数の患者・職員の感染に伴い、感染者以外の多くの職員が、健康観察のため2週間の自宅待機を余儀なくされたことです。特に看護師の待機者が多く、当院には1000人を超える看護師が勤務していますが、延べ人数で350人、特に多かった4月12日ごろには、一度に220人もが自宅待機になってしまいました。そのため、新規入院や外来の中止、手術の制限、救急の受け入れ停止など医療機能の縮小をせざるをえませんでした。

 そのような院内状況にもかかわらず、新型コロナの患者は増え続けていきました。最も多いときで48人の患者が入院し、4月23〜24日には重症患者だけで17人を数えました。当時は、救命救急センターのCCU(心臓疾患患者に特化したICU)6床と、EICU(救急患者専用のICU)8床の計14床すべてが、重症の新型コロナ患者専用になっていました。自宅待機で人員が少ない中、それだけの重症者の治療を行うのは本当に大変でしたね。

 新型コロナ感染症では約2割の患者が重症化し、ICUでの集中治療が必須になります。また重症患者は、回復にとても時間がかかります。回復にほぼ2カ月、さらにPCR検査が陰性になるのにも時間がかかる。4回も5回も検査をし、いったん陰性になっても、次にまた陽性ということもあります。

 ICUのベッドを空けたくても、検査が陰性にならなければ、なかなか受け入れる医療機関などがありません。次に重症患者が来てもベッドが空いていなくて入院できず、医療状況が逼迫することになってしまいます。
(文・梶葉子)

【プロフィール】
有吉孝一医師/1991年福岡大学医学部卒。沖縄県立中部病院の外科レジデントを経て、93年神戸市立中央市民病院(当時)で救命救急センター専攻医。佐賀大学医学部准教授、同附属病院救命救急センター長などを歴任。2010年神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター救急部長、13年から同センター長。