神戸市立医療センター中央市民病院は「1年365日・24時間断らない救急医療」を理念に掲げ、あらゆる救急患者を受け入れてきた。厚生労働省が毎年公表する「救命救急センターの評価結果」でも、現在まで6年連続全国第1位の実力を誇る。しかし、神戸市唯一の感染症指定病院として新型コロナウイルス感染症の重症患者を受け入れる中、院内感染が発生し、4月11日、救急外来(ER)や救命救急センターなど救急部門すべてで患者の受け入れを停止した(現在は受け入れを再開)。



 基幹病院での大規模クラスター発生と突然の救急ロックダウンについて、2013年から救命救急センター長を務める有吉孝一医師に話を聞いた。前回記事『救急全国1位病院がコロナ院内感染 現場医師に聞いた「最も想定外だったこと」とは?』に続いて、後編をお届けする。

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■院内感染というのは、どのような状況下で起きやすいのでしょうか。

 病院の状況によっても異なると思いますが、特に高度な機能を持ち、重症患者を受け入れる医療機関の場合、最も注意が必要なのは患者さんの急変時です。新型コロナ感染症の場合、軽症で入院していた患者さんでも急に重症化することがあり、また重症化した患者さんが他院から搬送されて来ることもあります。そういった場合には早急な処置が必要で、人の動きがどうしても慌ただしくなります。バタバタした中で気管挿管などの侵襲的な処置をしている間に、思わぬ形でマスクや防護服の隙間から患者さんの飛沫が侵入したり、ガウンの着脱時などに付着していたウイルスに曝(さら)される可能性は大きいのです。

 また新型コロナ感染症については、まだよく分かっていないことも多く、感染経路も今でこそエアロゾル感染が言われていますが、はじめは飛沫感染と言われていました。エアロゾル感染と飛沫感染では、対応の仕方も準備も異なります。そういう意味では、新しい感染症への対処の難しさも感じています。
 
■マスクなどの装備は足りていましたか。

 当院では、1月からマスクを一元管理していたので、何とか持ちこたえていました。それでも、原則は1日1枚に制限されていたし、医療用のN95マスクは滅菌した上で再利用していましたね。今は1日2枚までOKになっています。 
 
■現在の救急部門の状況は。
 
 6月3日以降、三次救急と二次救急が順次、患者の受け入れを再開し、10日には救急外来(ER)も再開しました。かかりつけ患者の急変時の診療と医師が乗り込んで病院前診療を行うドクターカーは、その前(5月11日)に再開しています。

 8日には、自宅待機になっていた医師や看護師がすべて解除になってスタッフがそろいました。新型コロナ病棟になっていたCCUやEICUを含む救命救急センター、救急全体の診療態勢も、徐々に通常に近い状態に向かっています。ただ、現在もまだ新型コロナの患者を受け入れており、完全な復帰にはもう少し時間がかかると思います。 
 
■今回の経験を踏まえ、今後、予測される第2波、第3波への備えはどのように。

 とにかく、もう二度と救急を止めないようにしたい、というのが第一です。新型コロナの治療と並行して通常救急もきちんと行っていくことが、地域全体の医療体制の維持にもつながります。そのため、新型コロナの流行状況によって院内の診療態勢を柔軟に変更できるよう、さまざまな準備を行っています。例えば、院内のゾーニングや、コロナ患者と非コロナ患者を治療する医師、看護師を分ける診療態勢作りなどですね。

 また、今回結果的にコロナ患者専用病床になった救命救急センターのCCUは、天井のダクトから排気口を設けて陰圧室に改良しています。すべて個室のため、今後、コロナの重症患者が入院する際にも活用できるはずです。

 さらに秋冬の流行期に向け、当院の駐車場にはコロナ専用の臨時病棟が建設される予定です。現在の予定では、14床の重症病棟で重症患者の集中治療管理、22床の中等症病棟で回復途上の患者のベッドとして、コロナ診療に特化します。この態勢が確立し、きちんと機能すると、本館では普段通りの通常診療を行うことができるはずです。

■地域の医療体制としては、どのような備えが必要だと思われますか。
 
 今回の当院の例でも分かるように、いったん院内感染が発生すると診療態勢を大幅に制限せざるを得なくなります。そういった医療機関が多数発生すると、周辺の医療機関に負担が集中し、地域全体の医療が崩壊する引き金になりかねません。

 そうならないよう、特定の医療機関だけにコロナの患者を集中させないように分散させ、またコロナ患者を引き受ける病院とそれ以外の患者を引き受ける病院とを分けて、役割を分担する体制作りが急務だと思います。コロナに特化した地域連携の体制作りが必要です。

 地域の基幹病院としては、今回の経験を生かし、当院がたどった経緯や問題点、有効な対策などを発信したいと考えています。他の医療機関の方々には、それを参考にしつつ、各病院の状況に合った対策を十分に練っていただくことが、今後の一つの方策になるのではないかと思います。
(文・梶葉子)

【プロフィール】
有吉孝一医師/1991年福岡大学医学部卒。沖縄県立中部病院の外科レジデントを経て、93年神戸市立中央市民病院(当時)で救命救急センター専攻医。佐賀大学医学部准教授、同附属病院救命救急センター長などを歴任。2010年神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター救急部長、13年から同センター長。