今から約40年前、小中高生らが模型店、玩具店、デパートに長い行列をつくった。



“ガンプラ”──。現在までシリーズ作品が連綿と続く、アニメ『機動戦士ガンダム』のプラモデルを求めるファンの列だ。アニメに登場するモビルスーツやモビルアーマーが次々とキット化され、入荷するたびに飛ぶように売れ、ブームは社会現象化した。

『機動戦士ガンダム』の最初のテレビシリーズが放送されたのは、1979年の4月から翌年1月まで。実は『機動戦士ガンダム』の人気が爆発したのは放送終了後のこと。本放送では視聴率が低迷し、数話短縮されて放送された。

 ガンプラ最初の商品、定価300円の「1/144 ガンダム」が発売されたのも、アニメ放送が終了した半年後の80年7月。作品に魅せられた一部の熱心なファンのリクエストにバンダイがこたえた形だった。アニメに登場したモビルスーツが、当時としてはそのまま立体化されたかのようなリアルさで商品化されたことでファンを喜ばせた。

「デザインもよく再現されていて、すごく可動する。それまでのキャラクタープラモデルは、ゼンマイやモーターで動くような低年齢向けのものだったのですが、ガンプラはディスプレイモデルとして登場しました。そこに驚きました」

 と語るのは、バンダイスピリッツホビー事業部シニアアドバイザーの川口克己さん(58)。川口さんの名前に、ピンとくるガンダム世代は少なくないのではないだろうか。当時、川口さんは模型誌や児童コミック誌などで、プロモデラーとしてガンプラの作例を次々に披露し、時には「川口名人」と呼ばれることもあった人物だ。ガンプラ発売前に、自作のモビルスーツを作り上げたこともある。

 川口さんは85年にバンダイに入社、作り手から送り手側としてガンプラ40年の歴史を見守り続ける存在だ。そんな川口名人が、ガンプラ40年の歴史をひもといていく。

 ガンプラが、当時の川口さんも驚くような製品として開発されたのは、なぜだろうか。

「ガンダム本放送のころから本格的なプラモデルが欲しいという声をあげていたのは、子供たちよりもどちらかといえばハイティーンでした。その世代をターゲットと考えたときに、動かして遊ぶよりもディスプレイモデルとして飾って楽しむという思考になるだろうという判断になったと、先輩方から聞いています。バンダイではアニメのディスプレイモデルとして、他のアニメ作品の製品化を行っていて、そのヒットの経験からも、形をしっかり作ろうということになったようです」

 当時、何度も行列に並んだというブーム直撃世代のファンが振り返る。

「アニメに登場するようなスタイルにもっと近づけたいと、プラ板やパテで初めての改造をしたり、ジオラマでアニメの名場面を、雑誌の作例をまねて再現したりしました」

 川口さんら雑誌で作例を披露するモデラーたちは、彼らの憧れの存在であり、ブームの牽引役でもあった。

 川口さんとモデラー仲間たちは、それまで戦車や戦艦、飛行機に自動車など、実物を精巧に再現する、いわゆる「スケールモデル」の制作を楽しんできた人がほとんどだった。

「初めはテレビのアニメのイメージに近づけるものを作っていたのですが、作り込んでいくうちに、自分たちがやってきたこと、得意な表現を盛り込んでいくようになった流れはありました」

 ガンダムは、それまでの、侵略者と戦うといったロボットアニメとは違い、人間同士のリアルな戦争をテーマにした作品であるところも大きな人気を生んだ要素のひとつ。そこに登場し戦場で使用される「兵器」としての視点でガンプラを見た場合のリアルな汚れやダメージの表現、おもちゃっぽい塗装ではなくトーンを落とした色合いや迷彩、機体のマーキング(注意書きや部隊番号など)、さらにアンテナやハッチ、ビス止めといった細かなディテール。

「モビルスーツのデザイナーの大河原邦男さんが描いたイラストに、マーキングやディテールが描き込まれるようになり、僕らもそれを取り入れるのもアリなんじゃないかと。現在の『ガンプラは自由だ』という姿勢にも、作りたいように作るという意味でずっと受け継がれていると思います」

 川口さんらがスケールモデルの方法論を持ち込み、ガンプラなりの「リアル」が追求されるようになっていき、当時のガンプラ少年たちのホビーライフに革命が起こった。川口名人らの作例をお手本に、見よう見まねでガンダムをミリタリー調のカラーで塗ったり、ザクの肩幅を狭めてみたり、銀色の塗料で塗装がハゲた表現を行ったりするようになった。

 やがてアニメに登場するすべてのモビルスーツの製品化どころか、設定のみ存在しアニメには登場しなかった幻の4種の水陸両用モビルスーツまでが製品化された。ここからガンプラが次のステージに移行する。

 アムロが乗ったガンダムの試作機という位置付けのガンダム「プロトタイプガンダム」や、重装甲で火器も強化した「フルアーマーガンダム」、砂漠や水中など機能を特化させたりニュータイプ用の実験機となったザクといった、アニメの世界観をさらに「リアル」な方向に特化させ追求する「MSV(モビルスーツバリエーション)」のシリーズが83年からスタートする。その設定付けに関わっていた一人が川口さんだった。

「一番最初のシリーズで、もっとこうだったらよかったねといった部分、僕たちが手を入れたり改造して作っていたりした形状を、商品として出せたらすごくうれしいよね、という意向が反映されているんです。つまり、ここで一度ガンダムやザクにリメイクがかかったわけなんです」

 そのときのバンダイの技術で、モビルスーツのリメイクを行う。それが繰り返され続けることが、ガンプラ40年の人気の秘密でもある。

「もちろん原典はテレビアニメなのですが、それがもし実際にあったらどうなのか、と考えて開発することが、のちに続くシリーズでも、常にある考え方です」

(本誌・太田サトル)

※週刊朝日  2020年7月3日号より抜粋