静かな住宅街の道路に、ぽっかりと開いた大穴。付近では謎の「地下空洞」が次々と見つかり、はるか地下で行われたトンネル工事との関連性が疑われている。不気味な雰囲気を醸し出す深い穴をのぞき込むと、規制緩和によって急速に進んだ地下開発の「暗部」が浮かび上がってきた。
* * *
「前日まで買い物で歩いていた道なのに、陥没するなんて。薄い氷の上を歩いているようなものだったんですね」
陥没現場近くで暮らす菊地春代さん(65)は、本誌の取材にこう語った。
10月18日、東京都調布市の住宅街で、幅5メートルほどの市道が突如、陥没した。穴は深さ5メートルほどで、大きさは約6メートル×約5メートル。けが人は出なかったが、もし真上に人がいたら無事ではすまなかっただろう。陥没現場の地下では、東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事が行われていた。菊地さんは、陥没当時をこう振り返る。
「隣の旦那さんに『大変だ、家の前が陥没している』と言われて急いで見に行くと、道路に幅30センチくらいの亀裂が入ってへこんでいた。亀裂は1時間くらいでみるみる広がり、バシャン!という音とともに道路が落下しました」
騒動は続いた。工事を行う東日本高速道路(NEXCO東日本)が付近の地盤を調査すると、11月3日には長さ約30メートルの空洞が、21日には約27メートルの空洞が見つかったのだ。空洞の近くに住む近田真代さん(73)が言う。
「近隣の家がきしむし、水道管からは水漏れもあった。NEXCOの人からは『避難準備をしてください』と言われ、孫が泣きだしたことも。この先、何年か後に陥没するかもわからず、不安とともに暮らしています」
付近の地下40〜50メートルをトンネル工事の掘削機「シールドマシン」が通過したのは、陥没の1カ月以上前の9月14日のこと。このときから異変は感知されていた。前出の菊地さんが話す。
「9月上旬から細かい振動を家の中で感じ、気のせいかと思ってテーブルのペットボトルを見たら水面が揺れていた。低周波も発生しているのか、『家の中にいると気持ちが悪くなる』と言って外に出る住民の方もいました。私は事故前から、不安を訴えるご近所の意見をとりまとめて事業者にメールを入れていたんです」
住民らによるとその後、付近では家のヒビ割れ、タイルの剥落、コンクリートの隆起などの異変が続出したが、工事は続けられた。NEXCO東日本は事故後に住民説明会を開いたものの、工事に反対してきた市民団体「外環ネット」の籠谷清さんは不信感を募らせる。
「事業者が配布したチラシを持っている人しか会場に入れず、中に入れない住民もいた。報道陣も入れないなどの制限がかけられ、情報を隠そうとしている印象を受けました」(籠谷さん)
NEXCO東日本の小畠徹社長は10月28日の定例会見で「大変ご迷惑をおかけした」と頭を下げたが、同社関東支社広報課によると、これはあくまで原因究明のための「ボーリング調査」や「周辺道路の封鎖」で住民に迷惑をかけたことへのお詫び。「陥没や空洞についてはまだ原因を調査中ですので、工事と因果関係があったかについては、現時点では申し上げられない」と説明する。
工事は陥没に影響したのか。首都圏の地下構造に詳しい東京都立大学の鈴木毅彦教授(都市環境学部)はこう話す。
「陥没現場の地下40メートルは東久留米層という砂層で、多少硬い礫もまざっている。そこをシールドマシンで掘り進んだわけですが、砂層というのは固まっていても、削るとバラバラになる。礫を削るうちに予定以上に土をとりすぎ、地盤が崩れたのかもしれません」
ただし、地下深くではなく表層に問題があった可能性や、表層と地下の工事の二つの要因が複合して影響した可能性もあるという。
■家屋への被害の補償はどうなる
直接的な原因はまだわからないものの、今回の騒動で注目されている法律がある。全国で数多くの地下工事を手がけてきたトンネル技師の大塚正幸氏がこう話す。
「今回の陥没は、国や事業者側がなるべく触れてほしくなかった『大深度法』の問題点があぶり出されたという意味があると思います」
大深度法とは、2001年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」のこと。この法律により、首都圏と中部圏、関西圏での公共工事について、40メートルより深い地下なら用地の買収をしなくても使用できるようになった。事業者は工事を周辺住民に告知する義務はあるが、同意を得る必要はない。
『ドキュメント・東京外環道の真実 住宅の真下に巨大トンネルはいらない!』の著書がある元共同通信記者の丸山重威氏は、補償がないまま一方的に所有権を制限するのは財産権を保障した憲法29条に違反しているとして、こう話す。
「大深度法ができる前は地下鉄やビル建設などで、地下50〜100メートルを工事する際、賃借契約が結ばれるなどしたこともあります。当時の国土庁の幹部がはっきり言っていますが、地上に住宅がたくさんあって交渉が大変だから、こうした法律をつくったわけです。地下深くの工事なら地上に影響が出ないということが前提でしたが、今回、実際に影響が出たとなると、その前提が覆る。地下空間を『使い放題』にしていいと言うかのような法律をつくったのは間違いだったのではないか」
丸山氏の家も外環道のトンネル工事のほぼ真上に位置し、壁が落ちるなどしているという。
「こうした例が多数あるわけで、どうやって補償するのか。工事が影響したという立証責任がどちらの側にあるのかという問題も争ってくるのかもしれないですが、きちんと責任をとるべきだと思います」(丸山氏)
NEXCO東日本によると、現在、ボーリング調査などを実施中で、年内には調査を終え、有識者委員会に諮る予定だという。
外環道の工事は東京都世田谷区の「東名JCT」と練馬区の「大泉JCT」の約16キロの区間で、両側から掘り進められている。住宅が密集する市街地の地下を通過するが、再び地上に影響は出ないのか。「外環ネット」のメンバーで元地理教師の早川芳夫氏が言う。
「その土地特有の地層と工事方法が複雑に絡み合いますから、陥没はどこで起きるか予想できません。1度起きたことは2度目もあるのではないかと危惧しています」
(本誌・上田耕司)
※週刊朝日 2020年12月4日号
道路陥没招いた東京“地下開発”の闇 地下40メートル以下は「開発し放題」?

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