天皇誕生日の一般参賀での愛子さま(JMPA)

 天皇、皇后両陛下の長女愛子さまの文書が4月2日、公表された。日本赤十字社への就職にあたって宮内記者会が質問をし、それへの回答だった。

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■文書回答「2度」の意味

 3月20日、学習院大学卒業にあたっても文書が公表されて、その質問が1問だった。その驚きと残念感をAERA dot.に書いたのは私だが、就職にあたって記者会は4問を尋ねていた。合計5問。蓋を開けてみれば、「内親王」の先輩にあたる小室眞子さんと佳子さまが大学卒業にあたって答えた数と同じだった。なーんだ、最初から2度に分ける予定だったのね、言ってくれたらいいのに。だからというわけではないが、「2度」の意味を考えてみることにする。

 質問内容を、佳子さまの卒業時(2019年)と比較してみる。ざっくりだが、佳子さまには①卒業を迎えての感想②今後の進路と将来の夢③家族について④結婚関連⑤皇室関連――を尋ねている。愛子さまには①卒業を迎える心境(3月20日分)、②就職、それも日赤を選んだ理由と抱負(以下、4月2日分)③皇族としての活動について感想と抱負④結婚関連⑤皇室関連――を尋ねた。

 ②は就職する愛子さまと、そうでない佳子さまへの問いかけ方の違いだし、愛子さまにだけ聞いているように見える③(公務関連)は、佳子さまへの②に含まれている。佳子さまへの③(家族関連)が愛子さまにはないように見えるが、愛子さまにも②と④で「両陛下からの言葉or助言」の有無を尋ねている。つまり、質問項目はほぼ同じだから、愛子さまにもまとめて聞いてもよかったのだ。

 それをあえて2度に分けたのは不思議ではあるが、あえて2度に分けるのはメリットがあるからだろう。それは何かと考えると「2度、話題になる」ではないだろうか。

 卒業以来、愛子さまの話題が目白押しになっている。そもそも2度目の文書公表の前日、日赤本社前で報道陣を前に感想を語っているし、3月26日と27日は大学卒業の報告のためということで、三重県伊勢市の伊勢神宮と奈良県橿原市の神武天皇陵を参拝している。卒業からの2週間ほどを時系列に並べると、卒業(報道陣への一言)→文書公表→参拝→初出勤(報道陣への一言)→文書公表となる。

日赤の入社式で初出社した愛子さま=2024年4月2日、東京都の日赤本社

 メディアも活気づいている。参拝に伴っての愛子さまファッションをグラビアで仔細に報じたのは女性週刊誌だ。白いスーツで三重県に入り、光沢あるシルクの白いロングドレスで伊勢神宮を参拝、翌日の奈良県は淡い水色のスーツで。そのときのバッグはゴヨウツツジ(愛子さまのお印)模様で、しかも16年に両陛下(当時は皇太子ご夫妻)と一緒に神武天皇陵を参拝したときと同じもの――これは各誌が報じていた。今回、神武天皇陵参拝時はグレーのロングドレスで、ブローチをつけていた。それも実は、22年に英国訪問した両陛下を見送ったときにつけたのと同じもの。そう報じた「女性セブン」(4月18日号)は、「ご愛用品を長く使われることが多く、『ものを大切にされるお心』が見て取れる」と書いていた。

■愛子さまは安定的アイドル

 同じ服やアクセサリーを何度も着用する「着回し術」。それを皇室報道にもたらしたのは日本テレビに勤務した渡邉みどりさんだと認識している。上皇后美智子さまのファッションを見つめ続けた渡邉さんは着回しをたくさん見つけ、「ものを大切にする心」を紹介し続けた。その対象が愛子さまになった。その事実に愛子さまは皇室一の「安定的アイドル」なのだとしみじみ思う。

 安定的とは、心を乱されずに接せられるという意味だ。どういうことかを「週刊現代(4月6-13日号)」を例に説明したい。愛子さまの参拝が盛り上がったことを伝えていた。伊勢神宮へ向かう名古屋駅ですでに100人以上が出迎えていたことを、「集まった人数も警備の厳重さも天皇皇后両陛下と同じくらいでした。2015年の佳子さま、一昨年の悠仁さまの参拝では見られなかった光景です」という「皇室担当記者」の言葉を紹介して短い記事にしていたのだ。これがニュースサイト「現代ビジネス」に掲載されると<愛子さまの「伊勢神宮」参拝でわかった、悠仁さまと「決定的に違っている点」>という見出しになる。

 ネガティブ感を匂わせ、秋篠宮家の話題にする。昨今のネットを中心としたメディアの特徴の一つだ。SNS社会の肥大と眞子さんの結婚への道が重なり、「秋篠宮家はバッシングしてよし」という風潮になっているのだ。

