トラックドライバーたちはなぜ路上やコンビニの駐車場で仮眠するのか? ハンドルに足を上げる理由は? 「ケーキ4500個」を手作業で積み下ろしすることなどを求められるドライバーたちの現場を、自らも同業者だった橋本愛喜さんがレポートし、『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書、760円※税別)として発売された。

「コウジョウにはラジオ体操や朝礼があるけれど、コウバにはないんですよ」

 橋本さんの父親は、神奈川県内でプラスチック部品用の金型を研磨する工場(こうば)を経営していた。しかし、父親は橋本さんが大学卒業直前に急病で倒れた。「オマエが跡継がなあかんで」と言われて育った橋本さんは、工場を継ぐことを決心。父親を慕う「ヤンチャ」な工員さんたちの信頼を得ようと、4トントラックに乗ることから始めた。

 第1章「トラックに乗ると分かること」では、大型免許取得のため教習所に通う様子が綴られる。初めてアクセルに右足、クラッチに左足を乗せたとき、「ここまで股を広げなければならないのか」と驚き、戸惑うなど、女性目線で経験を振り返る。

「編集者さんに自分がトラックに乗った経緯も書いてと言われたんですが、もう読まれるのはめちゃ恥ずかしいです」

 第4章「高い運転席だから見えるあれこれ」と第5章「物流よ、変われ」では、深刻化するトラックドライバー不足と高齢化について書いた。その中でも本書執筆中の2019年9月に、横浜市神奈川区で起きた京浜急行電車と大型トラックとの衝突事故には、特にこだわった。

 亡くなったドライバーは67歳の男性。運転歴約20年のベテランながら慣れない道を迷走した果ての事故だった。「物流の需要が高まるなかで、しわ寄せがドライバーに押し寄せた結果だった」とみる。

 橋本さんは事故現場付近を6回も訪れた。その理由を問うと「踏切に供えられた花が枯れているのを見て、この男性に家族がいたら、まわりの雑草をきれいにするんじゃないかと想像して寂しい気持ちになると同時に、この事故は道路使用者全員が真剣に考えるべき事故だと思ったからです」。

 現場に通いつめることで、一方通行や高さ制限の標識がもっと余裕をもって判断できる前方にあればと思うとともに、「もし、迷い込んだ際に警察に誘導の助けを求めていたならば、といろいろ考えてしまいます」。

 ドライバーの家族を取材することは考えなかった。「自分自身が彼だったら、そっとしておいてほしいと思う。なにより亡くなった個人の話にしたくなかったこともあります」

 工場は13年に廃業した。いまは隣の会社の看板がかかる元工場に案内してもらった。そこで、手を見せてもらうと、細長い利き手の中指が反り返っていた。工場で10年間、手作業で研磨を続けてきた痕跡だ。

「工場を閉めていちばん嬉しかったのは、爪を伸ばしマニキュアができるようになったことです」

(朝山実)

※週刊朝日  2020年5月8−15日号