東京大学では五神(ごのかみ)真・総長の来年3月の任期満了に伴い、9月30日、次の総長を選ぶための、教員による大規模な選挙が予定されている。しかし、その選挙を前に、候補者の選考過程を疑問視する声が上がり、総長選考会議の議長に教員や学部長らから質問状や要望書が提出される事態にまで発展している。



 東大の総長は、3段階を経て決まる。まず、教職員を代表する178人の「代議員会」による選挙で10人以内の候補者が選ばれる。これに「経営協議会」の推薦者2人程度を加え「第1次総長候補者」が決まる。

 次に、学内の教員8人と学外の経営協議会の8人で構成する「総長選考会議」が候補者のインタビューを行ったうえで、「第2次総長候補者」を3〜5人に絞り込む。総長選考会議の議長を務めるのは、元東大総長の小宮山宏氏だ。総長選考会議は9月7日に開かれ、学内で公表された資料によると、工学系2人、医学系1人の3人が選ばれたことがわかった。
 
 ところが、その候補者一覧を見て教員たちは違和感を覚えた。前回は5人だった候補者が3人に減っていたからだ。そのなかには、前回の総長選では次点で、今回も下馬評で最有力候補とされていた、医学系の教授の名前が入っていなかった。しかも女性や文系学部からの候補者もいない。この偏りも問題だと感じたという。

 また、2次候補者の名前は会議の翌日、告示されたが、前回はホームページに公開されたのに対し、今回は学内のみに公表という点も違った。

 9月16日、田中純・総合文化研究科教授を代表とする教員有志は、総長選考会議の小宮山議長宛てに「選考の透明性と公平性」を問う質問状を送った。田中教授は言う。

「候補者の個々人を批判するつもりは全くありません。しかし、多くの人が不可解に思う人選が、選考会議のブラックボックスの中で行われたことは問題です。私たち教員は、学内の民意の反映ともいえる、代議員が選んだ第1次候補者の名前も知らされていません。公正な選考が行われたのか、確かめようがないわけです。透明性を確保し、選考の過程を明らかにする必要があります」

 小宮山議長はアエラの取材に、メールで次のように答えた。

「総長選考会議の審議の経過については、選考終了後の10月2日の会見で説明する予定です。選考会議では、今回、学内の合意を得て改定した『求められる総長像』に照らして、最良の方を選出するという方針で臨み、面接を含めた調査を行い、慎重かつ丁寧な検討を行ってきました。また、選考の実施方法については、これまで数年間かけて選考会議で審議し、部局長への意見照会も反映させ詳細を詰めてきました。選考の枠組みの策定は、候補者の名前が出てくる前に完了しており、そのルールに忠実に従いながら選考を進めてきています。公正さや透明性の確保も学内の合意を形成したうえで進めています」

 教員たちが総長選に「学内の民意が反映されているか」に敏感に反応するのは、「大学の自治」に対する危機感があるからだ。2004年の大学の法人化以降、権限は総長に集中し、政界や財界が大学への関与を強めることを懸念している。阿部公彦・人文社会系研究科教授は言う。

「大学入試改革で、英語民間試験の活用について、東大は『現時点で入試に用いるのは拙速』と発表していたにもかかわらず、政界の圧力を受けて方向転換した経緯がある。今回の選考過程に同様の懸念を感じるのです」

 佐倉統・情報学環教授は次のように語る。

「数の論理だけでいえば、工学部の人数が最も多いので、総長は毎回、工学部から輩出されることになる。ところが、そうしないできたのが東大。各々が学部にとらわれず、そのときどきで最もふさわしい人物を選んできたからです。そうしたことを東大は矜持にもしてきた。ところが今回は選択肢がないに等しく、多様な意思の反映のしようがない」

 教員による最終投票まで、すでに1週間を切った。60代の理系の教授は言う。

「選考過程に疑念を抱かれたまま選出されても、新総長は重荷を背負うことになる。だれもが納得するかたちで選ばれる道筋をつけることが大事だ」

(編集部・石田かおる)