米朝首脳会談の「中止支持」で安倍首相が「勇み足」 その背景にある事情

米朝首脳会談の「中止支持」で安倍首相が「勇み足」 その背景にある事情

 米朝首脳会談は「中止」から一転、「予定は変えていない」。トランプ大統領に安倍晋三首相も振り回される。

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「6月12日、シンガポール」へサプライズ続きのトランプ劇場だが、ジェットコースター並みに揺れた5月下旬の展開は安倍氏に酷だった。

 トランプ氏は5月24日、北朝鮮の金正恩委員長あて書簡で首脳会談の「中止」を表明。安倍氏は25日、日ロ首脳会談のため訪れたロシアのサンクトペテルブルクで記者団に言い切った。

「米朝首脳会談に向けトランプ大統領と緊密に連携しており、方針は完全に一致してきています。実施されなくなったことは残念ですが、大統領の判断を尊重し、支持します」

 実は北朝鮮が事前協議に応じないという米国情報をふまえた発言だった。が、トランプ氏は直後に「米朝首脳会談を元通りにするため協議中だ」とツイート。さらに26日には韓国の文在寅大統領が4月に続き金氏と板門店で急遽、会談し、「6月12日の米朝首脳会談が成功せねばならない」と励ましあった。

 中国も「歩み寄って会うことを望む」(外務省報道官)と言い続けた。安倍氏は結局、26日のプーチン大統領との会談で「成功へ後押しすることで一致」と足並みをそろえた。

 朝鮮半島の非核化を探る北朝鮮と米中日韓ロの「6者」。各国の首脳の中でとりわけ今回の米朝首脳会談に身構える安倍氏の本音が、「中止支持」という形であらわになった。

 理由は拉致問題へのこだわりだ。他国の首脳らは米朝首脳会談の先に朝鮮半島の平和構築を語るが、安倍氏は「何よりも重要な拉致問題が実質的に前進する機会に」と強調する。

 安倍氏が「全ての被害者の即時帰国」を唱える拉致問題は、北朝鮮が「解決済み」の姿勢を示して14年。日本政府は、金氏が体制保証を熱望する史上初の米朝首脳会談を拉致問題進展の貴重なテコと捉え、「解決済み」と言われて終わらないよう米国への説明に精力を注ぐ。

 だが、米朝間で日朝の話にどこまで時間を割けるか。事前協議の最大の焦点は北朝鮮の非核化で、「6.12」ありきでは拉致問題の扱いがあいまいになりかねない。「中止支持」の背景にはそんな構図がある。

 さらに韓国が「6.12」へ強力に後押しする。文氏は5月26日の金氏との会談で22日の米韓首脳会談について伝え、「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和体制への旅程は決して中断されない」と確認。「6.12」は「旅程」の一里塚だ。

 安倍氏はトランプ氏への拉致問題インプットに躍起だ。

 5月28日夕、森友・加計問題での国会集中審議を終え官邸に戻ると被害者家族に会い、「米朝首脳会談がキャンセル、あるいは行われるような報道をされ、トランプ大統領から拉致問題に言及があるかご心配だろう」と語った。直後にトランプ氏に電話で家族の声を伝え、「解決が絶対に必要だ」と訴えた。

 事前協議は動きだしたが、トランプ氏の出方は読めない。「中止」表明2日前の5月22日には、ホワイトハウスでの文氏との首脳会談冒頭で記者団にこう愚痴ってみせた。

「金正恩は(5月7日に)中国で習近平国家主席と2度目の会談をして少し変わった。少し残念だ」

 ただ、それは虎の威を借る狐に対してではなく、虎そのものへのメッセージ。トランプ氏は米中関係を語り続けた。

「習主席はワールドクラスのポーカープレーヤーだ。たぶん私と同じことをしている」「私は中国との貿易について考える時、中国が北朝鮮についてどう助けてくれるかも考えている」

 トランプ劇場というより、カジノ・トランプ。場が荒れて焦れば手の内をさらす。そんな駆け引きに生きるトランプ氏との「友情」だけが安倍氏の切り札では心もとない。「日朝首脳会談」のカードを切れるかどうかは米朝首脳会談次第だ。

「6.12」とその先へ、ぎりぎりの戦いが続く。(朝日新聞専門記者・藤田直央)

※AERA 2018年6月11日号


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