【参院選予測】自民“年金大逆風” 1人区13敗か

【参院選予測】自民“年金大逆風” 1人区13敗か

 参院選は7月4日公示、21日投開票に決まった。「老後2千万円不足」問題での麻生大臣発言など、選挙前に危機感漂う安倍自民、かと思いきや、官邸周辺からは「乗り切った」との声すら聞こえてくる。ただ、本誌の予測では、それほど楽観できる結果ではないのだが……。



「問責決議案を提出するなどまったくの常識外れ。恥を知りなさい!」

 参院本会議で安倍晋三首相に対する問責決議案が審議された6月24日、反対討論に立った自民党の三原じゅん子氏は、こう声を張り上げた。野党は年金だけでは「老後2千万円不足」する問題を取り上げ、政府の責任を追及。これに対し、三原氏は次のように反論した。

「国民にとって大切な、大切な年金を政争の具にしないで頂きたい。高齢者の不安をあおらないで頂きたい。猛省を促します」

 盗人猛々しいとはこのことである。年金問題を巡っては、麻生太郎金融担当相は自ら金融審議会に諮問しておいて、報告書を受け取らないという前代未聞の愚挙に走った。森山裕国対委員長に至っては「報告書はもうない」などとうそぶき、野党が求める予算委員会の開催を拒み続けた。

 厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正問題で始まった今国会は、年金問題で幕を閉じた。国民の目から見れば、安倍首相は説明責任を果たさず、どこまでも逃げ回った姑息(こそく)さしか残らない。

 ある自民党幹部は話す。

「首相周辺からは『2千万円問題は終わった。G20サミット成功で支持率アップ。野党はだらしないのでまあ勝てる』なんて話も聞こえてくる。安倍政権になって衆参の選挙は負けていない。なんとなく今回も勝つという根拠のない空気がある。楽観するのはどうなんだか」

 年金問題に加え、10月には消費増税が控える。選挙を目前に、自民党には激しい逆風が吹きつける。

 政治ジャーナリストの野上忠興氏がこう指摘する。

「国民の関心が高く、生活に直結する問題が出そろいました。前門の年金、後門の消費増税、そして左右の門にもイージス・アショアの調査ミス問題と、先送りされた日米貿易交渉があります。安倍首相は四方を囲まれてしまった形です。自民党がここまで厳しい環境の中で選挙戦を強いられるケースは、稀なことです」

 事実、自民党が独自に選挙区の情勢を調査した極秘資料によれば、軒並み厳しい戦いを強いられている。前回の2016年参院選で議席を失った11の選挙区に滋賀、愛媛など5選挙区を加え、「激戦区」を16とした。だが、無風と思われた選挙区でも異変が生じている。調査は、4月15日、5月13日、6月10日の3回行われているが、順次、軒並み評価を下げている。

 しかも6月10日は、参院決算委員会で「2千万円不足問題」が紛糾した日だ。この調査は、年金問題が反映されているとは言い難い。実際、6月末に実施された調査では、さらに惨憺(さんたん)たる結果になったとの情報が永田町を駆け巡る。安倍首相は勝敗ラインを、自公で改選議席の過半数となる63議席に設定した。自公の改選議席は77だから、ずいぶんとハードルを下げたものである。詰まるところ、安倍政権のレームダック化は隠しようもなく、自信を失っている証拠なのだ。

 本誌は「亥年選挙」の総決算となる参院選の獲得議席数を、前出の野上氏、政治評論家の小林吉弥氏、政治ジャーナリストの角谷浩一氏に予測してもらった。3氏とも最大の争点は「年金問題」で一致する。そこへさまざまなマイナス材料が加わってくる。

 参院選の勝敗を左右する1人区で、自民は16年参院選で21勝11敗と野党の善戦を許した。焦点となるのは東北6選挙区で、前回、自民は1議席しか獲得できなかった。農協改革や環太平洋経済連携協定(TPP)など、農政への不安から“農協の反乱”といわれた。

 今回も懸案事項は農業だ。日米貿易交渉でコメ、牛・豚肉など農産物重要5品目でも関税撤廃を迫られるのは必至で、日本の農業は大きな打撃を受けかねない状況だ。さらに、そこへ降って湧いたのが、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の適地調査ミス問題だ。

