新型コロナウイルスの感染拡大の影響に昨年来、振り回されてきた宿泊業界。年が改まっても主要都市圏に再び緊急事態宣言が出されるなど、苦境が続く。長年、多くの観光客らに愛されてきた老舗ホテルも例外ではない。一部に休業や営業縮小の動きが見られる一方で、生き残りをかけて新たなサービスを打ち出すホテルもある。それぞれの取り組みを追った。



「苦渋の決断をいたしました。せめて今よりは感染者数が減少し終息の兆しが見えるまで、すべての営業を休むことといたしました」

 1月16日付の栃木県の地元紙にこんなメッセージを載せ、同18日から2月28日まで休館することを発表したのが、宇都宮グランドホテル(宇都宮市)だ。皇族をもてなす割烹(かっぽう)旅館から始まり1971年に開業した名門ホテル。日本庭園を含む約2万坪の敷地面積を誇る。

「年末年始、新型コロナの感染状況やその報道を見ながら、休館すべきかどうかで悩んでいました」

 同ホテルの小林博昭副社長はこう振り返った。「昨春の緊急事態宣言中、都内の百貨店は休業していましたが、今年は初売りも行われ、買い物や食事を目的に人が出ていくのだろうと思いました。宇都宮にも東京同様、百貨店やショッピングモールがあります。私どもの宿も一定の規模面積を持っていて、人の流れを生み出す一因になっている。それなら、せめて私どもだけでもそれを止めたいと考えました」

 栃木県や宇都宮市の営業時間短縮の要請に応え、1月8日には館内のレストランなどの短縮営業を開始。まもなく13日には、同県が緊急事態宣言の対象地域に追加され、「中途半端に営業を続けるより、もう施設を閉めるべきだ」(小林副社長)と決断した。

 約1カ月の売り上げがゼロになるのは、覚悟の上だ。

「昔から『二兎(にと)を追う者は一兎(いっと)をも得ず』と言います。仮に従業員やお客様に感染者が出て、それが全国区のニュースになってしまえば、“イメージダウン”によるリスクのほうがはるかに大きい。休業期間中、宴会などの予約のあったお客様には営業再開後に予定を移してもらえないかと、アプローチをかけています」(同)

 一つのリゾート地にいくつものホテルを抱えるプリンスホテルは、エリア内での「営業集約」を進める。長野県軽井沢町を拠点とする「ザ・プリンス軽井沢」は2月8日まで臨時休業するものの、「軽井沢プリンスホテル」は営業を継続。後者が、前者の宿泊予約を束ねる。

 軽井沢地区で事業戦略支配人を務めるプリンスホテルの別府敏直氏は、「感染拡大防止」と「営業効率向上」を両立するため、こうしたやり方にしたと説明。営業再開後は「(仕事と休暇を兼ねた)ワーケーションや近場旅行の需要に応えるサービスを充実させ、アフターコロナ時代の新たなホテルの使い方を提案していきたい」という。

 一方、今回の緊急事態宣言をきっかけに、テレワーク対応などのサービスを強化した老舗ホテルもある。

 ホテルニューオータニ大阪(大阪市)は、平日限定のテレワークプランを提供する。午前9時から午後6時まで滞在でき、料金は1室あたり1万3千円(2人まで同料金)。昨年の緊急事態宣言下で同様のプランを提供して反響が大きかったため、抗ウイルス・抗菌スプレーやホテルオリジナルのマスクケースをつけるなどしてプランをリニューアルした。開始1週間で、50件超の予約があったという。

 品川プリンスホテル(東京都品川区)も、チェックイン時間を客自身が自由に決められるプラン「フレックス10」を開始。料金は8千円からで、最長10時間滞在できる。テレワークだけでなく、“終電繰り上げ”にも対応する。

「事前予約はテレワーク利用が多く、宿泊直前に予約されるのは終電を逃したケースだと思われる。今後は日中と夜間、いずれの時間も予約が増えると見込む」(ホテル担当者)。プリンス系列の都内8ホテルでも提供され、予約も上々だ。

 料理のテイクアウトに力を入れるのは、福山ニューキャッスルホテル(広島県福山市)だ。年明け後、宿泊や宴会場・レストランの予約キャンセルが相次いだ。

「通常、企業の例会などで地元客の利用が多い時期ですが、今年は新型コロナの影響で控える傾向が強い。全国的な自粛ムードの強まりが、地元客の心理にも影響を与えている」と総支配人の萩原直純さんは話す。そこで、昨年の緊急事態宣言を機に始めたテイクアウト商品を強化。「今後はケータリングなど、ホテル側からお客様のところに自ら出向く取り組みに力を入れていく予定です」

 コロナ禍における、老舗ホテルそれぞれの選択ーー。ホテル評論家の瀧澤信秋氏は「どのホテルも『災い転じて福となす』という発想が根底にある」としたうえで、次のように解説する。

「『営業停止』というと悲惨なイメージを持たれがちですが、施設のクローズはホテル側にとって管理費削減や自社サービス見直しのチャンスです。営業集約をすれば、同じグループ内のホテルで従業員の行き来ができて効率的な営業が可能となる。また、テレワークなどの新規プランを打ち出せば、世間の注目が高まり、緊急事態宣言解除後の集客を期待できます。どのホテルも、コロナ『後』を見据えての選択であることに変わりはないでしょう」

 そして、観光・宿泊へのニーズは再び高まるはずだと強調する。「今は外出を自粛せざるを得ない状況でも、『コロナが収まれば旅をしたい』と思っている方は多い。時間はかかるかもしれませんが、旅への潜在的な欲求を多くの人が持ち続ける限り、観光産業は時間をかけて復活していくと思います」

(本誌・松岡瑛理)

*週刊朝日オンライン限定記事