年末から新型コロナウイルスの感染拡大傾向が顕著になり、1月13日時点で11都府県で2度目の緊急事態宣言が発出されている。収束やワクチンについて、医師たちはどう考えているのか。AERA 2021年1月25日号から。



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 感染爆発を止める可能性のある緊急事態宣言の発令を、医師たちは今や遅しと待っていた。

 年末年始、関西にある大学病院の救急外来では、救急車からの受け入れ要請を片っ端から断っていた。ある日、受け入れたのは、急変の恐れがない「しもやけ」患者の1人だけ。同病院に勤務する30代の医師は、逼迫(ひっぱく)した医療現場をこう説明する。

「12月下旬からICU(集中治療室)が空かなくなって、急変リスクのある手術や交通事故の患者を受け入れていません。輸血用血液が不足して亡くなる人も出ていて、助かる命が助からなくなっています」

■骨抜きの緊急事態宣言

 秋ごろから、GoToイートやトラベルを利用する人が増え、東京から来た人と一緒に過ごした人や、東京に行って帰ってきた人が感染するケースが増えている実感があった。クリスマス前後から重症者が急増した。

「感染者が爆発的に増えて、最前線にいる私たちはもう限界です」(同医師)

 関西では1月13日、大阪、兵庫、京都に緊急事態宣言が出された。今度こそ感染が収まってほしいと願っている。

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、医療現場の逼迫が深刻化する中、2度目の緊急事態宣言はまず7日、首都圏の1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)に出されている。発出時期について、「あまりに遅すぎる」と考える医師も少なくない。

「ようやく出されたのに、内容が骨抜きで、これでは医療現場は持たない」

 と危機感をあらわにするのは、都内の病院に勤務する内科医(41)だ。昨年春の緊急事態宣言後は、目に見えて感染者が減り、発熱患者への対応など常に緊張が強いられる医療現場も「もう少し頑張れば乗り切れる」と思えた。だが、今回の制限は飲食店の営業時間の短縮ぐらいで、映画館もデパートもジムも営業は自粛せず、イベントも開催されている。大相撲1月場所が上限5千人の観客を入れ開幕したとニュースで見たときは、体の力が抜け、ソファにへたり込んだ。

「最終カードとして期待していた緊急事態宣言がこれでは……。これ以上どう頑張ればいいのか」

 国際医療福祉大学医学部の和田耕治教授(公衆衛生学)はこう懸念する。

「1回目の緊急事態宣言と違って、学校に一斉休校を要請せず、イベントも開催される中で、市民には深刻な事態を軽くとらえる『正常性バイアス』に傾く人もいて、警戒感が伝わりづらくなっている。政府は感染状況が改善しないのなら、次の手を打っていかないと更なる危機になる」

 AERAは医師専用のコミュニティーサイトを運営するメドピアの協力のもと、現役の医師たちにコロナ禍での働き方の変化や収束の見通しについて緊急アンケートを実施。12月24日に開始し、1日のうちに1726人の回答を得た。

 新型コロナウイルスのワクチンについては、政府が2月下旬にも接種を開始できるよう準備を進めている。患者と接する可能性の高い医療従事者は優先的に接種が行われる見通しだが、医師たちに自身の接種の意向を聞いたところ、「接種する」が31.4%、「ワクチンの種類によっては接種する」が27.3%、「接種しない」と答えた人は11.8%いた。

 回答理由からは、「接種しない」を選んだ人はもちろん、接種に前向きな人たちも、国内で承認前のワクチンについて安全性への不安が払拭されていない状況が見て取れる。

「(接種は)必須かもしれないが、全く新しい構造のワクチンなので長期安全性についてはかなり不安」(都内・40代・男性勤務医)

「短期間で製造認可が下りているため、安全性については、実臨床できちんと情報をあげて、吟味する体制が必要」(神奈川県・60代・男性勤務医)

 日本感染症学会ワクチン委員会委員長の西順一郎・鹿児島大学教授も「安全性の情報がはっきりわからないと接種の判断は難しい」と話す。

「ワクチンなくして収束はあり得ないし、医療従事者として率先して打つ責任はあると考えているが、どんなワクチンか正しく周知する必要がある」

■「緊急」優先に不信感

 西さんが懸念するのが、菅義偉首相が1月4日の会見で、ワクチンを開発するファイザーに国内治験データの提出時期を2月から1月に前倒しするよう要請したと明らかにしたことだ。

「どんなワクチンもゼロリスクではないからこそ、各自が接種するメリットとデメリットを比較し納得して打つことが肝心。慎重に安全性を確認することが求められるのに、緊急性だけが優先されることは不信感につながってしまう」(西さん)

 集団免疫を獲得するために必要な接種率は、疾患によって異なる。例えば感染力の強い麻疹(はしか)は95%だ。新型コロナウイルスの接種率は正確にはわかっていないが、西さんによると感染収束のためには「少なくても6〜7割以上の接種が必要」といい、感染を抑えるためには多くの国民の納得が必要だ。

 日本、いや全世界が切望する収束の見通しについては、「21年夏までに」との回答はわずか7.1%。今年7月に開幕する東京五輪までに収束すると考えている医師は1割にも満たない。

 最も多かったのが「2年後(22年)」で35.8%。一方で、「3年後」14.1%と「4年後以降」12.5%を合わせ、4分の1を超える医師が、収束には3年以上かかると答えた。「その他」を選んだ6.5%の人たちの多くが、「収束する日は来ない」「インフルエンザのように毎年繰り返す」と考えている。

 前出の和田さんは、収束の見通しを踏まえ、こう呼びかける。

「みなさんには、少なくとも1年から2年は続く可能性があると思って、誰もが感染対策をしっかり続けていただきたい」

(編集部・深澤友紀、ライター・井上有紀子)

※AERA 2021年1月25日号より抜粋