緊急事態宣言が解除され、人や経済が動き出した一方で、新型コロナウイルスと闘っている最前線の医療現場では、患者が減少し、経営状況が悪化している病院が増えている。今後、医療はどう変わるのか。



 すべての都道府県で緊急事態宣言が解除された(5月25日)後の6月上旬、本誌では全国の医師に緊急アンケート第2弾を実施。医師専用のコミュニティーサイトを運営するメドピア社の協力を得て、3日間で約1500人から回答を得た。現場の医師に聞いた。前回と同様、回答した医師のほとんどは感染症の専門家ではなく、さまざまな回答が寄せられた。

 多くの人が疑問に感じているであろう、「なぜ日本では感染爆発が起こっていないのか」問題を聞いた。ここで紹介するのは専門家の意見ではない。だが、興味深いものが多かった。

 目を引いたのは、「国民性」という言葉。この国民性と、それに近い言葉を挙げた回答は、なんと全体の15%ほど、200件を超えていた。具体的には「衛生に対する意識が、他国と比較すると高いことが理由の一つ」(岐阜・40代・眼科)、「国民の疾患に対する理解度が高い」(埼玉・50代・耳鼻咽喉科)、「要請をまじめに守る国民性」(大阪・60代・小児科)などだ。

 生活習慣などを挙げる医師も多かった。マスクをする習慣がある、家では靴を脱ぐ、家に帰ったら手洗い・うがいをしている、ハグやキス、握手をする習慣がない、箸を使って食べる、などだ。「日本語は飛沫(ひまつ)が飛びにくい言語だと、テレビで言っていた」(広島・50代・腎臓内科)、「手洗い、洗濯、洗浄などに必要な水が豊富で家庭でも不自由しない」(北海道・60代・一般内科)と、なるほど!と思うような回答もあった。

 東アジア全体で感染者数が抑えられていることから、「人種要因が大きいのでは」(東京・30代・血液内科)、「東アジアに共通する、何か遺伝子的なコロナにかかりにくい体質が関係」(岡山・40代・内分泌科)といった、免疫や体質に関する可能性を指摘した回答も多かった。このほか、結核の予防接種であるBCGを理由に挙げる回答も70件ほど。対して、「たまたま」「検査数が少ないので、そう見えているだけ」という回答を寄せる医師もいた。

■第2波に備えて専門病院を設立

 6月18日、安倍首相は海外との往来を再開させる方針を表明した。となると、現実味を帯びてくるのが第2波だ。次の感染拡大に備えて、どんな対策が必要か。

 多かったのは、専門病院をつくって、そこで集中的に感染者を診るという回答。その対極として、インフルエンザのように地域の医師が診る体制で十分という声もあった。当然ながら、そのためには新型コロナかどうかを判別する迅速診断キットが必要だという。

 広島市内でクリニックを開業しているC医師(60代)は、第2波が来たときは、インフルエンザと同じ扱いでよいと考える。

「例年、インフルエンザで亡くなる人は、2千〜3千人。新型コロナは900人余りなので、実は感染症としてはインフルのほうが怖い。新型コロナは、症状があったら地域の病院でPCRをして、早期にアビガンを投与するのがいい。そのためにはPCRも、アビガンの投与ももっと簡単にできる体制にならないと」

 最後に、「『withコロナ』で医療現場はどう変わったか」。新しい医療システムとして、多くの医師が挙げたのが「オンライン診療」。電話やスマートフォン、パソコンなどを使って遠隔で診療を行うことをいい、新型コロナの感染が拡大しているなか、4月から期間限定、特例として初診でも始まった。

 回答では、「勤務先ではオンライン診療が始まった(再診の方のみ)。この変化はよい」(大阪・30代・小児科)といった前向きな捉え方だけでなく、「時期尚早」(茨城・50代・一般内科)などの慎重論もあった。

 フリーランスの医師として、東北や関東のほか、九州の離島で診療にあたる境野高資医師(40代・専門は救急医療と小児科)は、オンライン診療について「望ましいが、課題もある」と考える。

「ずっとかかわっている患者さんで、体調も変わりないのであれば問題ないのでしょうが、初診や一見の患者さんでは、コミュニケーションエラーが生じますし、触診など具体的な診察ができません。そこは今後、議論になっていくのではないでしょうか」

 境野医師はまた、今後の医療で変わるべきこととして、「感染症も診られる救急医療の構築」を挙げる。

 4月には、急患の搬送先がなかなか決まらない、救急搬送困難事案が1週間で1658件あったことが、消防庁で報告されている。

「救急が感染対策を行っていかないと、この先の救急医療は回らなくなります。脳卒中だろうが、自転車で転んだケガだろうが、感染している前提で対応する必要があります」

 日本感染症学会によると、感染症の専門医は1560人(6月12日現在)で、しかも大学病院など一部に集中している。「感染症の専門家がもっと必要」(山梨・50代・脳神経科)なのは、火を見るより明らかだ。

 今回の経験では、国民が「感染対策に気を配るようになった」(神奈川・50代・救急医療)。その効果もあったようで、2019〜20年シーズンでインフルエンザにかかった人は、例年より大幅に減った。

 この先、新型コロナはなくならない。医療現場では、「新型コロナを今までの発熱疾患の一つとしてきちんと区別し、新型コロナだけにとらわれることなく全般を鑑みた診療を行う」(熊本・50代・一般内科)ことが、私たちは地道に感染対策を続けていくことが大切なのだろう。(本誌・山内リカ、秦正理)

※週刊朝日  2020年7月3日号