FC東京×川崎F「多摩川クラシコ」誕生の舞台裏 「君たちは、FC東京に勝ちたくないのか」の真意

FC東京×川崎F「多摩川クラシコ」誕生の舞台裏 「君たちは、FC東京に勝ちたくないのか」の真意

 東京と神奈川の都県境を流れる多摩川を挟んで、Jリーグのホームタウンが隣接する両クラブの対戦は、こう呼ばれている。「多摩川クラシコ」。

 ホームスタジアムがそれぞれ味の素スタジアム(東京都調布市)と等々力陸上競技場(川崎市中原区)となる、FC東京と川崎フロンターレの試合のことだ。クラシコとは、スペイン語で「伝統の一戦」の意。Jリーグの下部にあたるJFL(ジャパンフットボールリーグ)時代から好試合を演じ、J2ができた1999年にともにJリーグに参入。お互い長くライバル関係にある。



 今年2月の開幕戦は川崎のホームで0‐0。そして7月14日、今度はFC東京のホームで川崎と対戦する。令和最初の「多摩川クラシコ」だ。

 スペインの強豪レアル・マドリードへの移籍が決まったMF久保建英(たけふさ=18)の大活躍もあり、悲願の初優勝へ、首位で前半戦を折り返したFC東京。リーグ序盤はつまずいたが、じわじわと順位を上げ、史上2クラブ目の3連覇を狙う川崎。7月から後半戦に入ったJ1の優勝争いを占う一戦といえる。

 FC東京のプロモーション担当者も鼻息が荒い。

「今回は、本当に『ガチ』の対戦になりそうです」

■世界中で熱いダービー

 多摩川クラシコは、いわゆる「ダービーマッチ」としてくくられる試合のひとつだ。

 ダービーマッチとは、同じ都市や州などの同じ地域にあるチーム同士の対戦のことを言う。由来は、サッカー発祥の地、英国の都市ダービーで、今のサッカーのもととなるフットボールが、街の教会区を二分して争われたことが起源とされる。

 世界的なダービーは数多い。イングランド・プレミアリーグの強豪同士が戦うマンチェスター・ユナイテッドとマンチェスター・シティーの「マンチェスターダービー」や、かつてMF本田圭佑(33)が所属したACミランと、DF長友佑都(32)がプレーしたインテル・ミラノの「ミラノダービー」も熱い。

 日本で代表的なのは、熱狂的なサポーターを持つ浦和レッズと、大宮アルディージャの「さいたまダービー」だ。かつては浦和市と大宮市で本拠が違ったが、現在は同じさいたま市。お互いの成績に関係なく、毎度スタジアムが超満員になるほど。大阪府内の人気を分かつ、ガンバ大阪、セレッソ大阪の「大阪ダービー」も盛り上がる。

 ダービーにはもう一つ、「ナショナルダービー」と呼ばれるものがある。国内で屈指の人気、実力を誇るクラブ同士の争いだ。レアル・マドリードとバルセロナの「エル・クラシコ」は毎回、世界中のファンが注目する。

 多摩川クラシコは、この「クラシコ」から拝借したという。はじまりは2007年。当時からFC東京に在籍し、立ち上げにも携わった若林史敏・運営広報統括部長(53)が思い起こす。

「クラシコでいこうとなったときは、びびりましたよ。やり過ぎじゃない?って。優勝争いもしたことがないチーム同士だったから。でも、ダービーっていうのも敵対心がないと使っちゃいけないのではないかな、なんていう思いもありました」

 ただ、多摩川クラシコが生まれるきっかけとなったのは、まさに「対抗心」だった。

■近距離の川崎で集客

 06年11月、FC東京がホーム戦に川崎を迎えた試合。都内全域をホームタウンとするFC東京。だが、味の素スタジアムの地理的条件を考えると、都の東部から足を運んでもらうより、川崎からの方が近い。FC東京側は、アウェーのサポーターにたくさん来てもらおうと考えた。

 そこで用いたのが、あおり作戦だった。「君たちは、FC東京に勝ちたくないのか!」。そんなキャッチフレーズのポスターを作った。川崎に許可を取り、多摩川の反対側も走るJR南武線の各駅に貼り出した。

 これが成功した。

 成績が低迷し、集客に苦戦していたシーズンの終盤、あいにくの雨にもかかわらず、2万3251人が入った。試合は1‐4から4点を取り返して、5‐4で逆転勝ち。若林部長によると、「当時の状況からしたら十分な入りで、試合も盛り上がった」という。

 プロモーションの視点から、商機を見いだしたのが川崎側だった。継続的に両クラブの対戦を盛り上げていこうとFC東京に提案した。クラブ間の話し合いを経て、07年5月の対戦が「多摩川クラシコ」と銘打った初試合となった。

 当時の担当者の下で働いた経験のある、川崎の集客プロモーショングループの佐藤弘平さん(28)の言葉も力強い。

「歴史がないからダービーはできない、ではない。作ってやろう、と逆手に取ったのです」

 クラシコという単語を使ったのは、他のダービーとの差別化という意味合いもあったと話す。

 共同での記者会見に始まり、両クラブの小学生チーム同士が前座試合をする「多摩川コラシコ」なども開催した。その後、次々と企画を展開。どちらのホームでも使う、この試合限定の入場曲まで作った。川崎側は多摩川を船で渡ったり、わざわざ東京・伊豆大島から味の素スタジアムの隣の調布飛行場まで飛んだりする観戦ツアーを決行。川崎市から歩いて乗り込む企画を組んだこともある。

「私にとっては、年に2回くる、一番楽しみなお祭りみたいなものです」(佐藤さん)

 多摩川クラシコが始まった07年前後から、日本では「○○ダービー」と名付けられた試合が出始めた。「作られたイベント的なもの」と、嫌がるサッカーファンもいるかもしれない。だが、99年のJ2参入時からFC東京を応援する会社員の武藤雄太さん(36)は「ファン全体を増やすという意味では、ライト層が喜ぶコンテンツもいいことなのではないか」と古参のファンも納得する。

 国内外のサッカーに精通するJリーグの原博実・副理事長(60)は、日本的なダービーで生まれる好影響を指摘する。

「無理やりに作ったようなものでも、いい面でライバル意識を持って戦うことで、自分たちにはこんな特徴がある、と気付くきっかけになる。経済規模から人口、気候や特産物。そういう特徴を持ち出して、『俺たちの方がいいぞ』ってぶつけ合ったら、楽しいですよね」

 クラブ主導で、両クラブのサポーターやファンが共に雰囲気を作り上げていく。あおられたって、笑顔であおり返す。ピリピリした雰囲気とは違う。世界のほかにはない、日本的なダービーマッチがJリーグにはある。(朝日新聞スポーツ部・勝見壮史)

※AERA 2019年7月15日号より抜粋


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