緊急事態宣言に在宅ワーク……おこもりを余儀なくされる日々、おうち時間を楽しく過ごすことは心身の健康のために大切ですね。気軽に始められるのが本格コーヒー。コーヒーの街として人気急上昇の東京・清澄白河の人気店で、おいしくいれるこつを聞きました。



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 挽きたてのコーヒー豆の香り。ぽとり、ぽとりとサーバーに落ちていく音。口に広がるおいしさ。コーヒーは五感を豊かにしてくれる。

 在宅時間でもおいしいコーヒーを楽しみたい。ここ数年でコーヒーの街となった清澄白河は東京の下町。『喫茶人かく語りき 言葉で旅する喫茶店』(4月刊、実業之日本社)などの著書を持つカフェライターの川口葉子さんは、コーヒー好きを引きつける背景をこう語る。

「ところどころに残る下町情緒と、空の広さ、抜け感は清澄白河ならでは。古くから倉庫街でしたが、高い天井が必要なコーヒーロースターにとっては最適な環境。倉庫を改装して中小のロースターがオープンし、情報感度の高いコーヒー好きの人々が注目していたところ、2015年に米・カリフォルニア州オークランドに本社がある『ブルーボトルコーヒー』の海外進出1号店が清澄白河にできて、一躍有名になりました」

 コーヒーをテイクアウトして清澄庭園に木場公園、東京都現代美術館など、ぶらぶら歩くのも楽しい。「毎日お店で飲むソイラテが元気の源」と言う清澄白河在住の本誌デスクがすすめる人気店で、ペーパーフィルターを使ったドリップコーヒーのいれ方を取材した。
「清澄白河で最も家庭的なお店」と言われる「sunday zoo」。夫婦で週末のみ営業の小さなカフェ。店主の奥野喜治さんは開店するまで10年間、「おいしいコーヒーを飲みたくて」自宅で手網を使って焙煎(ばいせん)を試行錯誤していた。

 人柄がその一杯ににじみ出るような優しい味わいはオープン以来地域に愛され、7年経った今も途切れることなく客が訪れる。前出の川口さんも「にこやかで、コーヒーのみならず人生全般に関する知識も豊富な人生の先輩」と信頼を寄せる。

 ANA(全日本空輸)在職中にカフェをオープン。14年から定年退職までの2年間は、再雇用で週3日勤務の後、木曜日にコーヒー豆を焙煎した。金土日曜日の営業はこのころから。そんな奥野さんがたどり着いたおいしいコーヒーの基本。それはとてもシンプルだ。

「お湯の温度と量、コーヒー豆の量を正確にはかって、ゆっくりと丁寧にいれること」

 店では挽きたての豆を使う。1人分の基準はお湯220ミリリットルに豆16.5グラム。2人分なら300ミリリットルに24グラム。お湯の温度は豆の種類によって異なるが、平均で86.5度という。自宅でいれる場合は、沸騰したお湯をカップに注ぎポットに移せば、それだけで15度近く下がるという。

 ドリッパーに粉をセットしたら、中央に500円玉大の円を描くようにお湯をゆっくり注ぎ、30秒ほど蒸らす。100ミリリットルぐらい注ぐと、中央の部分と外側の色が違って目のように見える。奥野さんはこの状態を「ブラウンアイ」と呼び、抽出がうまくいっている手ごたえを感じるという。

 とにかく焦らず、じっくりと。短気は損気。丁寧にいれることでコーヒーの味わいは変わる。

 もうひとつ、豆選びも重要だ。スペシャリティーコーヒー(栽培者も明確な高品質の豆)を使いたい。都度買いをして、常に新鮮なものでいれるのが良い。「sunday zoo」では自家焙煎の豆も販売している。コロナ禍で自宅用にコーヒー豆を購入する人が増えているという。

「在宅時間が増えているから、朝と晩にコーヒーをいれて、ゆったりとした時間を作れたらいいですね」(奥野さん)

 清澄白河をコーヒーの街として有名にしたブルーボトルコーヒーの創業者は「空は青く、広く抜けている。近くに緑あふれる自然があり、私たちの拠点オークランドと似ている」と、この地を選んだ理由を語っている。

 ブルーボトルコーヒーのコンセプトは「SEED TO CUP(豆からカップへ)」。焙煎やいれ方だけでなく、産地や生産者にもこだわる。その一杯ができるまでのストーリーを感じながら味わうコーヒーは奥深い。

 店は「ブルーボトルコーヒー清澄白河フラッグシップカフェ」と呼ばれ、ここだけの限定フードメニューがあり、コーヒーに関する教室も開かれている。取材ではバリスタからいれ方を丁寧に教えてもらった。やはり「正確にはかる」基本は同じだった。

 ペーパーフィルターに粉を入れてドリッパーにセット、耐熱ガラスのサーバーにのせて準備完了。お湯1ミリリットルは1グラム。はかりにのせ、時間も計りながらドリップする。

 大事なのは注ぐタイミング。1分50秒に集中して、4回に分けて注ぐ。きちんとはかれば、だれもがおいしいコーヒーをいれられる。

 道具にも気を配ろう。気に入ったアイテムをそろえると、コーヒーをいれる時間が楽しくなる。

 新型コロナウイルス感染の収束が見えてきたら清澄白河のカフェ巡りをおすすめしたい。渋谷や銀座などの都会とは違って、下町のカフェは時間がゆっくり流れている。(本誌・大崎百紀)

※週刊朝日  2021年3月12日号