<百薬の長とはいへど、よろずの病は酒よりこそ起れ>。兼好法師は徒然草にそう記した。働き方やコミュニケーションなどに変化をもたらしたコロナ禍。酒の飲み方にも少なからず影響を与えている。で、飲み続けたい人はどうすれば?



「飲酒は自分がリラックスできる一番の方法。人生の最期まで楽しみたいと思っています。ただしこれまでも、1日の純アルコール摂取量20グラムはゆうに超えていたので……」

 そう話すのは、団体職員の男性(59)。これまでは家での晩酌に缶ビール2本と焼酎をロックで2〜3杯が平均飲酒量。ところが、ラストオーダーのない家飲みと、毎朝出勤しないでいい気楽さ、なにより四半世紀の社会人生活で初めて経験する在宅勤務など、さまざまな混乱のなか、近頃の酒量は、加速度的に増えていった。

 数週間後、瓶や缶のごみの量が以前の2〜3倍になっていることに気がつく。ほとんどがアルコールの容器だった。マンションのごみ置き場にこそこそごみ袋を運び込み、ふと、50代で亡くなった酒飲みの父を思い出したという。

「自分だって体を壊したら、酒を飲む楽しみを取り上げられてしまう。酒への愛とリスクを秤にかけ、生まれて初めて週3日の休肝日を設けることにした。たかが酒のことですが、“長く細く”飲んでいく道を進むことを固く決意したわけです」(団体職員の男性)

 冒頭にこの男性が言っていた「1日20グラム」とは、厚生労働省の「節度ある適度な飲酒」に当たる純アルコール摂取量のこと。これはビールなら中瓶1本、ウイスキーはダブル1杯、日本酒は1合、ワインは小グラス2杯など、ほんの駆けつけ一杯程度の量で、酒好きにとってはご無体な基準となっている。

 しかも「節度ある適度な飲酒」超えをしてしまった場合、待っているのは健康トラブルのデパート。厚労省の健康情報サイト「e‐ヘルスネット」には、「アルコールによる健康障害」として、肝臓病、膵臓(すいぞう)病、依存症から、メタボ、認知症、歯科疾患まで、怖い病名がズラリと並ぶ。

 たいていのことは「継続は力なり」だが、飲酒となると話は別。大変な苦労の末、酒の継続を断ち切った人たちが成功者として脚光を浴びる一方で、声は小さいが、この男性のような「絶対やめたくない派」も、一定数はいるらしい。

 健康障害や若者の酒離れなどで、酒飲みをめぐる状況は年々悪化している。そしてここに追い打ちをかけたのが、コロナ禍だ。

 例えば、ファミレスチェーンの「サイゼリヤ」は4月にビール、ワインなどに合計2杯までなどの上限を設定し、酒類の販売制限を開始。その理由として「飲酒は量が増えるに従い気持ちを大きくし、大声やお客様同士の接近も誘発してしまう場合がある」。

 たしかに!

 大分県などが「新しい生活様式」を実践しながら、実験的におこなった飲み会も、酒飲みには衝撃的だった。グラスを接触させずに乾杯したり、飛沫を防ぐフェースシールドをつけたまま飲酒する飲み会って……。


 要は、新しい生活様式に、酒をなじませるのは至難の業。いやいやウィズコロナの人生100年時代にも、長く細く酒を楽しむ方法はきっとあるはず。「それでも飲みたい」読者を引きつけて大ヒットした葉石かおり著『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社刊)を監修した「酒好き医師」、肝臓専門医の浅部伸一医師に聞いてみた。

 まず監修本の反響から。

「長年酒を飲んできた中高年からの反響が大きかった。実践しているかどうかは別にして、勉強になったという声は多かったですね」

 ちなみに浅部さん54歳。「お酒そのものに強いこだわりはない」ものの、食事と一緒に楽しむことが多いため、その楽しみは「できたらやめたくない」と考えているとか。自身も、本の監修をしてから、あらためて気をつけるようになったという。

 そんな酒をやめたくない人が気をつけたいのは、まず酒の種類だ。飲みすぎると体に負担が大きいのは、アルコールを取りすぎてしまう度数の強いお酒。

「適量は人それぞれなので、絶対にウイスキーや焼酎がダメというわけではありません。ただ、短時間に強い酒をぐいぐい飲むと、アルコール摂取量が増えやすい。そういう意味では、あまり強くない酒のほうが、飲みすぎを防げることが多いですね」

 で、問題はその“適量”。

「それぞれの適量や許容範囲を知ることが大事。たとえ同じ量を飲んでも平気な人もいれば、体にダメージが加わる人もいます。そこを見極めることが大切」

 とはいえ酔っ払ってしまえば、許容範囲の満杯ポイントはわかりにくいと思うのだが……。何か「お知らせ」はあるのだろうか。

「一番わかりやすいのが、二日酔いですね。翌日に残るようなら、飲みすぎ。じゃあ、残らないからOKかというとそうでもない。肝臓疾患はほとんどは自覚症状がないですから」

 そこで浅部さんは、定期的に検査や人間ドックを受けて、数値や超音波検査で肝臓にダメージがないかをチェックするのが、新時代の酒飲みの最低限のたしなみだと強調する。ただ、健診ではひとつ注意が。

「健診前1週間など、禁酒するのはNG。数値が変わりますから、健診の意味がなくなってしまいます」

 また、おいしいお酒のためだけではなく、普通に健康のためにも、日常生活に「適度な運動」を取り入れることもお忘れなく。アルコールを飲みすぎると脂肪肝になりやすく、肥満の人は、そのリスクが2倍に跳ね上がる。運動はその意味でも有効だ。

 コロナ禍以降は、アルコールで気持ちを晴らそうとするネガティブな飲酒の存在も取り沙汰されている。アルコール摂取のためだけに飲むようになると、依存症のリスクが生まれるという。飲みすぎたと落ち込んで、また飲みすぎてしまったり、お酒が切れるとイライラするようなときも依存症の危険信号。アルコールは脳に直接作用する一種の化学物質。気持ちだけでコントロールできないときは、注意が必要だ。

 ちなみに、あまり節制しない酒飲みが言う「我慢しているほうがストレスがたまって体に悪い」というエクスキューズ。あれって?

「医学的なエビデンスはなくオススメできません。本人がそう思いたいだけ、ということが多いですね」

 やっぱりね。このほか、意外に知られていないのが寝酒の問題点。ぐっすり眠れると思い込んで習慣にしている人もいるが、実は就寝前の酒は睡眠の質を下げることがわかってきた。酒が長く飲める健康体のために、控えるのが得策だ。

 以上、お酒を飲み続けるためにはさまざまなルールがある。でも、どれかひとつだけならやってもいい、という、わがままな酒飲みがいたら?

「何より量に気をつけるということが第一ですね。無理と思って、諦めないでください。毎日20グラムのアルコールでは少なくても、例えば1週間単位で140グラムなど、総量規制で考えればいい。休肝日を挟めば、けっこうな量を楽しめますよ」

(ライター・福光恵)

※週刊朝日  2020年7月3日号より抜粋