いつもなら帰省や旅行で家族と過ごすはず──が、今年はそうも言っていられない。一度、「家」にウイルスが入ってしまうと、家庭内感染は防ぎにくいからだ。AERA 2020年8月24日号では帰省シーズンを襲ったコロナの影響を取材した。



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 本格的な「第2波」の到来なのか。

 緊急事態宣言が解除された5月下旬以降、新型コロナの1日の感染者数はおおむね50人以下にまで減り、流行をほぼ抑え込んだかに見えた。だが、7月31日には第1波のピーク時の2倍超となる1580人の感染が確認されている。

 当初、本格的な第2波は秋以降と予測する専門家が多かった。夏の間は流行が落ち着き、海外との往来もかなりオープンになるのでは──。だが、そんな期待はもろくも崩れ去った。

■第1波の残り火が再燃

 東京医科大学の濱田篤郎教授(渡航医学)は、7月以降の感染拡大を「第2波」としながら、本格的な再流行はまだ先だとして、こう懸念する。

「現状も第2波の到来と言って差し支えない状態ですが、これは第1波の残り火が再び燃え広がったものです。わずかに市中に残ったウイルスが、経済活動の再開で広まったのです。東京で1日200〜300人、全国で千人超の感染者が確認される高止まりのまま冬に突入すれば感染はさらに拡大し、医療崩壊も現実味を帯びてきます」

 流行がある程度収まると思われた今の時期は、医療体制の整備を進め、医療機関を休ませるための大切な期間だったという。

「その大事な時期を再拡大で奪われてしまった。いま、医療機関は本当に疲弊しています。この夏を何とか乗り切っても、秋以降の流行に耐えられないかもしれません」(濱田教授)

 感染の再拡大が始まった当初、流行の中心地は「夜の街」だった。東京を例にとると、7月中旬ごろまでは、ホストクラブやキャバクラなど、接待を伴う店での感染が多数を占めていた。

■自主隔離したい人急増

 一方、いまキーワードとなっているのが「家庭内感染」だ。

 東京都が発表する速報によると、7月29日から8月4日までの1週間で「夜の街」関連の感染者は175人。対して、家庭内感染は239人にのぼる。5人家族や4人家族全員が感染した例も確認された。

 自主隔離のための宿泊施設を紹介するウェブサービス「自主隔離ドットコム」には、家庭内感染の増加が報じられるようになって以降、問い合わせが急増している。運営するマツリテクノロジーズの担当者は言う。

「感染拡大が始まった当初と比べると、3割ほど問い合わせが増えています。職場などで陽性者が出ていて、家族にうつすのが怖いので念のため自主隔離したいという人がほとんどです」

 家庭内にウイルスが持ち込まれると、家族間の感染を防ぐのは難しい。感染症に詳しい内科医で、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師はこう話す。

「若い人は感染しても発症しないことが多く、発症した人が最初の感染者とは限りません。例えばおばあちゃんが最初に発症しても、調べてみると無症状の子や孫が感染源だったという例は珍しくないんです。誰にも症状がないのに、家のなかで厳しい感染対策をするのは現実的ではありません。気が付いたら広がってしまっているんです」

 さらに、濃厚接触者や陽性とわかった人も、数日は家の中に留まることになる。検査結果の判明、入院先の確定までにタイムラグがあるからだ。

 神奈川県に住む20代の女性は7月中旬、夫の職場で陽性者が出て夫も濃厚接触者になったと知らされた。夫は翌日に発症。しかし、PCR検査を受けるまでに3日、陽性がわかって収容先へ移動するのにさらに2日かかり、濃厚接触者となってから5日間を自宅で共に過ごした。

「検査にも隔離にも時間がかかり、もどかしいと同時にすごく不安でした。9カ月の娘が感染してしまったらとか、夫が重症化したらとか……」

 夫が濃厚接触者となってから、対策を進めた。家の中を感染ゾーンと非感染ゾーンに分け、夫は極力感染ゾーンから出ずに過ごした。入浴などでゾーンを出る際は、歩いた場所を毎回消毒。食事は部屋の前に置き、ひとりで食べてもらう。食器はすべて使い捨てにした。入浴は夫が最後。夫が掃除したあと、女性が再度消毒する。洗濯ものは入浴の際に直接洗濯機へ入れてもらい、女性は触れないようにした。

■娘まで陽性だったら

 夫が隔離先へ移動した日、女性と長女もPCR検査を受けた。結果は陰性。家庭内感染は防ぐことができた。

「対策がうまくいったからか、単なる運かはわかりません。ただ、もし何もせずに娘まで陽性になっていたらずっと後悔したと思います」(女性)

 そして、実際に濃厚接触者となったり、感染がわかったりする前に夫婦間で意識をすり合わせておくことが重要だと感じた。

「幸い夫とぎくしゃくすることはありませんでしたが、いきなり消毒だ、隔離だとなるとケンカになるかもしれません。実際、感染対策をSNSに投稿すると、“大げさだ”とか、“こんな家に帰りたくない”といったコメントが多数付きました。感染したらどうするか、家族で話し合っておくといいと思います」

 家庭内感染の拡大と同時に懸念されるのが、中高年への広がりだ。現在の流行では今のところ、若年層の感染が多数を占める。東京都内の感染者は7月中旬ごろまで、20〜30代が7〜8割を占める日が続いた。若年層は多くが無症状で、発症しても重症化しづらいこともあり、東京都の入院患者のうち「重症」とされるのは集計を始めた4月下旬の5分の1程度に収まっている。だが、7月中旬以降、中高年の感染もジワジワと増え始めた。このまま高齢者に感染が広がると、何が起きるのか。先出の久住医師はこう指摘する。

「いったん高齢者に広がれば、一気に重症者が増えて医療はあっという間に逼迫します。お盆の帰省や旅行でウイルスはさらに拡散されるはず。潜伏期間が2週間、発症から1週間程度で重症化する人が多いので、9月に入るころには全く違う状況になっているかもしれません」

■お盆休みに先駆け帰省

 8月に入り、危機感を抱いた各県の知事が相次いで帰省や旅行の是非を慎重に検討するよう求める声明を出した。

 だが、「時すでに遅し」の感もある。

 アエラでは、位置情報ビッグデータを扱うアグープからデータの提供を受け、観光地への人出をゴールデンウィークと7月の4連休で比較した。その結果、1日あたりの他県からの訪問者数は軽井沢で26倍、新千歳空港で28倍など各地で大きく増えていた。既に帰省した人もいる。東京都の会社員女性(33)は8月上旬、お盆休みに先駆けて山形県の実家に帰省した。

「在宅勤務なので、どこで働いていても変わらないと思って。地方に実家がある同僚も、半分ほどは既に帰省しています」

 インフルエンザが1月末にピークを迎えるのは、年末年始の帰省や旅行でウイルスが広まるからだとされる。7月の4連休とお盆休みで同じことが起こりかねない。久住医師は、「9月危機」についてこう懸念する。

「このまま高齢者も含めた広い世代に感染が広がれば、限りある医療資源を誰に振り向けるかというトリアージが必要になる可能性があります。要介護認定を受けているような高齢者はもともと肺炎の予後がよくない。トリアージでいう“黒タグ”をつけざるを得なくなります」

 トリアージとは、災害や大事故で多数の患者が出た際に、緊急度に従って付ける手当ての優先順位のことだ。黒タグが意味するのは「救命不能」。つまり、医療提供されないということだ。

 医療を受けられる人を、社会的に選抜しなければいけなくなる未来を見ないためにも、直ちに明確な方策を示すことが必要だ。(編集部・川口穣)

※AERA 2020年8月24日号