うつ病を克服し、偏差値29から東大に合格。ベストセラー『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』の著者・杉山奈津子さんが、今や5歳児母。日々子育てに奮闘する中で見えてきた“なっちゃん流教育論”をお届けします。

 この連載が本になりました。タイトルは『東大ママのラク&サボでも「できる子」になる育児法』です。杉山さん自身が心理カウンセラーとして学んできた学術的根拠も交えつつ語る「私の育児論」を、ぜひご覧ください。

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 小学1年生の息子は今、ひらがなとカタカナの書き方を覚えるべく、宿題のプリントにせっせと文字を書いています。そんな息子のようすを横に座ってじっと見ていると、ひんぱんに、「書き順が違うな」と気になる箇所がでてきます。

■筆圧が強いと、テストのときに苦労する

  筆順に関しては、ひらがな、カタカナの両方とも、問題集に「どちらから先に書くでしょう」という問いがあります。かつて、私が漢字を習ったときも先生から、筆順を厳しく指導されたことを思い出しました。

 ただ、私としては文字を書くにあたり、「筆順よりも優先してチェックしておくべきではないかと思うポイント」があります。
 
 まず、なかなか盲点だと思うのですが、「筆圧について」です。私はかなり筆圧が高く、そのせいでかなり苦労しました。

 長時間シャープペンをもって字を書いていると、無意識に強い圧力をかけているせいで手が痛くなってしまい、試験前や受験時など、長時間勉強するときには湿布が必要でした。それに字が濃いと、テストで間違えたところを直すとき、きちんと消せずにあとが残ってしまうことも多く、計算式の下に字が残っていて「どちらが正しい数字か混乱する」なんてことが何度もありました。

 そしてしっかりと奇麗に消すためには、時間も力も人より余計にかかります。マークシート形式のテストでは、力を入れて消しゴムをかけるせいで、別の箇所まで消してしまうことも。こうした点を省みて、なるべく筆圧をかけずに字を書けるようにしておけばよかったと、何度も悔やんだものです。

■鉛筆の正しい持ち方の考え方は、おはしと同じ

  二つ目は、「正しい形で鉛筆を持っているか」です。ここでもまた私は、正しいとされている鉛筆の持ち方と少し異なったクセをつけてしまいました。たまに、正しい持ち方で字を書いてみると、筆圧の強弱もつけやすく、握る力も弱くていいなと感じます。

 ここで特にポイントなのは、正しい鉛筆の持ち方は正しいおはしの持ち方とほぼ同じという点です。生きていく中で字の書き順なんかより、おはしを正しく持てるかという方が、ずっと指摘される頻度が高いものです。

 日本人として、食事のおはしの作法は大多数の人が厳しくチェックしています。気にする人は本当に気にするところなので、おはしの持ち方に通じる鉛筆の持ち方は、正しく覚えておくに越したことはありません。

 筆圧も鉛筆の持ち方も、年を取れば取るほど自分のクセがなじんでしまい、矯正するのが難しくなります。私も、何度か鉛筆の持ち方を直そうと挑戦はしたのですが、正しい持ち方をすると極端に書くスピードが遅くなり、字もガタガタの下手くそになります。

 ですから結局は途中で「まぁいいか」と諦めてしまい、30年以上続いている自分の握りやすい持ち方に戻してしまいます。これら二つに関しては、最初から気をつけておくべきです。
 
 さて、字を書くときの筆順ですが、私は「問題集でバツをつけるほど、こだわらなくてもいいものではないか?」と思っています。

■書き順が違くても、字が奇麗な人の文字は美しい
 
 小さいころに「筆順どおりに書くことで、最も美しい字が書ける」と教わったのですが、大人になった今振り返ると「別にそんなことないな」と思うのです。書き順があっていようが間違っていようが字が奇麗な人の字はどれも美しく、下手な人の字は下手なものです。

 うまい下手は筆順ではなく、習字や硬筆を習っていたかどうかといった要素のほうがずっと強く影響します。
 
 それに、実は、漢字の筆順は一通りだと決まっていないのだそうです。たとえば、「上」という漢字の一筆目は、「|」からでも「―」からでも正しい書き方になります。旧文部省による『筆順指導の手びき』では前者が正しいとされているのですが、第五国定国語教科書の教師用所定収では後者が正しいとされており、なんと、きちんと統一されていないのです。

 そもそも漢字は中国から伝わってきたのに、同じ漢字でも中国とは異なるものまであります。筆順はそれくらい「あいまいなもの」で、決して絶対的ではないのです。

 習字の「くずし字」を書くためには、絶対に筆順が大切と主張する人もいます。そもそも習字とは「師のまねをして書く」ものですから、師と同じ順で書かねばならないのが道理です。ただ、それら書の流派により、筆順が異なっているところが問題なのです。

■流派の筆順にしないならば切腹する!?

 文部省が『筆順指導の手びき』をつくる際、多くの書の流派が集まって議論したそうです。そのため話し合いはもめにもめ、考えていたよりかなり長い時間がかかり、そこである巨匠が「自分の流派の筆順にしないのならここで切腹する」と言い出した、なんてエピソードまであります。

 さらには、そんな『筆順指導の手びき』も、正式に文科省が出したものではなく国語課の役人の私的な出版物だ、とも言われているのです。

「選択肢がありすぎると、どれにするか選べなくなる」という、「選択のパラドックス」が起きる可能性を考えると、正しいとか正しくないとかは関係なく、「お手本の筆順」はあったほうがいいとは思います。しかし、いまいち一貫していない筆順というものを、子どもたちに強いて点数までつけるくらいなら、もっと先に別のところを注意したほうが後々有意ではないか、というのが正直な気持ちです。

  まあ、息子のあまりにもひどいバランスの字を眺めていると、筆順よりも、そして筆圧や持ち方を考えるよりも、まずはちゃんと読めるような字を書けるようになることが大切だな、とは思いますけれど。