東京都の新型コロナウィルスの感染拡大が、再び危険水域に入っている。都内の新規陽性者は7 月9日から13 日まで5日連続で100人を超え、中でも7月10日には過去最多の243人を記録した。こうした経緯に、いよいよ感染第2波も来たのではないかと指摘する専門家もいる。



 そんな中、都知事選に「圧勝」した小池百合子東京都知事がしきりに口にするのが「夜の街」。記者会見でも「接待を伴う飲食店で働くホスト、ホステスといった夜の街での感染が拡大している」という趣旨の発言を繰り返している。
 
 中でも焦点が当たっているのがホストクラブだ。豊島区は7月9日から、区内の全ホストクラブ9店舗の従業員を対象にPCR検査を実施。100人以上のホストらが対象だという。クラスターの発生した店舗には休業要請し、10日以上の休業をした店には50万円を支給するとしている。小池氏はこれについて、「区を財政的に支援していく」と援護射撃した。豊島区は小池氏の国会議員時代の選挙地盤だ。小池氏は「夜の街対策は緊急の課題で、豊島区を一つのモデルケースにしたい」とも語っており、意気込みがうかがえる。
 
 では、こうした流れを渦中のホストクラブ側はどう受け止めているのか。記者は、実際にクラスター(集団感染)が発生した池袋のホストクラブを訪ねた。
 
 訪問したのは深夜12時ごろ。店に入ると、薄い紫や水色のライトが店内を照らし、華やかな雰囲気。キャストたちがマスクをして接客をしていること以外は、通常時のホストクラブとの違いは感じられない。ソファのあるゆったりとした部屋に通されると、3人の運営スタッフが交代で取材に答えてくれた。

 20代の運営スタッフは「うちの店では40人の従業員がいますが、全員がPCR検査を受け、このうち28人が陽性でした。私も陽性でした」と、衝撃の事実を打ち明けた。

 このスタッフは、クラスター発生の経緯をこう語る。

「6月23日、店の代表に38〜39度くらいの熱が出て、検査を受けたら陽性でした。同じ日にもう一人、陽性者が出たんで、その時点で店を閉めようとなって、保健所に連絡して、全員が検査を受けることになったんです」

 それから毎日、キャストたちは3〜4人ずつ、交代でPCR検査を受けたという。30代の運営スタッフはこう話す。

「私も陽性でした。無症状でしたが、八王子のホテルに10日間、隔離されました」

 陽性だったキャストや運営スタッフはほとんどが無症状だったが、陽性が相次いでいることから、PCR検査の対象は店の客にも拡大された。

「最初に陽性が出た6月23日の前後5日間に来店されたお客さんにも、キャストそれぞれが連絡して、数十人が検査を受けました。40人くらい受けたんじゃないか。そのうち数人か陽性だったそうです」(前出の30代の運営スタッフ)

 2番目に陽性だとわかった30代のマネージャーの場合、6月25日から7月2日まで、東京都墨田区両国のアパホテルで隔離されたという。アパホテルは陽性患者の受け入れを公表している。

「味覚がちょっと悪くなって、鼻もちょっと悪かった。アパホテルでは感染者ばかり100人以上が宿泊していました。毎日、午前8時半から検温があり、指先をチェックして酸素濃度を測っていました」

 朝昼夜の食事時には館内放送があり、この時だけは1階に降りる許可が出た。

「弁当を取りに行くのですが、ほかの隔離されている人たちには話しかけない、接触しないのがルールだと言われていました。お弁当はこんな感じです」

 と言って、ホテルで配られた弁当の写真を見せてくれた。大きめのエビフライが2本、スパゲティ、温泉たまご、サラダ、ご飯がパックに入っていた。

 冒頭の20代の運営スタッフは、みずからの隔離体験をこう語る。

「私は37.2度の熱が出て、病院に5日間、ホテルに5日間滞在しましたが、病院は風呂にも入れず、きつかった。ホテルの方が食べ物もよく、差し入れもあったし、天国でしたね」

 この店では何故、クラスターが起きたのだろうか。前出の30代の運営の男性はこう証言する。

「うちは4〜5人が共同生活する寮がいくつかあるので、一人出たら家庭内感染と一緒で、生活する中で広がったのかもしれません。お客さんからだったのか、誰から感染したのかはまったくわかりません」
  
 ただし、店としてもっとも盛り上がるシャンパンコールには問題があったと振り返る。

「シャンパンコールの時には、キャストたちが集まって、音楽のリズムに乗って、マイクでしゃべりまくって盛り上げていたんです。飛沫もあったでしょう。開けたシャンパンはキャスト3人で回し飲みしていました」(30代の運営の男性)

 クラスターが発生してからは、シャンパンは1本を1人にし、回し飲みをやめた。シャンパンコールは続けているが、「なるべく飛沫がとばないようにしています。アルコールを注ぐグラスも使い捨てできるよう、紙コップに変えました」(同)

 ところで、豊島区はなぜ、ホストクラブのPCR検査に特に力を入れているのだろうか。豊島区の池袋保健所健康推進課に尋ねると、担当者はこう語った。

「業種をまるごとPCR検査しているのはホストクラブだけです。1店舗で集団感染もあったものですから、リスクの高さを感じてホストクラブ業種を検査しています。他の業種はやっておりません。キャバクラの従業員は何人か検査したことはありますが、キャバクラ業種全店舗の検査ということはしていません」

 検査に必要な経費は区が負担するという。

「保健所の近くで場所を設定して、ホストクラブの従業員の予約を取って、順番に一人一人、検体をとっています。拒否する店はないんですが、返事がまだないところがあり、お返事は保留だなと思っています」

 一方、こうした区の方針に対し、ホストクラブ側からは不満の声も漏れた。まず、10日以上休業した場合に50万円を協力金として出すという区の方針に対しては、前出の30代の運営スタッフはこう語る。

「休業要請があれば従いますが、10日以上休業して50万円じゃ、全然、うれしくはない。うちは家賃だけで月に200万円から300万円かかっているんです」

 前出の20代の運営スタッフは、ホストクラブが諸悪の根源のようにターゲットのように扱われていることに不満があるようで、こう話す。

「夜の職業に対して偏見があるんでしょう。ホストクラブはもともと悪いイメージなので。あとは話題として面白いから、やり玉にあげられてるんじゃないですか」

 店ではテーブルごとに消毒液を置き、検温もしている。内勤スタッフの一人は、感染症対策には自信を持っているとして、こう話した。

「PCR検査を受けているか、わけわかんない店よりも、ホスト全員が受けたうちのような店のほうが、お客さんの女性からも安心できると言われています。小池百合子さんにも一度、店に来てもらいたいですよ。これだけ、うちは対策をとっていることを見てもらいたい」

 いつの間にかコロナ対策の「最前線」になっていたホストクラブ。こうした対策で本当に、感染拡大を抑え込むことができるのだろうか。医療ガバナンス研究所の上昌広理事長はこう指摘する。

「池袋や新宿だけが『夜の街』ではないでしょう。同じような街はたくさんあるのに、一部の街や業種だけをやり玉に挙げて意味があるのでしょうか。『夜の街』は批判しやすい一方で、それ以外の多くの仕事について、職場などで感染が広がっていないかどうかは、検査をしていないからわからない。仮に検査の網をほかの業種にも広げれば、クラスターは数え切れないほど出てくると考えられます」

(本誌・上田耕司)

※週刊朝日オンライン限定記事