作家・林真理子さんの連載「マリコのゲストコレクション」は今年、連載開始25周年を迎えます。ご登場いただいたゲストの貴重なお話が満載。その中から、珠玉の「元気が出る言葉」を厳選しました。2005年6月10日号から歌舞伎俳優・中村勘三郎さんです。



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 人気、実力ともに兼ね備えた平成の名優、中村勘三郎さん。古典はもとより、コクーン歌舞伎や、現代演劇人とのコラボなど、歌舞伎に新たな境地を開拓した立役者でもありました。対談は、十八代目・中村勘三郎の襲名披露興行中に行われたもの。「観客第一」がモットーなだけあり、涙に笑い、真剣な表情にべらんめぇ口調と、変幻自在の話芸にマリコさんも釘付けで──。


中村:襲名披露公演ってすごいもんですよ。生まれて初めて自分のためだけにみんなが出てくれるわけですから。3月3日の口上なんか、恥ずかしいぐらい泣いちゃった。

林:初日ですね。

中村:そうです。ズラリと座って幕が開くのを待ってたんですけど、だんだん、えもいわれぬ恐怖に襲われてきて。でも、幕が開いたら、痛いくらいの拍手だったの。これでまずジーンときて、そしたら、いつもはクールにポソポソしゃべる芝翫の父が、「十八代目! 中村勘三郎を襲名……!」って大きな声を出したから、それでまたグッときちゃって。

(中略)

林:口上の中で、富十郎さんでしたか、「野球は長嶋、歌舞伎は勘三郎と言われるように頑張ってほしい」とおっしゃったけど、勘三郎さんを見ていると、次は何をやってくれるんだろうってワクワクします。

中村:ま、一生懸命いろんなことをね。勘三郎になって、「もうコクーン歌舞伎には出ないんですか」とかよく聞かれるんだけど、あのニューヨークのブルックリン橋で撮ったポスターを見てもらえれば、一目瞭然なんですよ。勘三郎になっても、まだまだこんなばかなことをやるんだということがわかる。

林:橋をバックに、裃をつけて座っている写真ですね。

中村:あれが俺にとっての口上なんですよ。金屏風の前もいいけど、俺はブルックリン橋だよ、もとは河原乞食なんだよという……。(中略)

林:でも勘三郎さん、昼の部、出ずっぱりで、1時間後にはまた夜の部で、とても人間ワザとは思えない。

中村:いま、体力ありますから。

林:体力だけじゃないような気がします。すごい気迫を感じますよ。

中村:この前、体を調べに行ったんですよ。お医者さんが言うには、どこも悪くないんだけど、ただ、ドーパミンという脳の興奮系のホルモンが、人の3倍も出てるんですって。「それってどっか悪いんですか? ドーピング検査に引っかかるんですか?」って聞いたら、「いや、それとは全然違います」って。コントみたいな話でしょ(笑)。(中略)

林:でも、初日に芸者さんたち、きれいどころがずらっと桟敷に並ぶとか、ああいう古風で華やかな伝統は続いてほしいですね、個人的には。今回は京都からもいらしたとか?

中村:ええ、総見、やってくれました。先斗町も祇園町も。

林:ふだんから遊んでなければ、なかなか来てくれないでしょう。

中村:そうですねえ。これは歌舞伎では初めてなんですけど、楽(千秋楽)の前の日、銀座の総見があるんですよ。銀座のきれいなお姉さんたちが並んでくれるんです。知り合いのクラブが中心になって。

林:わかった! あの超高級クラブですね。昔、黒木瞳さんが「化身」に出るんで、勉強のためにバイトしてたお店。知らないで勘三郎さん、黒木さんを口説いたんですよね。

中村:アハハハ、そう。「かすみ」って名前で出てたんですよ。えらいきれいな人がいるんだと思って、アフターを誘ったのよ。「おすしでもどう?」って言ったら「はい、どこでも」って言うから、六本木のすし屋に連れてったの。入ったら、「私、生ものダメなんです」って。殺してやろうかと思った(笑)。そのあと、ほんとは女優さんだったってことを知って愕然としてさ。ひどい女です、あれは。

林:私もその伝説はいろんなところで聞きました。

中村:伝説じゃなくて、ほんとの話なの。口説いたのは俺と小林薫(笑)。

※週刊朝日  2020年5月8‐15日合併号