AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。



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「いま、ハリウッドが最も仕事をしたがる監督」と言われるアリ・アスター(33)。世界を震撼させたホラー「ヘレディタリー/継承」に次ぐ待望の新作で、スウェーデンのある村の夏至祭(ミッドサマー)を訪れたアメリカ人の若者たちの驚愕の体験を描いた。

「僕は自分が興味を持ったものを綴りたいし、それしかできない。この映画に取りかかったのは彼女と別れたばかりのときで、だからこれは人と人との別離を描いた、僕なりの失恋映画でもあるんだ」

 ヒロイン・ダニーと恋人は、祝祭を控えた共同体に招かれる。美しい風景と咲き乱れる花々。笑顔の人々。だがそこには古くからのしきたりや儀式が根付いていた。監督は5年前にスウェーデンのプロデューサーから「夏至祭をテーマにしたホラーを」と持ちかけられ、国の歴史や民間伝承などを詳細に調べたと話す。

「スウェーデンはある種の閉鎖的な社会で、豊かな伝統と同時に白人優性主義に基づく人種差別や暴力の歴史も持ち合わせている。でも、それはどこの国でも同じだ。僕にとって重要だったのは一見楽園のようで、美しく思える物事にも底流に醜さというものが存在すること。そしてそれは自分で見ようとしなければ、簡単に目を背けてしまえるものだ、ということなんだ」

 明るい陽光の下で起こる惨劇は、人間が根源的に持つ恐怖や「いや〜な感じ」をこれでもか、とついてくる。

「僕はすごくシニカルで悲観主義者だ。自分の見ている世界が何らかの形で作品に表れるのかもしれない。でもメロドラマも好きだし、壮大なオペラもエモーショナルをかき立てる作品も大好きだ。決してダークな世界だけを描きたいわけじゃない」

 少年時代は吃音がひどく、つらい思いをしたという。それでも幼少期に映画に魅せられ「この道しかない」と進んできた。本作では今村昌平の「神々の深き欲望」(1968年)にも影響を受けた。

「以前から日本の文化にずっと惹かれてきたんだ。特に超伝統主義と最先端の現代性がぶつかり合っているところが最大の魅力だと思う」

 初来日で日本の観客と触れ合い、より想いを強めた。

「この世のものではないもの、言葉で言い表せないものを大切にして受け入れる、そうした土壌が日本にはある気がする。アメリカでは物事が額面通りにしか受け入れられないことも多く、曖昧なものに対しての忍耐があまりないんだ」

 溝口健二「雨月物語」(53年)や小林正樹「怪談」(65年)をはじめ、新藤兼人、大島渚など、影響を受けた日本映画や監督の名が次々にあがる。文学では安部公房や、遠藤周作の『沈黙』『留学』がお気に入り。相当な勉強家にして、やさしく穏やか。目の前のチャーミングな笑顔から、あの「いや〜な物語」が生み出されるとは意外でならない。

「本当に怖いのは、物静かなヤツなんだよ」

 その笑顔の奥が、やっぱりちょっと怖いかも。

◎「ミッドサマー」
白夜の祝祭を舞台に描かれる前代未聞のフェスティバル・スリラー。21日から全国で公開

■もう1本おすすめDVD「ヘレディタリー/継承」

 監督アリ・アスターの名を世界に知らしめた長編デビュー作「ヘレディタリー/継承」(2018年)。批評家からも「現代ホラーの頂点」と絶賛され、映画史に名を刻んだ。

 緑の森の中に立つ重厚かつモダンな屋敷。その家でグラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘でドールハウス作家のアニー(トニ・コレット)は、夫と高校生の息子、そして内向的な娘(ミリー・シャピロ)と、粛々と祖母の葬儀を行う。

 しかし、その日から屋敷に奇妙な出来事が起こりはじめる。部屋に浮かび上がる不思議な光、話し声……そんななか、一家にとって最悪な事件が起こり──?!

 いまだに「いや〜な」シーン、「いや〜な」音が目と耳から離れないホラー。ミニチュアのドールハウスを効果的に使った映像センス、舞台装置へのこだわりなどに「ミッドサマー」への布石を感じる。

 洗練された現代性に「後ろに何かがいる?!」といった古典的な手法が同居する感覚は、監督がインスピレーションを受けたという日本文化の伝統と現代性のミックスに通じているのかもしれない。怖がりさんも試す価値はあり。

 ……かなり残るけど。

◎「ヘレディタリー/継承」
発売・販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

※AERA 2020年2月27日号