全国で発生する新型コロナウイルスのクラスターについて、どのような状態で起こったのか、いくつかのレポートが公開されている。たとえば、「昼カラ」クラスターは、どのように起こったのか。もとにAERA 2020年9月28日号から。



*  *  *
 どのように感染が拡大したのか。クラスターの実態を見ると、感染予防策から明らかに逸脱してしまった状況や大勢に感染を広げる人の存在が分かる。

 8月下旬、徳島県内で4件目のクラスター(集団感染)発生が確認された。

 発覚のきっかけは、20日に発熱やせき、全身の疲労感といった症状を訴え、感染が確認された80代女性だった。女性が発症前に立ち寄った先に、「昼カラオケ」をしている同県阿南市のカラオケ喫茶Aがあった。保健所が検査したところ、店員の50代女性や店を手伝っている男性の感染もわかった。

■ガイドライン守らず

 この店を8月9日と16日に利用したのが、同県小松島市のカラオケ喫茶Bの経営者の70代女性と60代の夫。夫妻と同じ16日にAを利用した、60代の会社役員の男性も感染していた。

 県や保健所が接触者の調査を進めたり、店名を公表したりするにつれ、感染者は増えていった。感染者の中には、阿南市にある第3のカラオケ喫茶Cにも行っていた人がいて、複数のカラオケ喫茶を舞台とするクラスターが拡大。9月13日までに、2次感染した家族を含め、約30人の感染が判明した。

 徳島県の「昼カラ」クラスターでは、日本カラオケボックス協会連合会などカラオケ業界関連の3団体が5月にまとめた「新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」の一部を守っている店はあったが、利用客も店員もマスクをしていなかったり、10時間の営業時間中に1度しか換気をしていなかったり、マイクを消毒していなかったり、顧客名簿が無かったりと、ガイドラインのすべてを順守していた店はなかった。

 クラスター発生を受け、県が阿南市と小松島市にあるカラオケ喫茶25店を調べたところ、8割の店では、利用客が歌う際、マスクなどをつけておらず、客と客の距離も不十分だった。

 また、クラスターが発生した店の利用客の中には、微熱があったのに解熱剤を服用して平熱に下がった後、感染が確認されるまで4回、カラオケ喫茶に行って歌っていた人や、下痢や咳といった症状が出た後にやはり4日間、カラオケ喫茶に通っていた人もいた。

■更衣室で感染拡大

 徳島県の昼カラクラスターは特殊な例ではない。

 6月から9月にかけて、北海道や福岡県、石川県、福井県、和歌山県、茨城県、千葉県、富山県などで昼カラクラスターが発生している。

 感染者のほとんどが高齢者で、1人の感染者が複数のカラオケ喫茶を利用して、感染が広がっている。

 国立感染症研究所は8月、全国で発生したクラスターのうち6種類を「事例集」として公表した。

 昼カラ以外に、職場の会議やバスツアー、キャバクラやホストクラブなど接待を伴う飲食店、スポーツジム、院内感染でのクラスターも紹介している。

 バスツアークラスターでは、武漢市からのツアーで5日間、バスを運転した男性が感染した。運転手は、寒気やせきなどの症状が出てからはマスクをしていたが、発症前はしていなかった。その後、別のバスツアーで運転手と5日間ずつ一緒にバスに乗っていたガイド2人の感染もわかった。ガイドが運転手と会話を交わす時間は短かったが、バスで移動する長時間、運転手の1列後ろの席に座っていた。マスクもしていなかった。

 周知のように新型コロナウイルスは発症前から他の人に感染させる可能性がある。また、飛沫だけでなく、エアロゾル(飛沫より小さな飛沫核)でも感染させる可能性があるとされ、長時間にわたってバスのような閉じた空間に感染者と一緒にいると、感染するリスクが高いとわかる。

 一方、これまでに満員電車でのクラスターは発生していない。短時間、同じ空間にいても、マスクをしておしゃべりをしなければ、感染リスクは高くない。

 スポーツジムのクラスターでは、感染者の利用日時やジム内での滞在場所を比べた結果、更衣室が感染拡大の場所として浮かび上がった。

 国内外のクラスター分析からは逆説的に、3密を避ける、換気をよくする、症状がある時は外出を控える、無症状でも症状が出る前からでも他の人に感染させる可能性があるので公共の場では人にうつさないようマスク着用を心がける、といった感染予防の基本の重要性が浮かび上がってくる。

■2割の感染者から拡大

 同時に、感染者の国内外のクラスター分析から、全員が感染を広めているわけではなく、「スーパースプレッダー」と呼ばれる一部の感染者が複数人に感染させていることがわかってきた。

 厚生労働省クラスター対策班が2月末までの11クラスターと散発的な感染者110人を分析したところ、8割近い感染者は誰にも感染させていなかった。一方で、7人の感染者は3人以上に感染させていた。中には12人に感染させた人もいた。

 海外でも同様の分析があがっている。香港大学などの研究グループが香港で起きた135のクラスターの、感染者1038人の感染源や接触歴などを解析したところ、香港外から持ちこまれた感染を除き、香港内の感染の8割は、2割の感染者からの感染で起きたと考えられるという。感染者1人から6〜8人に感染が広がったようなケースが5〜7件あった。11人に感染させていた人もいた。

 さらに、イスラエルの研究グループが国内の感染者212人から分離した新型コロナウイルスのゲノムを解析して比較したところ、1〜10%の感染者が、2次感染の80%を起こしていたことがわかったという。

 スーパースプレッダーについて、厚労省クラスター対策班の押谷仁・東北大学教授はこう説明する。

「まだメカニズムは不明だが、体内、とくにのどなどの上気道で産生されるウイルス量が多い人がいる。そういう人が多くの人に感染させる。ただし、大勢に感染させるのは、感染の発生しやすい状況にいる時だけです。他の人と密に接触しなければ、感染は起こりません」

(ライター・大岩ゆり)

※AERA 2020年9月28日号