9月16日に誕生した「菅政権」。私たち国民は新政権とどう向き合えばいいのか。最も注視するべき点はどこなのか。著書に『メディアと自民党』などがある社会学者の西田亮介さんに話を聞いた。AERA 2020年9月28日号の記事を紹介する。



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──今回の総裁選は一気に菅義偉氏支持の流れができて、国民の支持も集まったようです。

 勝ち馬に乗りたいというのはある意味、素朴な感情でもあるので理解できます。菅氏が安倍政権の方針を継続させる姿勢をみせ、手堅さの印象もあり、コロナ禍の国民感情とうまくマッチしたのではないでしょうか。

──安倍政権下では国民の分断も進みました。

 政権支持層と非支持層だけでなく、政治に関心がある層、ない層の分断も大きいと考えます。マイノリティーや非支持者も含めて融和や対話を進めていく姿勢は、安倍政権には皆目みられませんでした。街頭演説でヤジを飛ばした人に向けて安倍前総理が「こんな人たち」と叫んだのは象徴的です。

──菅氏は安倍路線を継承します。国民の政治への向き合い方が試されているかのようです。

 メディアの環境が変わっていくに伴い、国民のある種の感受性、政治への認識や知識は大きく変わったのではないでしょうか。人々が持っている具体的な政治の知識や向き合い方、批判能力みたいなものは今、弱まっていると考えられます。新聞が読まれなくなり、ネットやテレビだけで情報を入れるのであれば、深い知識は得られません。

──そういう層が厚くなれば、権力側にとっては都合が良い。

 国民感情の矛先は大変アドホック(場当たり的)なもので、政治に批判的な意識を急速に持つこともあれば、平時はそうでもない。そうしたとき、正確な知識自体が流通していないような社会というのは、政権にとって好ましい状態です。

■政治不信払拭は難しい

──菅政権が引き継ぐべきものと、そうでないものは。

 経済政策は引き継ごうとしているのでしょう。ただ、経済政策の内実は実はよく分からなくて、「3本の矢」に始まったアベノミクスは常に姿を変えています。今は「ソサエティー5.0」ですか。いずれにせよ生活中心の経済重視は重要です。

──一方で、安倍政権の負の遺産はたくさんあります。

 安倍政権下では公文書の改ざんや国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽、統計不正など様々な疑惑や不祥事がありました。この種の不祥事は政治行政に対する不信感を高めます。ただこうした状況は、民主主義の国でもスポイルした(腐った)政府ではそれなりの頻度で起きることです。官僚機構にせよ、自民党の派閥にせよ、弱体化して緊張関係がそがれていることも関係します。

 しかしこれをもって「独裁国家だ」と批判してみても大した意味はありません。それを防ぐためのガバナンス上の工夫をきちんと用意することが重要ですが、安倍政権を継承するという菅首相にはできないかもしれません。官房長官として当事者とも言える立場だったのですから。

(聞き手/編集部・小田健司)

※AERA 2020年9月28日号