新型コロナウイルスの影響で、企業の経営環境が悪化している。勤務する会社で突然の肩たたきが起こる可能性もある。そのときどう対応すればいいのか。AERA 2020年7月20日号では、退職勧奨に負けない備えをレクチャーする。



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 日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」でも、緊急事態宣言以降にコロナ関連の相談が急増したという。たとえば、ある相談者はコロナに伴う業績不振を理由に、給与3割カットに応じる書類に署名捺印を迫られた。拒否すると、会社側は解雇に踏み切る構えを示したという。

 また、別の相談者も同じく給与3割カットを強要されてそれを拒むと、やはり解雇を告げられた。しかも、その会社は国から雇用調整助成金の支給を受けていた。同制度は、コロナの影響で売り上げが減少し、やむをえず休業手当を支給しながら従業員を休業させている企業を対象としたものだ。

 どちらのケースも不当解雇の可能性が考えられるし、そもそも給与の減額は、雇っている側が一方的に決められるものではない。さらに、奇策で実質的に給与の減額を画策する企業もある。ある相談者は、売り上げ急減を踏まえて休日を増やし、該当日の給与は支払わないと経営者から告げられたという。

■密室での協議は拒絶

 会社都合で休業となった日の給与を支払わないのは、労働基準法に違反している行為と言えよう。こうしたケースは、弁護士や労働基準監督署に相談して会社側と闘うことも可能である。

 だが、経営者や人事担当者の執拗な「退職勧奨」に根負けし、不承不承で退職届を書かされた場合は面倒だ。弁護士ドットコム取締役の田上嘉一弁護士によれば、退職を求める際に精神的に追い詰めていくなどのパワハラを伴っていれば「法的に争うことも可能」と言う。

「ただ、密室での交渉なので、やりとりの録音データのような物的証拠が欲しいところ。あるいは、その手の話を切り出されたら、密室での協議は拒絶したほうがいいでしょう」

 総務省による労働力調査5月分では、勤め先の都合や定年退職など「非自発的な離職」が前月比で7万人増となった一方で、自己都合による「自発的な離職」も4万人増となっていた。後者には、実態としては会社都合による非自発的な退職でありながら、会社側に言いくるめられ「自己都合」扱いとなっているケースが紛れ込んでいる可能性も考えられる。

 だが、軽率な同意は禁物だ。というのも、会社都合であれば失業保険給付(失業手当)はハローワークで求職の申し込みをしてから7日後(口座への入金は約1カ月後)だ。しかし、自己都合のケースは「7日+3カ月後」の入金となってしまう。加えて、自己都合のケースでは退職金が減額されることもある。

 会社側に泣きつかれて、ついついその要求を受け入れてしまうというケースも考えられるだろう。コロナ感染拡大に伴う世界的な経済活動の停滞で多くの企業がピンチに陥っているだけに、「こんな状況では解雇されても仕方がない」と思いがちな風潮もうかがえる。

■「整理解雇」に法は厳格

 しかし、その考えは間違っていると訴えるのは、日本労働弁護団常任幹事の嶋崎量(しまさきちから)弁護士だ。

「そもそも正社員の解雇は、客観的な合理性と社会通念上の相当性がなければ、無効となります(労働契約法16条)。そして、コロナショックのような経済危機を理由とするものは一般的に『整理解雇』と呼ばれ、通常の解雇よりも厳格に規制されると解釈されています」

 整理解雇とは、経営上において人員削減が必要と判断して実施する措置であり、雇われている側には何ら責任のないもの。そこで、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避努力を尽くしたこと、(3)解雇される者の選定方法の合理性、(4)手続きの相当性といった四つを満たさなければ認められないというのが過去の判例に基づく解釈である。

「たとえば(1)に関しては、収支や借入金、役員報酬の動向などが考慮されるとされています。会社全体の収支がさほど悪化していない、借入余力がある、役員報酬が従前通り、コロナ対策で拡張された雇用調整助成金の特例を検討・活用していないなどといったことが確認できれば、解雇が無効となる方向で考慮されます」(嶋崎弁護士)

 ただ、会社側もこうした事情を把握しているので、巧妙な手を用いてくるケースも見受けられる。正式に宣告するとトラブルになりうることを踏まえて、解雇するつもりだから退職届を出せと要求するというパターンだ。嶋崎弁護士はこう続ける。

「会社側が退職届を出させようとするのは、解雇がもたらす事後トラブルの回避や、会社都合の退職者数の増加で助成金が得られなくなることの防止などが理由。しかし、自ら退職届を出してしまうと、不当解雇に対して司法で争う道が狭められてしまいます。こうした要求は、断固拒否すべきです」

 うっかり要求をのんで退職届を出してしまった人もいるはずだ。嶋崎弁護士によれば、労働法は「真の同意」があるかどうかに関して厳格で、錯誤(意思表示の誤り)による無効と判断される可能性もあると言う。

「それに退職を強いられたことが判明すれば、先の失業手当も雇用保険法ですぐに受給できる可能性もあります」

 コロナだから、といろいろあきらめるのはやめよう。(ライター・大西洋平)

※AERA 2020年7月20日号より抜粋