2020年の東京五輪、23年春の北陸新幹線敦賀開業、25年の大阪・関西万博、31年には関西空港と直結する「なにわ筋線」開業……。ビッグプロジェクトが目白押しの関西で注目されるのは、昨年12月、JR西日本の新社長に就任した長谷川一明氏(62)の舵取り。その展望を聞いた。

*  *  *
──東京五輪に向けてプランは?

「関西は外国からのお客様がここ数年ずっと伸びてきています。関西を起点として中国地方、瀬戸内地方、それから首都圏から北陸エリアなど広範囲でご利用いただいています。昨年、開催されたラグビーワールドカップでも関西や九州まで足を延ばされた訪日のお客様が多数、いらっしゃいました。東京五輪でも多くの方が関西、中国、北陸エリアにもお越しになるかと思います。中国、東南アジアや欧米豪も含めたエリアをターゲットとして、ジャパン・レール・パスの指定席ネット予約対応など電子チケット化を急いでおります。また海外の有力プラットフォームと連携し旅行会社向けのネット予約を進めてもいます」

──乗務員の英語研修はされているんですか

「はい。次はどこだとか、最低限のことは英語でも案内をしております。最初は職場研修をしても躊躇(ちゅうちょ)しながらやってましたが、たどたどしい英語も誠意を感じていい、というお客様の声をいただき、自信も出てきました。乗り換え案内などきめ細かい案内を英語でもできる社員も少しずつ増えております。主要駅では翻訳機の配備、乗務員にはWi−Fiの環境を整えてタブレットを持たせて、多言語で対応できるようにもしています。災害など非常時には駅以外でもツイッターなどSNSで中国語、英語、韓国語等でご案内できる環境を整えています。

──電車内でも外国人の観光客が多いですね

「外国人の方の大きな荷物にも対応しなきゃいけないので、JR東海とも連携して新幹線で荷物を置くスペースを工夫しております。関西空港から大阪・京都へ行く『はるか』や山陽新幹線を増強し、訪日のお客様の増加にも対応したいと思います」

──25年の大阪・関西万博に向け、玄関口となる大阪駅北を整備されるそうですね

「弊社だけでなく、関西全体で万博、IRも考慮しながらいろんな可能性を考えて街づくりをしようという機運になっています。大阪駅西側の開発は日本郵便と一緒にビルを建てて万博開催前に開業する予定です。あと旧国鉄の貨物ヤード地の半分がようやく開発が進んで参りました。大阪駅北側の『うめきた』地下に23年、新駅が開業予定で、梅田エリアから関西空港、新幹線へのアクセスの拠点となります。うめきた地下駅とJR難波駅および南海線の新今宮駅をつなぐ新たな鉄道路線『なにわ筋線』も南海電鉄と一緒に開業を計画しています。非常に重要度の高い事業です」

──今は鉄道部門の収益が6割強となっていますが、事業計画では30年度の目標はインフラ整備などの非鉄道部門との割合が5対5になっています

「長期的に考えると、少子高齢化の影響でお客様がどんどん増える状況ではございませんので、経営基盤を多角化して安定化させ、鉄道の安全投資に向ける好循環を生まないといけないと思っています。そのためには非鉄道事業面を強くしていかないといけない。非鉄道事業のメインは不動産、ホテル、物販飲食、ショッピングセンターなどです。JRの駅ナカの開発だけではなく、街ナカにも乗り出します。大阪だけではなく、神戸の三ノ宮駅ビルの建て替え、広島駅の開発もやります。広島電鉄さんの路面電車が駅ビルの2階へ入っていく、という日本ではあまり見られないモダンな駅ビルになります。金沢、富山など北陸新幹線沿線の街づくりにも関わりたいと思っています」

──北陸新幹線が23年春に福井県の敦賀までつながります。最終的に大阪までつながるのですか?

「敦賀が当座の終点ですが、そこから新大阪まで延ばしていきたいと思っています。政府の当初の案では46年とされていますが、何とか30年代初頭には新大阪まで開通させたい。それが北陸、関西地域の官民挙げての悲願です。いま、北陸新幹線の終着駅になっている金沢は本来、関西圏との結びつきが非常に大きかったんです。例えば金沢エリアの学生さんは大学を受けるのも地元の次は関西というのが基本だったんです。それが北陸新幹線ができて、首都圏との利便性がよくなり、地元でなければ東京に行きたいとなりつつあります。関西財界ではかなり危機感があります」

──北陸新幹線は去年の台風による大雨で水没しました。影響は残っていますか?

「新幹線の10編成が水に浸かりました。そのうち8編成が東日本の所属車両で、2編成が弊社のもの。相当な泥水に浸かり、搭載した電子機器も水をかぶったため、使えなくなり、10編成とも廃車にします。新たに作らないといけないので、10編成納入するのに時間がかかっております。JR東日本の車両を回してもらって何とか定期列車便ベースでは災害前の状況に戻せましたが、臨時列車のベースではまだ100%戻せておりません」

──JR九州でも熊本地震で新幹線が脱線しました。大規模な災害への対策は?

「一つは自分たちの防災強度を上げていく取り組みをしなくちゃいけないと思います。例えば、土木構造を強化して雨に強い鉄道にする。地震のための耐震補強なども実施しています。阪神・淡路大震災以降、国の基準も変わり、鉄道各社は大急ぎで工事を進め、完成期に入りつつあります。それだけではなく、土を盛って高台になっている線路の耐震性を強化したり、豪雨対策として雨でも崩れないようコンクリートで覆ったり、岩盤に打ち付けて固定するような工事をして災害に強い設備を整備していかないといけません。さらに今後は豪雨で電気設備が浸からないように高いところに設置するなど検討を進めていきます」

──最近は台風、ゲリラ豪雨など想定外の災害が頻発しています

「台風があった14年、私どもは京阪神圏で一斉に計画運休をしました。これが国内では初めての計画運休で、結果的にあまり大きな台風が来なかったので、当時はお客様からお叱りを受けました。だが、防災関係の先生方から『これがタイムラインという考え方で、先手の災害対応の防御的手段なのだ』とマスコミを通じて仰っていただき、徐々に計画運休が浸透してきました」

──去年、東京でも台風で計画運休しました

「首都圏なんかは関西と違って規模が、人の数が違いますから、実際、大変だっただろうなとは思います。それでも社会の中で認知されつつあるのは冷静に対応いただいているということだと思います。私どもは05年に福知山線列車事故という極めて重大な事故を惹き起こした責任の重さを、痛切に感じております。被害者の方々の悲しみは時を経ても癒えません。『鉄道は安全なくしては成長なし』を肝に銘じ、全力を尽くしていきたいと思います」

(本誌・森下香枝)

※週刊朝日  2020年2月21日号