大学生活は自粛一色なのに、「自粛しない若者」像ばかりがクローズアップされる。割を食っている──。若者たちが抱える虚しさの背景には、国や自治体のコミュニケーションの失敗と、若者たちの間で進む孤立化がある。AERA 2021年3月1日号から。
* * *
自粛続きで、タイムワープしたような1年だった。
「2020年を振り返ったら、本当に何もなかった。時間が失われた感覚がしました」
神奈川県に住む大学生の女性(20)はコロナ禍の1年をそう振り返る。一度も大学に入構せず、授業はすべてオンラインで受けた。図書館は条件付きで利用できるが、県をまたぐ移動を避けているため、活用できていない。
「小中高生や社会人は制限付きでも、通勤通学できています。それを見ていると、モヤモヤしてしまう。県外に住む友達とは、もう1年以上会っていません」
それなのに、国や自治体からの呼びかけに「20代」「若者」という言葉が相変わらず目立つ。
「若い方は体力があり、行動力がある方々が、自分自身が感染している自覚がないままあちこち活動される」(20年3月、小池百合子都知事)、「どうか、若い世代の皆さん、日本の危機を救う立役者になってください」(今年1月、尾身茂・政府分科会会長)。
後者の発言の若い世代とは20〜50代を指すが、2月2日には同分科会は若者に卒業旅行や謝恩会を控えるよう呼びかけた。
■涙が出る日も多かった
これでは「若者」が自粛せず出歩いているように思われ、自粛している若者まで悪者にされてしまう、と危惧した。世代間の断絶を煽る姿勢とも感じた。
「若者に呼びかけるのに、政治家はクラブに行ったり、飲酒を伴う会食でクラスターが発生したりしている。私たちが我慢していることのすべてが無駄に思えました」(女性)
昨年10月頃は、虚しさが募り、泣きたくないのに涙が出る日も多かった。今は、医療従事者にできるだけ迷惑をかけないようにという一心で、なんとか気持ちを保っている。
コロナ禍で、若者たちは何を感じ何を考えているのか。アエラでは、インターネットを通じて10〜20代を対象にアンケートを実施した。程度の差はあれ、回答した若者の多くが、「自粛しない若者」のレッテルに違和感を持っていた。
「若者が感染を広げているというのは、コロナ禍の初期に作られた設定なのかなと思うようになりました」
そう話すのは、慶應義塾大学3年の女子学生だ。若い人に無症状感染が多いことには、もちろん気を付けるべきと考えている。ただ、「自粛しない若者」がテレビやネットで話題になる度に、やるせなさを感じていた。
「どんどん新しい情報が出て、何が許されて何が許されないのかの設定が変わっていく。そう考えるようになってからは、そこまで気にならなくなりました」
だが、その“設定”の矛先は、たやすく若者へ向く。
接待を伴う飲食店で立て続けに五つのクラスターが発生した石川県では、2月12日、“「飲食」「若者」感染拡大特別警報”が発令された。同県在住の男性(29)は言う。
「カラオケクラスターが頻発したときには、カラオケや高齢者を名指しした警報は出なかった。また『若者が』と言われる日がくるのかとうんざりしています」
■若者の孤立化進む
憤りはあるが、若者たちの視点はどこか俯瞰している。アンケートでも、「自粛の線引きは人それぞれだが」「一個人の意見として」などと前置きして、意見を述べる人が目立った。
客観性の裏側には、生き方が多様化して若者の孤立化が進んだことがあるという。
立命館大学准教授で社会学者の富永京子さんはこう分析する。
「近年は出自が多様化し、またそれが顕在化したことで、他人と自分は異なるものだという感覚が強まっています。さらに、コロナ禍では集まって相互理解を深めることもできません。自分が何かの代表という意識を持って発言することはますます難しい状況です」
SNSなどを通じてつながることはできても、1対1以上のコミュニケーションは生まれにくい。互いの利害が見えないため、踏み込んだ話もできない。孤立化はさらに加速する可能性もある。
「東日本大震災時や就職氷河期の若年層にも、その世代特有の問題はありました。ただ、コロナ禍ではそれが顕在化しづらい。震災などの災厄とは違うレベルで孤立化が進んでいると感じます」(富永さん)
若者たちが抱く将来への不安も少しずつ表面化している。
「できるものなら1年を返してほしい」
そう話すのは、「若者全般の意見ではない」とした上で取材に応じた20歳の大学生だ。
■自粛の「見返り」どこに
本来なら、今年は成人式で久しぶりに会う友人たちと楽しい時間を過ごすはずだった。だが、式は中止になり、その後に予定していた同窓会もなくなった。
「成人式の後に同窓会があるかないかは、今後開かれる同窓会にも影響します。私たちの代は、将来音信不通になったり、生死不明の同級生が増えたりするのではないかと思います」
この学生にとって、20歳の節目となる年は、「人生で一番楽しかったはずの大学2年生」。その時期を思うように過ごせなかったことが、悔しかった。
「当事者しかわからないかもしれませんが、18〜30歳くらいの世代とそれより上の大人の1年は遥かに重みが違います。なのに、どうして『最近の若者は』なんて言う人たちのために我慢しなければいけないのか。『見返りは?』というのが本音です」
「見返り」というと、自分勝手に聞こえるだろうか。だが、そうした感情を持つ人は少なくないようだ。心療内科医の海原純子さん(68)は、若年世代が受けた教育の影響を指摘する。
「診察していて感じるのは、大学入試や就職といった『目標』が掲げられ、その結果のために行動を求められ、行動してきた世代だということです」
前出の富永さんは言う。
「若い世代と年長世代の見返りへの感覚は大きく異なります。我慢という形で貢献すれば、安全になった社会で楽しさを享受できるというのが年長世代の考える見返りです。ただ、若い世代からすれば、楽しさは本当に享受できるのかと疑ってしまうほど、社会の展望が見えない状況です」
青山学院大学を卒業した女性(25)もキャリアが見通せず、不安を抱えている。
女性の卒業は、留学したため、昨年9月。卒業時期に合わせて就活に励んだが、売り手市場は買い手市場に激変していた。目指した客室乗務員やメイク業界はコロナ禍の打撃を受け、採用は見送られた。「せめて空港内で働きたい」とアパレルショップに就職。ノルマを伴う激務のため転職を考えているが、志望業界は経験者募集ばかりだ。
「若い頃の方が吸収する力は圧倒的に大きいのに、行動制限で活動範囲が狭くなってしまったことは、今後の人材育成にも影響するように感じています。いつまで我慢していればいいのか、夢だった仕事に就くことができるのか、不安なままです」
■不満は人に伝えて
大手企業が相次いで早期退職を募集するなど、先行きは不透明なままだ。国や自治体などが行う就職氷河期世代向けの支援も、どれだけの人に届いているのかわからない。
そんな状況で若い世代が将来を想像するのは至難の業だ。
「若い世代の方には、不満を個人の中にため込まず、人に伝えてほしい。そして社会はその声に耳を傾けなければいけない。過去の若者政策の失敗は、彼らの声に対して社会が適切なセーフティーネットを提供できなかったことにあります」(富永さん)
一人ひとりの不安感を矮小化せずに吐き出すことで、社会が動く。それが「見返り」にもつながっていく。第二のロスジェネを生まないためにも、上がった声を殺してはいけない。(編集部・福井しほ)
※AERA 2021年3月1日号
「自粛しない若者」像にうんざり 自粛する若者たちが抱く虚しさの背景とは

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