東京医科大学が女子や浪人生を差別していた入試不正を違法とした東京地裁判決。女性差別の撤廃と消費者保護の両面から、極めて大きな意味を持つ。消費者保護の側面から同問題に迫ったAERA 2020年3月23日号の記事を紹介する。



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「得点調整は法の下の平等を保障した憲法や、公正かつ妥当な方法で入学者を選抜することを定めた学校教育法の趣旨に反する」

 2018年に明らかになった東京医大の不正入試問題をめぐり、得点調整で不利益を被った女子や浪人生に受験料などを返還するよう大学側に命じた3月6日の東京地裁判決。この訴訟は、二つの大きな意味を持つ。一つは、不正入試の違法性認定。もう一つは「消費者裁判手続き特例法」(以下、特例法)に基づく消費者被害回復裁判の初の判例という点だ。

「少額多数被害の救済の道が開かれた」

 こう歓迎するのは、全国消費者団体連絡会の小林真一郎事務局次長だ。

 1人あたりの被害額が数万〜数十万円と比較的少額で、被害者が多数に上る「少額多数被害」は悪徳商法などの消費者トラブルの特徴だ。このため、個人が民事訴訟を通じて被害回復を図るには費用や労力が見合わず、泣き寝入りさせられるケースが多い。こうした実態を目の当たりにしてきた小林さんは長年、消費者救済制度の確立を訴えてきた。その目玉が、今回の消費者被害回復裁判なのだ。

 トラブルに巻き込まれた消費者を救済するため、国に認定された「特定適格消費者団体」が被害者に代わって裁判を起こすことができるこの制度は、16年施行の特例法で導入された。第1段階の裁判で事業者に支払い義務があると認められれば、第2段階から被害者が参加し、裁判所が支払額を決める。消費者の負担を減らし、被害を迅速に回復する狙いがある。

 今回、受験生らに代わって原告となったのはNPO法人「消費者機構日本」だ。医学部の不正入試問題では、文部科学省が全国81大学の医学部を調査し、10大学を不適切またはその可能性が高いと指摘した。同機構は昨年10月、同じ手続きで順天堂大を提訴。昭和大については、裁判外で受験料の返金などの問い合わせをしている段階だという。

 訴訟を提案した白井晶子弁護士は、入試での差別が発覚した18年当時をこう振り返る。

「非常に腹立たしく感じて、だれか裁判を起こさないかなと思いました。そのとき、これ(特例法に基づく裁判)を使えばいいんじゃないって、ふと思い浮かんだんです」

 日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会委員でもある白井弁護士は、特例法施行後も提訴に踏み切るのに適切な案件が見つからず、制度を生かしきれていないジレンマがあることを知っていた。

 消費者機構日本の代表理事に特例法の活用を提案したところ、間もなく訴訟方針として採用され、自身も弁護団に加わることになった。白井弁護士は今回の判決の意義をこう語る。

「私立大学も受験の公平性を確保する義務があること、入試における女性差別という重大な問題が憲法の趣旨に反するとはっきり言ってもらえたことで、差別をなくす社会の実現を図るための積み重ねを一つ、着実に刻むことができたと思います」

 ただ、消費者被害回復裁判には限界もある。

 特例法は「労働契約を除く」と規定しているため、就職や雇用の場における女性差別の被害回復への活用は困難だ。また、迅速な被害回復を図る観点から、個人差のある慰謝料などは賠償の対象外とされている。今回認定された元受験生に支払われる賠償金も、4万〜6万円の受験料などにとどまる。消費者機構日本の磯辺浩一専務理事はこう指摘する。

「属性に基づく得点調整は教育機関としてあるまじき行為。本来、受験生の慰謝料も請求したいのですが、消費者被害回復裁判では制度上できないのです」

 磯辺さんは特例法の「使いにくさ」は他にもあると指摘する。

「個別性が高いと使えないのに加え、事業者が賠償に対応できるかを考慮する必要もありますし、特例法の施行以前の契約は対象外です。消費者トラブルをめぐるさまざまな情報提供を受けても、訴訟に踏み切れないケースが多いのが実情です」

 消費者機構日本によると、特例法を活用した裁判は東京医大、順天堂大を相手取ったものと、「仮想通貨で誰でも確実に多額の利益を得られる」などとしてDVD等を販売していた業者らに対し、代金返還義務の確認を求めているものの計3件にとどまるという。「施行から4年目にしてようやく初判例が出たことは、制度上の課題や限界を示すものだ」(前出の小林さん)との指摘もある。(編集部・渡辺豪)

※AERA 2020年3月23日号より抜粋