 野上氏は前回と同じく、東北で自民は1勝5敗の再現があり得ると見る。

「配備候補地の秋田は、前回、自民が東北で唯一、5万票の大差で議席を守った選挙区です。今回も当初、自民が安泰と見られていました。しかし、イージス・アショア問題浮上で自民最新情勢調査でも並んでしまいました。東北全般に言えることですが、農業票の流出も懸念される状況です」

 小林氏は4勝2敗で自民が勝ち越すと予想する。5野党・会派が32の1人区すべてで一本化できたのは6月に入ってからだった。小林氏がこう語る。

「野党が統一候補で合意するのが遅すぎました。新人ばかりなのだから、知名度を浸透させていかなければならないのに、その時間が足りません」

 ただし、「接戦ばかりで全県でひっくり返る余地は残っている」と波乱含みだ。

 角谷氏もこう語る。

「東北における野党の勢いは失速気味です。野党も楽な選挙ではない。候補が統一されただけでは勝てず、票を野党に集めるという努力を各党がやらなければ、勝利は見込めない。青森、宮城、秋田は自民が優勢で、3勝3敗と見ます」

 他の注目の1人区については後に触れるが、1人区の戦いで自民は、野上氏が19勝13敗、小林氏が23勝9敗、角谷氏は21勝11敗とした。

 複数区では、北海道の自民高橋はるみ氏は前知事で知名度が抜群。同じ自民の岩本剛人氏の票を食って、一本かぶりする可能性も指摘される。東京では、元厚労副大臣の武見敬三氏が当落線上になるとの予測もある。

 公明は選挙区7、比例7の当選を目指しているが、兵庫で取りこぼす危険性があり、山口那津男代表や公明とのパイプが太い菅義偉官房長官が現地入りしてテコ入れしている。

 維新の党勢の衰えも顕著だ。大阪では16年参院選で比例票が約130万票あったのが、17年衆院選で約93万票とガタ減りしている。大阪での2議席獲得に黄信号がともる。

 自民の獲得議席数は、野上氏が52議席、小林氏が56議席、角谷氏が55議席で、いずれも10議席以上減らす結果となった。維新を足しても、改憲勢力3分の2には届かなくなる。野党では、立憲がいずれも20議席超で躍進するが、国民、共産などは伸び悩む。

「2桁も減らして、3分の2維持どころか、自民単独過半数割れは惨敗です。普通の自民党総裁ならば辞任するでしょうが、安倍首相は『負けじゃない』と言い張り、総理の椅子に居座るでしょう」(角谷氏)

 ロシアとの北方領土返還交渉も北朝鮮との拉致問題解決も暗礁に乗り上げ、解決の糸口すら見えない。議長国を務めたG20もさしたる成果は見られなかった。そこへ、10月からの消費増税が重くのしかかる。

「10%というキリのいい数字は、簡単に税額を計算できるだけに、国民の心理的負担が大きい。一方で、年金だけでは老後に2千万円足りなくなるから投資しろ、では日々の生活に追われる庶民の反発を買って当然です。増税後、景気が冷え込むのを誘発することになるでしょう。ポスト安倍は尻拭い内閣で短命に終わる恐れが多分にある。岸田氏がやろうと、菅氏がやろうと、次の衆院選は勝機が乏しくなるからです」(野上氏)

“消えた年金問題”が第1次安倍政権瓦解の引き金となったように、年金問題や増税は選挙で思わぬ風を吹かすことがある。逆風がつむじ風となって、あちこちの選挙区で議席を巻き上げる事態も起こり得るのだ。

 そうなるとポスト安倍の声も現実味を帯びてくる。自民党で安倍首相が所属する清和会の議員は言う。

「安倍さんは4選を目指す気はない。安倍さんも飽きられている。ポスト安倍がもっと言われるようになっても仕方がない。うちの派閥は、菅さんか、岸田さんを推すことになる。ただ、清和会としては本音は菅さん。安倍さんと一心同体だし、正式な派閥もないのでやりやすい」

