「自分が正しい」と虐待した30代父親のゆがんだ“正義” 児童福祉法改正されても解決できない悪夢とは?

「自分が正しい」と虐待した30代父親のゆがんだ“正義” 児童福祉法改正されても解決できない悪夢とは?

「親のしつけ体罰禁止」を明記した児童福祉法等改正案が19日、閣議決定された。今年1月に千葉県野田市の小学4年、栗原心愛さん(10)が自宅で亡くなり、両親が傷害容疑で逮捕された事件などを受けたもので、父親の勇一郎容疑者(41)は最初に逮捕当初「しつけだった。悪いことをしたとは思っていない」と話していた。

 日本では大人の約6割が体罰を容認し、実際に子育て中の家庭の7割で過去にしつけの一環として体罰をしていたという全国調査もある(「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が2017年に実施)。この現実をどう変えていくのか。

 DV被害者支援とDV加害者更生教育プログラムに取り組む民間機関「アウェア」の吉祥眞佐緒さんは「児童虐待が起きている家庭では、もれなく両親の間にDVがあると考えられる」と話す。そして、多くの加害者と向き合ってきた経験から「加害者は家族をコントロールする権利が自分にはあると固く信じている」と指摘する。どうして暴力が肯定されていくのか。そのゆがんだ価値観をどうやって変えていくのか。DV加害者プログラムの国内の現状や問題点について、吉祥さんに寄稿してもらった。

*  *  *
 野田市の痛ましい児童虐待死の事件では、日ごとに父親の栗原容疑者の取り調べの様子が明らかになっている。父親は「しつけだった」と一貫して容疑を否認、反省の言葉は一切出ていないという。また、虐待のほう助で逮捕された母親に対してDVを行っていたこともわかっている。こういう言動がどうして起きるのか。DV加害者プログラム参加者のケースから考えてみたい。

「常に自分の方が正しいし何でも知っている。家族は黙って僕に従っていればいい」

 加害者プログラムに通う30代のA男さんは、年下の妻と交際した当時からずっとこう考えていたと話す。趣味のサークルの先輩として、後輩のB子さんを指導する役割だったという。交際当初B子さんは、何でも知っていてリードしてくれるA男さんを頼もしく思っていたことだろう。ここまではごく普通のカップルと相違ない。

 しかし、DV加害者の本性が表れるのは結婚後、または妊娠・出産のタイミングだ。A男さんの場合は“自分のモノになった”と実感した瞬間から、冒頭の考えを強くしたという。実際に、家庭のことで何か問題があっても、A男さんの言う通りにしておけば、面倒なことにはならなくて済んだとB子さんは言う。

「私の意見を押し通してうまくいかなかったときに、何時間もそのことについてなじられることが何回もあって、あー、私って本当にダメな人間だな。全部彼の言う通りにしていた方がいいなと思うようになっていきました」(B子さん)

 A男さんのような考えを持っている人を加害者更生教育プログラムでは“正しい病”と呼ぶ。それはもちろん医学的な病名のことではない。

「自分こそが正しい。妻は何も知らないし、いつも間違っている」という、強い思い込みだ。この“正しい病”は子どもにも向けられていき、「しつけ」と言っては手を上げた。

 悩んだ末、意を決してB子さんが離婚を切り出したことをきっかけに、加害者更生プログラムに参加することになったA男さんは、事前の面談で口をとがらせ私にこう言った。

「家族は一心同体。僕の考えに従わないのなら、叩いてでも従わせるのが世帯主である僕の責任じゃあないですか!」

 加害者プログラムに通う別の男性、C男さん(40代)もこう言う。

「子どもは自分がコントロールできるからかわいいと思えるんであって、生意気なことを言ったり反抗したりした時点でがっちり(力で)抑え込んでやらなければ許せないし、この子のためにならないという義務感がありました」

 C男さんは、小さいころから父親である自分に懐かず、言うことを聞かない長男を疎ましく思い、何かにつけて暴力を振るった。一方で、自分を慕う様子を見せる要領のいい次男をえこひいきしてみせた。C男さんは妻に「長男の育て方が間違っている」と言っては、子どもの前であろうとかまわずに妻を殴った。ある日、C男さんがまた暴れ始めたときに、小学生だった長男が110番通報したことで、C男さんは逮捕され、妻が被害届を出さないことを条件に加害者更生プログラムに参加し始めた。

