「医療体制は逼迫していない」。そう国は繰り返すが、新型コロナウイルスに対応する病院の減収が相次いでいる。AERA 2020年7月27日号から。



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 東京都練馬区の大泉生協病院では、3月、発熱したなど新型コロナ感染が疑われる人がまず受診する「発熱外来」をはじめた。齋藤文洋院長(57)は「発熱外来も丁寧にやればやるだけ、コストがかかります」と話す。

 PCR検査の判定がない“コロナ疑い”の状態では、重症でも現場の判断で入院させることができない。

 ある日の朝、45歳の患者が、発熱外来を訪れた。すぐに人工呼吸器が必要な重症とわかった。CTの肺の写真で新型コロナとほぼ確定したが、当時はPCR検査の結果が出るのに数日を要した。検査の結果が出ないうちは疑い扱いで、受け入れ先を決められない。心肺停止のリスクがあるので、現場は付きっきりになった。夕方にようやく疑い患者でも入院できる搬送先が決まり、医師が病院まで付き添った。この間およそ10時間、この患者に携わった医師や看護師、薬剤師らは15人以上に上る。だが、診療報酬は5万1千円だった。

 患者数は約3割減り、4月は1800万円の減収になった。

「ウイルスの終息が見えないので、今は赤字を補填できません」(齋藤院長)

 齋藤院長には感染が拡大している実感がある。6月中旬から、発熱外来を受診する患者が朝から夕方までひっきりなしに訪れるようになった。

「『医療体制は逼迫していない』と政府や都は言いますが、実感がないのか、テンポが遅い。5月の連休明けこそ発熱外来に来る人は少なかったものの、今は患者さんでいっぱいです。コロナの入院患者を受け入れる都内のある病院では、コロナ病棟が急速に埋まっていると聞きました」(同)

 医療に必要な費用は削れない。

「人件費以外に削るところがないんです。頑張ってくれているから、給与もボーナスも出してあげたい。難しいところです」

 医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は、人件費の重さを指摘する。

「病院経営での最大のコストは人件費。多くの病院のコストの5、6割を占めています」

 この夏、日本医療労働組合連合会(医労連)に加盟する医療機関のうち、3割がボーナスを減額した。

 7月上旬、千葉県の船橋二和病院労働組合の8人がストライキして、県や市に訴えを行った。

 同院でも発熱外来や新型コロナ入院患者に対応するため、スタッフは奔走した。だが、夏のボーナスは、前年の1.0カ月分から0.9カ月分に減額された。書記長の柳澤裕子医師は、「仕方ないという空気の中、これ以上の労働条件の悪化は我慢できなかった」と話した。

 船橋二和病院を運営する法人幹部は「職員の奮闘には感謝している。報いたいと思っているが、4、5月は前年収益比が大幅なマイナスとなり、予算通りの賞与は出せないという話になった。労組・職員とは引き続き協議していきたい」と話した。

 医労連の森田進書記長は「今回はなんとか出したが、冬は出せないこともあり得ると説明した病院もある」と話す。

 病院経営に詳しいある税理士はこう分析する。

「患者が戻らないままでは、人件費、家賃、リース料などの固定費が高い病院は倒産の可能性があります。患者が戻る見込みがないため、融資に二の足を踏んだり、利息だけ払う期間が終了すると同時に潰れたりする医療機関が出ると考えられます」

 資産が潤沢な大学病院や国立病院機構など全国展開する医療機関と違い、「蓄えの少ない民間の中小病院が最も苦しい」(同)。

 7月に入り、全国の新規感染者数はピーク時に迫る日も増え、17日、東京の感染者数は293人を記録した。新型コロナウイルス感染が再び広がるなか、医療危機は刻一刻と迫っている。(ライター・井上有紀子)

※AERA 2020年7月27日号より抜粋