 先にも触れたが、16年の参院選、東北で唯一、自民党が議席をとった秋田では、今回も自民党の現職、中泉松司氏が優勢と見られていたが、形勢が変わりつつある。

「イージス・アショア」に関する一連の問題発覚について、自民党関係者はため息交じりに語る。

「イージス・アショアは、配備の是非を述べる以前の問題で頭が痛い。そこに『2千万円問題』。国民年金だけに加入している農家も多く、不安が高まっている」

 これで勢いづいたのは、対抗馬の寺田静氏の陣営だ。関係者の一人は「言われるがままミサイル配備に動いていた県と国との関係に疑問を持っていた人は多い。年金問題も尾を引いている。争点になれば十分に勝てる見込みがある」と意気込む。

 新潟は、自民の塚田一郎氏が守勢に回る。国の道路整備事業を巡って安倍首相と麻生氏の意向を「忖度した」と発言し、国交副大臣を辞任した。

「支持者におわびして回っているが、逆効果です。あの発言によって、自民は県議選でも議席を減らし、塚田氏は県連会長まで辞めざるを得なくなった。そのダメージは非常に大きい」(小林氏)

 野上、角谷の両氏も野党統一候補の打越さく良氏が優勢と見る。

 山梨は今年1月の知事選で、自公が推薦した長崎幸太郎氏が当選し、自民が足場を築きつつある。

「自民の内紛が伝統的に多い県ですが、知事選でようやくまとまった」(小林氏)

 だが、00年代に入って過去6回の参院選で、自民は2勝4敗と負け癖がついている選挙区でもある。野上氏と角谷氏が野党の市来伴子氏、小林氏が自民の森屋宏氏と予想が割れた。

 三重は元民主党代表の岡田克也氏の地元。今回、自民が「激戦区」に加えた滋賀は、前知事の嘉田由紀子氏の人気が高く、いずれも野党候補が優位に選挙戦を進めている。

 加計学園の獣医学部新設問題に揺れた愛媛は、野党の永江孝子氏がリードする。

 大分も3氏とも野党候補が有利と予想。安保法制国会のときに安倍首相の補佐官を務めた自民現職・礒崎陽輔氏は、07年と13年の参院選では野党が乱立したことで票が割れ、漁夫の利を得て当選したが、今回は野党候補は安達澄氏に一本化された。

「16年参院選では、自民はガチンコ対決で民進党(当時)にわずか1千票余りの差で敗れている。今回も統一候補のうえ、年金と増税の逆風も吹く。自民連敗があり得ます」(野上氏)

 名護市辺野古で新基地建設が強行されている沖縄は、野党候補の高良鉄美氏が、安里繁信氏を圧倒している。

 角谷氏が政府の対応を厳しく批判する。

「参院選でも野党のオール沖縄陣営が勝つと、玉城デニー氏が制した知事選、豊見城市長選、那覇市長選、今年2月に実施された辺野古埋め立ての是非を問う県民投票、4月の衆院沖縄3区補選に続いて、6連勝になる。毎回、明確に民意を示しているのに、政府はまったく顧みようとしない」

 また、角谷氏は無風地帯と思われる北陸の石川に着目している。

「国民民主の田辺徹氏は支援集会で『比例は共産党に』と言い始め、大きな変化の兆しを感じます。『共産党とは組めない』とかたくなな野党候補は多いが、この壁を乗り越えられるかどうかが、議席積み上げのカギとなるでしょう」

 一方、広島ではポスト安倍の代理戦争とみまがう選挙戦も。広島は岸田文雄政調会長率いる岸田派の牙城だ。岸田派の重鎮、溝手顕正氏が6選を目指して出馬予定だ。これまで自民と非自民で2議席を分け合ってきたが、自民党が圧倒的な票を集めてきた。そこに官邸が目をつけて、新人の河井案里氏を2人目として擁立。これに対して県議の一人はこう憤る。

「河井さんの夫は首相の側近で、菅官房長官とも近い。さっそく菅さんが応援演説に来るほどです。2人目の擁立は党勢拡大のためというが、菅派拡大のためではないか。われわれはそのために票を集めてきたわけではない。党広島県連が河井陣営を支援することはない」

 河井陣営に選挙状況を尋ねると、「厳しい戦い。あくまでも自民党で2議席獲得を目指すだけだ」。

※週刊朝日  2019年7月12日号


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