 そんなときに1人、愛子さまがいる。まっすぐに取り上げて歓迎される存在になった決定的な出来事は、20歳になっての記者会見だったと思う。幼い日には不安定さを見せた愛子さまが、賢く可愛らしい女性になったという完璧なアピールだった。陛下と雅子さまの仲の良さを表す「リンクコーデ」も、愛子さまが入ると一層華やぐ。そんな愛子さまを見ていると、皇室に関する面倒なことは忘れられる。着回しファッションを、ひたすら愛でたい。「皇室一の安定的アイドル」というのは、そういう意味だ。

伊勢神宮を参拝する愛子さま=2024年3月26日、三重県伊勢市、代表撮影

 というわけで、宮内庁も愛子さまの話題は増やしたいに違いない。卒業と同時に常勤嘱託職員として入社する初の内親王だ。となれば、卒業と就職、二つのタイミングで質問に答えてもらうことが可能ではないか。ということで遂行されたのが「文書を2度に分ける作戦」。これが、最初の文書で「質問が少なーい」と書いてしまった私の推論だ。

■愛子さまの愛されポイント

 愛子さまの2度目の文書も賢く、謙虚で、前向きという愛子さまの愛されポイントがたくさんあった。白眉は結婚関連への回答だと思う。「理想とする時期やパートナー像、結婚観」を「両陛下のご助言」の有無とともに聞かれたが、愛子さまは「一緒にいてお互いが笑顔になれるような関係」を理想としてあげた上でこう答えている。「両親から具体的なアドバイスを頂いたことは特にございませんが、両親のようにお互いを思いやれる関係性は素敵だなと感じます」。天皇家の仲の良さを、国民はまた確信できる。

 心動かされる出会いはありましたか。愛子さまは、そうも問われた。答えは「私にとっては、これまでの出会い全てが心を豊かにしてくれたかけがえのない宝物であり、深く感謝しております」。プライバシーに関する微妙な質問を、一般論で切り返し感謝にまでもっていく。なんて賢いんだ、愛子さま。その上、こう続けたのだ。「これからも様々な出会いに喜びを感じつつ、一つ一つの出会いを大切にしていきたいと思います」。前向きワードで締めるなんて、無敵じゃないか、愛子さま。

 話を少し変える。宮内庁が4月1日からインスタグラムを始めた。そもそもこれは秋篠宮家、中でも眞子さんへのバッシングがどんどん高まる中、皇室の情報発信のあり方を再考することからスタートした話だ。23年4月に設置された広報室がSNSの利用を検討、1年経って実現した。写真や動画を一挙に19件投稿し初日から2日でフォロワーが57万人を超え、この原稿を書いている5日現在では71万人を超えている。

 投稿されたのは公的な活動のものがほとんどで、宮内庁HPをしばしば見る人間(私のことだが)には見たことあるぞ感が強い。もっともインスタグラムが対象としているのはそういう人間ではないことは明らかで、黒田武一郎宮内庁次長は1日の記者会見で「若年層を含む幅広い方に皇室に関する発信をぜひご覧いただきたい」と語ったそうだ(「毎日新聞デジタル」4月3日配信)。

宮内庁インスタグラムから

■キラーコンテンツは愛子さま

 若年層を含む幅広い方へのキラーコンテンツは、間違いなく愛子さまだなー。そう思って読んでいたら4日、「愛子さま、明治神宮初参拝へ」というニュースが飛び込んできた。4月10日、明治天皇の妻である昭憲皇太后百十年祭にあたり初参拝する、その日は日赤の仕事は休む。そう宮内庁が発表したそうだ。卒業以来、次々繰り出される愛子さま情報。宮内庁が活気づいている感じが伝わってくる。

 愛子さまはきっとこれから、国民と皇室とをつなぐ役割を担っていくのだろう。日赤での仕事、公務。その両方が愛されポイントになるはずだ。そう理解すると同時に、「愛子さま頼みだなー」と思う。宮内庁、国民、両方が頼っていると思うのだ。

 だって皇室の次代を担う男性皇族は悠仁さましかいない。男系男子による天皇制が危うい状況にあるのは誰の目にも明らかなのに、議論は全然深まっていない。これはとても深刻な事態で、深刻だからこそ考えたくない、愛子さまの明るい話題だけを見ていたい。それが宮内庁で国会で、国民だと思う。

 宮内記者会は愛子さまに、安定的な皇位継承を巡る議論が進んでいないことを尋ねている。「公務の担い手が先細ることについて、内親王としてどのように受け止め、皇室の将来やご自身の役割をどのようにお考えでしょうか」と。愛子さまは「公務に携わることのできる皇族の数は、以前に比べて少なくなってきていると承知しておりますが、制度に関わる事柄につきましては、私から発言することは控えさせていただければと思います」と答えている。宮内庁も国会も国民も「制度に関わる事項」を真剣に考えるときだと思う。

(コラムニスト・矢部万紀子)

学習院大学卒業式での愛子さま(雑誌協会代表取材)
学習院大学卒業式での愛子さま(雑誌協会代表取材)