2週間を切った米大統領選。最近の情勢について、ジャーナリストの田原総一朗氏は事情通の話を交えて説明する。



*  *  *
 この原稿が店頭で読者の目に触れるときには、米大統領選挙は2週間後に迫っている。
 トランプ大統領は明らかに新型コロナ禍の対応に失敗し、米国の感染者数は15日現在787万人超、死者は21万人超と、世界一多い。しかも、ここへ来て感染者の数が異常に増大し続けている。

 その上、2日にトランプ氏自身の陽性が判明し、入院を余儀なくされた。そして、ホワイトハウスのトランプ氏に近い人間たちはマスクを着けず、そのためにクラスターが発生した。マスクを着けないトランプ氏に対する忠誠を示すために、周囲がマスクを着けなかったのだと見られている。

 この時点で、トランプ氏再選の可能性は消えた、と私は判断した。

現に、米国の複数メディアの支持率調査では、トランプ氏が入院する以前から、バイデン氏が10ポイント程度リードしていた。

 ところが、トランプ氏は何と3日で退院し、自分の体調は大変好調である、と言い切った。そして12日から接戦州であるフロリダで遊説を再開した。

「免疫がついて力がみなぎっている。今すぐ皆にキスしてもいい」

 トランプ氏は数千人の聴衆にマスクなしで愛嬌を振りまき、「自分はコロナウイルスに勝ったのだ。米国も間違いなく、コロナウイルスに勝つ」と何度も繰り返した。

 主治医によれば、ウイルス抗原検査でトランプ氏は陰性で、人に感染させる恐れはないということだ。米メディアは、早期の遊説再開には政権内部からも懸念の声が出たが、トランプ氏はそれを無視して再開を急いだと報じている。

 繰り返すが、トランプ氏はバイデン氏に約10ポイントのリードを許していた。焦らざるを得なかったのだろう。

 ただ、15日に予定されていたトランプ・バイデン両氏の2度目の討論会は中止となった。

 米国の事情通に理由を問うと、主催団体は2度目の討論会はリモートで行うことにしていて、トランプ氏は直接の対決でなければ嫌だと断ったのだという。

 なぜ主催団体はリモート討論にしようとしたのか。事情通の説明では、直接の対決にするとトランプ氏は当然マスクなしで討論に臨み、「コロナに勝った」というトランプ氏の勢いがバイデン氏を圧倒すれば、米国人の多くがマスクをしなくなり、コロナ禍がやみくもに拡大するのを恐れたためだという。主催団体の判断は正しかったと思う。

 だが、トランプ氏が各地の遊説で「自分はコロナに打ち勝った。米国はコロナに勝ったのだ」と自信を持って訴え、またいかにも元気いっぱいの様子を見せれば、その姿を見た少なからぬ米国人たちがトランプ氏に投票する、という可能性がある。

 事情通たちは、トランプ氏が入院したときには、再選の見込みはないと言い切っていたのだが、元気いっぱいに遊説を始めると、どうなるかわからないと、トランプ氏が陽性になる以前よりも緊迫感を示すようになった。

 それにしても、トランプ氏は「世界のことはどうでもよい。米国さえよければいい」と言い切って、世界中の非難を浴びているのに、バイデン氏はそれをまったく批判できないでいる。私などには、これが何とも歯がゆいのだが……。

※週刊朝日  2020年10月30日号

■田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数