「妻が、父親としての権威を貶めていると思い込み、この家で一番偉いのは自分だということを示すために暴力をふるっていました」

と、加害者プログラムに参加してしばらくたってから口にするようになった。4年間プログラムに参加したC男さんは妻だけでなく、長男と次男にも説明責任を果たし、本当にひどいことをしていたと、心からの謝罪を行い、妻と子どもたちの許可を得てプログラムを卒業した。今は家族4人で同居を再開。D子さんと私は何かあればすぐに連絡をするという約束をしているが、D子さんもDV被害女性プログラムに参加してDVを見抜く力をつけたので、今は何か問題があっても二人で解決できているようだ。

 DV加害者はゆがんだ夫婦観や家族観を持っている。家族をコントロールする権利が自分にはあると固く信じているのだ。それは、自分が家族を養っているからとか、自分が世帯主だからとか、さまざまな特権意識を持っている。これらの特権意識が、家庭の中での暴力を正当化する根拠となる。背景には加害者自身の不安や自信のなさ、妻への対抗心などがあるのだが、これらの自分自身の弱みを打ち消すために相手を貶め、自分の特権意識を発動することでDVや虐待を正当化させる。DV加害者がこれらの価値観の歪みに気づき、態度・行動を変える訓練をするのがDV加害者更生プログラムだ。

 A男さんとC男さんが参加するのは、私が担当する「アウェア」で、1回2時間のグループに52回以上参加することが参加の条件となっている。卒業は妻が認めた場合のみ。グループ参加には事前の個人面談3回と、パートナー面談1回が必要で、プログラムの参加費は1回3千円。有料で期間も長いこのプログラムに自主的に参加する加害者はほとんどいない。彼らは、妻からの“離婚(別居)かプログラム参加の二択という妻命令”をつきつけられることが参加動機になっている。妻が命令をつきつけるには大きな覚悟と決断が必要だ。

 DV加害者は、参加当初は、自分の言動が間違っているとは思わず、むしろA男さんのように自分の行為に自信を持っていることも多い。A男さんはDV加害者プログラムに参加してまだ間もないが、自分の責任感は自己中心的な考えだったと気づき、もう二度とB子さんにも子どもにも暴力をふるわないために、プログラムに参加して自分の行ったDVや虐待行為と向き合っている。A男さんとB子さんは現在別居中だが、今後同居に戻るか、離婚するのかはA男さんの変化次第と、B子さんは考えている。

 海外では加害者更生プログラムへの参加を法的に規定し制度化している国がある(内閣府男女共同参画局のホームページによるとイギリス、ドイツ、韓国、台湾、アメリカなど)。日本ではDV加害者・虐待加害者を更生プログラムに参加させるための法的強制力や裁判所命令などはないので、専ら"妻命令"だけが、DV加害者更生プログラム参加の動機付けとなっているのが現状だ。つまり、日本の加害者対策はパートナーである被害者が担わなくてはならず、その負担はかなり大きい。

 それでも、被害者からの「夫には加害者プログラムに通って変わってほしい」というニーズが多いことは、内閣府の「男女間における暴力に関する調査(平成29年)」でも明らかだ。実は、DV被害者の女性が暴力を振るう配偶者と別れたケースは12.8%しかないのだ。同調査では、70%以上の女性が別れる選択をしていない。別れない理由はさまざまあるのでここでは触れないが、DV被害に遭っていても、まだその相手と別れる決意ができていない場合、役所の相談を受けるのは心理的ハードルが高い。もし栗原心愛ちゃんの両親が住む地域の関係者の誰かに加害者プログラムの情報が届いていれば……と思うと胸が痛くなる。栗原勇一郎容疑者もA男さんやC男さんと同じように、ゆがんだ家族観から家族を支配していたのだろう。今となっては単なる仮定の話に過ぎないが、悔しくてならない。

 現在も、DV加害者更生プログラムを実施している個人や民間団体がいくつもある。そして、日本初の全国組織「DV加害者更生教育プログラム 全国ネットワーク」を設立し、3月24日にキックオフ・カンファレンスを開催する。

 DV加害者更生プログラムに参加したからといって、変わる人もいれば変わらない人もいる。変わるかどうかは“本人次第”なのだが、必要な人には全国どこでも誰にでもその機会を得られるように、実施者の養成とDV加害者プログラムの周知を進めていきたい。

 これ以上DVや虐待で苦しむ人を増やしてはならなし、DVや虐待をする人も増やしてはならないのだ。(文/吉祥眞佐緒)


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