「やるっきゃないと腹をくくった」 なぜ高橋大輔は新たなチャレンジに挑んだのか

「やるっきゃないと腹をくくった」 なぜ高橋大輔は新たなチャレンジに挑んだのか

 高橋大輔がなぜ人を魅了するのか。その理由を『氷艶2019―月光かりの如く―』(7月26〜28日、横浜アリーナ)で垣間見た。

 このアイスショーで高橋が演じるのは、日本文化の源流となる古典『源氏物語』の主人公・光源氏である。一般的にはプレイボーイの代名詞になっている光源氏だが、実際に原作で描かれているのは、亡き母を求める孤独な魂だ。高橋はその繊細な影を、卓越したスケーティングで氷上に描いてみせた。



 高橋の魅力を鋭く分析する宮本亜門氏の演出家としてのまなざしが、光源氏に高橋を配する『氷艶2019』を創り出した。プログラムには宮本氏と高橋の対談が掲載されているが、そのページについているキャッチはこうだ。

「高橋さんが持つ『痛み』のようなものを、なんとか光源氏に重ねたい、と思ったんです。―宮本亜門」

 宮本氏が「痛み」と表現するものは、日本男子初の五輪メダリストという輝かしい経歴を持つ高橋に、常に感じられた影の部分だろう。フィギュアスケーターは、繊細さも表現面での武器にすることができる、ある意味で特殊なアスリートだといえる。世界一と称されるステップと圧倒的な表現力を持ちながら、高橋にはいつも自分を省みている気配があった。もっと自信を持っていいのに、と感じさせるその謙虚さが、高橋を世界のトップレベルまで押し上げたのかもしれない。

 前回の『氷艶2017 ―破沙羅―』で、スケート靴をはかずに板張りの舞台で踊るという挑戦を衝撃的に成功させた高橋は、今回は台詞と生歌にチャレンジした。高橋にとって一番難しかったのは、台詞回しだったという。

「台本をもらった時は棒読み状態。なんとか役者の皆さんにアドバイスを頂き形になったと思います。歌は収録予定だったのですが生歌に変更になり、正直恥ずかしかったですが、この作品の為、『やるっきゃない』と腹をくくりました」

 初回公演で聞いた高橋の台詞や生歌は、背後の苦心が感じられない自然なものになっていた。高橋は「魅せ方は役者の方々から学ぶものが多くありました」とコメントしている。

「さすがにセリフや歌は競技では行えないですが、魅せ方については今後に活きてくると思います」

 高橋はこの公演で受けた刺激を、現役選手として競技会でも活かしていくだろう。プログラムに掲載された宮本氏との対談で、高橋は「試合も、ショーも、すべてやる。そこに今回の現役復帰の意味がある」と語っている。

「前は、試合は試合、ショーはショー、と思っていましたが、今は自分を表現する場として、どちらも同じだと思っています」

 本公演後には、ショートプログラムの振り付けを行うという高橋。今までにない形でアイスショーへの出演と現役選手としての活動を両立しようとするのは、はっきりとした目標があるからだ。

「今回のように競技以外の場所でスケーターが活躍できる場所、表現者として表現できる場所、そしてスケートを職業にできる環境を目指していきたいですね」

 フィギュアスケートの可能性を広げようとしている高橋のスケーティングは伸びやかで、光源氏を表現するのにふさわしい美しさがあった。表現する場に向けて厳しく自分と向き合う静かさと、本番で自らを解き放つ華やかさ。そのコントラストが、高橋大輔の魅力なのかもしれない。(文・沢田聡子)

●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」





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