AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。



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 いくら実力があっても、女性というだけで門戸を閉ざされてしまう職業がある。ましてや、誰もがそれを当たり前のように思っている“男性のスポーツ”、プロ野球だったら、多くの人が受け入れてしまうのではないか。

「野球少女」は、“天才野球少女”と称される、野球が大好きな女子高校生チュ・スイン(イ・ジュヨン)が主人公だ。子どもの頃からすべてを野球に捧げてきた彼女が、プロ野球選手になる夢をかなえるため、周囲に反対されながらも突き進む姿を描いた。

 本作が長編映画デビューとなるチェ・ユンテ監督は、妻から聞いた話に着想を得たという。

「妻はインターネットで、野球をしている少女がインタビューを受けるところを見たと話してくれました。でも、『いくらこの少女が頑張ってもプロには行けないのに』と残念がっていたんです。それで私が『いやいや、女性でも行けるよ』と話したら、新しい事実を知ったかのように驚いていました。その反応を見て、こういう話を映画にしたら意味があるのではないかとシナリオを書き始めたんです」

 韓国も男女間格差は根深く、2019年公表のジェンダーギャップ指数は108位だ。

「企画の段階から苦労しました。そもそも女性が主人公になる商業映画は価値がない、と言われてしまったんです」

 そこで、商業映画がダメなら公的機関と、監督自身が通っていた韓国映画アカデミーに制作を依頼した。ところが、そこでも「この予算では無理」と断られてしまった。

「『商業映画でも撮れず、インディーズでも撮れないなら、一体どこで撮ればいいんですか!』と怒ったことを思い出します。ただ、以前そこで短編映画を制作した時も予算で一度は断られたものの、結局撮った経験があったので、あきらめずに説得し、いろいろなことが重なってなんとか今回も撮ることができました」

「なぜ無理だとわかるんですか? 私がプロになれるかなれないか、なぜ無理だと?」。スインの質問に答えられる大人はいない。なぜ無理なのか。スインの言葉は、当たり前のように性差別を受け入れている自分自身にも跳ね返ってくる。

 切実なスインのせりふは、どのように生まれたのか。妻や女性たちへの取材からだったのか。そう監督に問うと、「女性の気持ちを書こうと思っていたわけではない」と、思いがけない言葉が返ってきた。

「実は、私自身の気持ちをスインに語ってもらうように書きました。私自身、少し言語障害があり、学力も高くはありません。監督になる前は、いつも撮影現場で『君は監督にはなれない』と言われてきました。そんな体験もスインのキャラクターを創作する上で助けになったと思います」

 韓国で多くの人の心に響いたのは、単に「男女差別」だけにとどまらない、普遍的な「差別」の意味を問うているからなのだろう。

◎「野球少女」
大ヒットドラマ「梨泰院クラス」でブレークしたイ・ジュヨン主演作。3月5日公開予定

■もう1本おすすめDVD「少女は自転車にのって」

 サウジアラビア映画「少女は自転車にのって」(2012年)は、「女は自転車なんてダメだ」「自転車に乗ったら妊娠できなくなる」と、職業どころか自転車に乗ることさえ許されない少女の物語。声高に男女差別を訴えるのではなく、ダメだと言われてもあきらめない少女の奮闘ぶりを、ユーモアをもって描く。

 10歳のワジダは校則を破るのもへいちゃらの問題児。自転車を乗り回し自分をからかう幼なじみの少年に、「自転車を買ったら競争よ」と負けん気も強い。ワジダは自転車競争を実現すべく、母に自転車をねだるが「女の子が自転車なんてとんでもない」とにべもない。そこでワジダはミサンガを編んでは友人に売りつけたり、恋の仲介役となって手数料を取ったり。小銭を貯めるが自転車代の800リヤルには遠く及ばない。

 そんなある日、学校で「コーランの暗唱大会」が開催されることに。賞金はなんと1千リヤル。ワジダは賞金欲しさに、猛然とコーランの勉強を始めるが……。

 男女差別が当たり前の国で、したたかに生きるワジダの姿に希望を見る。行動しなくちゃ始まらない! 見ているうちにそんな力が湧いてくる。

◎「少女は自転車にのって」
発売・販売元:アルバトロス
価格3800円+税/DVD発売中

※AERA 2021年3月8日号