甲子園に応援団が来ない…台風襲来が引き起こした“悲劇”

甲子園に応援団が来ない…台風襲来が引き起こした“悲劇”

 連日熱戦が行われている第101回全国高校野球選手権大会。今年もどんなドラマが生まれるか大いに楽しみだが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「割りを食った人々編」だ。



*  *  *
 降雨コールドゲームで、勝ったほうも負けたほうも割りを食う羽目になったのが、1988年の1回戦、滝川二vs高田(岩手)だ。

 悲願の甲子園初出場をはたした高田は1回表、1、2番の連続長短打で1点を先行したが、なおも無死一、二塁のチャンスに送りバントとヒットエンドランの失敗で追加点ならず。今にして思えば、このときツキが逃げてしまったのかもしれない。

 夏の甲子園初出場の滝川二もその裏、4番・佐野貴英の右前タイムリーで同点。2回に右翼手が目測を誤る幸運な三塁打で勝ち越したあと、3回にも山本貴司の2ランで4対1とリードを広げた。

 高田も5回に1点を返すが、試合前からぱらついていた雨がこのころから激しくなる。その裏、エース・藤原秀行がぬかるんだマウンドに足を取られ、暴投で追加点を許してしまう。

 そして8回、3対9とリードを広げられ、なおも2死一、三塁のピンチで32年の早稲田実vs秋田中以来56年ぶりの降雨コールドゲームが宣告された。

 直後、高田の応援スタンドでは、最後まで試合ができなかったショックから、女生徒たちが抱き合って泣き、応援団長も「自分たちの応援が足らなかった」と天を仰いだ。

 雨は勝者の滝川二にも影響を及ぼした。選手や応援団の健康を考慮して、試合後の校旗掲揚と校歌斉唱が省略されてしまったのだ。

 佐野主将は「(校歌を歌えなかった)無念さは次も勝って穴埋めします」とコメントしたが、2回戦で東海大甲府に敗れ、同校が夏の甲子園で初めて校歌を歌うことができたのは、11年後の99年だった。

 応援団が大渋滞に巻き込まれ、試合に間に合わなくなる悲劇が起きたのが、90年の1回戦、大宮東vs高知商だ。

 甲子園初出場の大宮東は、大会通算2千試合目のメモリアルゲームとなったが、応援スタンドに陣取っていたのは、前日の朝8時に先発隊として出発したブラスバンドと父兄の180人だけ。午前10時32分に試合が始まっても、前夜計35台のバスで学校を出発したはずの1千人近い学校関係者は姿を見せないままだった。

 実は、同校の応援バスは、台風11号の影響と事故、帰省ラッシュの大渋滞に巻き込まれ、山梨県上野原市の談合坂を通過したのが4時間遅れの午前2時。この時点で「もう駄目だ」とあきらめたOBもいたほどだった。

 しかし、大応援団不在にもかかわらず、大宮東ナインは健闘する。1点を先行された直後の1回裏、2四球でチャンスをつくると、死球を挟む4連打で6対1と逆転した。

 バスで甲子園に向かう途中だった生徒の中には「(今日は)間に合わなくても、6点取って試合は大丈夫と思った。2回戦を見ればいい」と安堵した者もいた。

 ところが、夏18回の出場を誇る高知商も、3、4回に1点ずつを返し、じわじわと反撃。6回に岡林親司の左越えソロで2点差に迫ると、7回には敵失に乗じて、ついに6対6の同点に追いついた。

 大宮東もその裏、野瀬英則の左越えソロで7対6と再び勝ち越したが、高知商は8回に3長短打に犠飛を絡めて8対7と再逆転。9回にも3点を加え、駄目を押した。

 そして、大宮東の最後の攻撃も簡単に2死。ここでようやく応援団が17時間かけて甲子園に到着した。

 大声援に勇気づけられ、連打で2死一、三塁のチャンスをつくるも、次打者が三ゴロに倒れゲームセット。生徒たちは到着してわずか数分で甲子園を去ることになった。

 北川博敏主将は「1回の6点で受け身になってしまった。いつでも取れると思っているうちにズルズルいってしまった」と必死に涙をこらえていた。

 テレビ観戦していた高校野球ファンが思いきり割りを食うトンデモハプニングが起きたのが、17年の準決勝、広陵vs天理だ。

 この日まで4本塁打の広陵・中村奨成(現広島)は1回1死二塁、碓井涼太の初球をバックスクリーンに運ぶ特大の先制2ラン。85年のPL学園・清原和博の大会記録5本に並んだ。

 そして、3対4で迎えた5回、先頭打者としてこの日3度目の打席に入った中村は、左中間スタンド中段に同点弾の通算6号を放ち、ついに清原の記録を抜いた。

 ところが、NHKのテレビ中継を観戦していた全国のファンは、この歴史的瞬間をリアルタイムで見ることができなかった……。

 なぜか?実は、5回の広陵の攻撃に入る前の午前11時4分から中継が中断され、3分間、ニュースが流れていたからだ。中継が再開されたとき、すでに中村の打席は終わったあと……。さらに皮肉なことに、そのニュースの中で、「広陵・中村選手が大会記録に並ぶ今大会5本目の本塁打を放ちました」と報じていたから、間の悪さ全開だった。

 グラウンド整備が行われる5回終了後までニュースを延期する手もあったはずだし、大会記録更新のかかった中村が先頭打者として打席に入ることがわかっているのに、紋切り型の対応には疑問も残る。

 ネット上でも「野球やってる時に野球のニュースとか呆」「歴史的な瞬間を放送しないとはけしからん受信料返金しろ」「これがNHK。ニュースは読めても、空気は読めない」など怒りの声が相次いだ。

 ネット中継の普及により、「NHK以外」の選択肢も可能になっただけに、高校野球はニュースに邪魔されることなく楽しみたいものだ。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。


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