ジャーナリストの田原総一朗氏は、イラン革命防衛隊の司令官殺害について、トランプ大統領の意図を解説する。



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 2020年、世界中が注目している最も重要な政治イベントが、11月に行われる米国の大統領選挙である。

 この大統領選挙で、トランプ大統領が再選されるか否かで、世界のあり方が大きく変わることになる。

 前回の大統領選挙では、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、そして大手テレビはいずれも、本命はヒラリー・クリントンで、これで決まり、という報じ方をしていた。日本のマスメディアも、同様の報じ方をしていた。

 ところが、当初は共和党の中でも泡沫(ほうまつ)候補扱いをされていたドナルド・トランプが当選した。

 トランプは選挙で、それまでのどの大統領も絶対に口にしなかった、とんでもない事柄を言ってのけたのである。

 米国は少なくとも第2次世界大戦以後は、事実上世界の仕切り役を演じていて、世界の仕切りを上手にやれるかどうかが、大統領の手腕だった。だが、トランプは、世界のことはどうでもいい、米国にとってトクになることしかやらない、そして偉大な米国を復活させる、と宣言した。

 これは、米国の少なくともインテリにとっては、米国人としてのプライドを捨てる恥ずかしいことだった。

 だが、トランプの言い方が米国の国民大衆には受けたのである。とくに豊かではない庶民の多くは、米国が世界の仕切り役を演じるために世界の犠牲になり、だから自分たちは生活が苦しいのだ、と捉えていた。

 米国は人件費が高く、グローバリズムのために、米国の多くの企業が工場を人件費の安いメキシコやアジアの国々に移しだした。旧工業地域は廃虚のようになり、当然ながら失業者も多くなった。貧富の格差は大きくなり、米国民の多くが「貧」に属することになった。だから、彼らはトランプの言い方に乗ったわけだ。

 そしてトランプは、オバマ前政権の政策を「だから米国は損失を被ったのだ」と、ことごとく否定した。

 TPPやパリ協定、イラン核合意からの離脱、そして北大西洋条約機構(NATO)の国々も手厳しく批判した。まるでNATOが壊れても構わないように、である。

 米国にとってトクになることしかやらない、と宣言していたそのトランプが、1月3日にイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を爆殺することを命じたようだ。このことは、米軍幹部たちも予想していなくて、「仰天」したとニューヨーク・タイムズは報じている。

 ソレイマニは、イラン国民から英雄視されていて、イランが米国にとって危険極まりない報復攻撃をするのではないか、と国防総省幹部たちが恐れていたためだ。

 実はソレイマニ殺害は、オバマ前政権の時代から選択肢として何度か出ていたのだが、そのたびに否定されていたのである。トランプ政権になってからも持ち出されたことはあるが、トランプ自身も否定的だったということだ。

 なぜ、トランプはあえて「究極」の選択をしたのか。トランプの意識は11月の大統領選挙がすべてで、共和党右派に「米国はイランに対して弱腰だ」という不満があり、弾劾(だんがい)問題を抱えているトランプは、イランに強気で対峙(たいじ)することが決め手になると考えたようだ。

 世界各国は、危険極まりない愚策で、大統領の資格なし、とまで批判している。安倍首相や閣僚たちはどのように捉えているのだろうか。

※週刊朝日  2020年1月24日号