“野球の上手い芸人”杉谷拳士 「死球」を「笑い」に変えた爆笑エピソード

“野球の上手い芸人”杉谷拳士 「死球」を「笑い」に変えた爆笑エピソード

 日本ハムの……と言うより、今やプロ野球界を代表する“いじられキャラ”として人気を博している杉谷拳士が「デッドボールで人を笑顔にする男」として大きな話題を集めたのが、今年7月21日のロッテ戦(札幌ドーム)だった。

 先発・堀瑞輝が初回に7失点と炎上し、2対8と大きくリードされた日本ハムは、6回の攻撃も、2番手・唐川侑己の前に石井一成が三振、宇佐見真吾が三ゴロで、たちまち2死。

 そして、この悪い流れを変えるべく、ベンチの期待を担って登場したのが、代打・杉谷拳士だった。

 5月23日の楽天戦(同)で、球団では2007年のセギノール以来の左右両打席でのシーズン1号&2号を記録し、計4打点を挙げた“意外性の男”は、打席に立った瞬間から、何かをやってくれそうなオーラ(?)を放っていた。

 ところが、ファウルで粘ってでも出塁を期したはずの打席は、たった1球で終わる。唐川の外角低めを狙った初球がワンバウンドで右足スパイクの裏側に当たったのだ。腕や足ならともかく、ふつうなら考えられないような“死角”の部分に当たるとは、これまでにも死球絡みのエピソードの多い杉谷を象徴するような珍死球である。

 日本ハムのベンチでは、大田泰示をはじめ、ナイン一同大爆笑。出塁した杉谷も一塁ベース上で鈴木大地と何やら談笑し、「お前らしいぜ!」とばかりにお尻を叩かれるなど、真剣勝負から打って変わって、ほのぼのムードに。一歩間違えれば、乱闘にも発展しかねない死球という「痛い!」アクシデントも、杉谷にかかれば、“お笑い”に早変わりなのだ。

 この一部始終を、パ・リーグTVが冒頭で紹介したユニークなタイトルで動画公開したところ、1日で再生回数が5万回を突破。杉谷の一挙手一投足はもとより、大田の大笑いシーンや鈴木の“お尻ポン”も、視聴者の間で「いいね!」と大反響を呼んだ。

 そんな杉谷の死球エピソードのルーツは、高校時代にまで遡る。06年夏の甲子園、当時帝京の1年生だった杉谷は、8番ショートとして全試合にフルイニング出場。13打数4安打4打点の成績を残している。

 準々決勝の智弁和歌山戦は、8回を終わって4対8の劣勢も、9回2死から一挙8点の猛攻で大逆転に成功する。

 だが、この回、3番手の投手に代打を送り、主力投手を使いはたしていた帝京は、その裏、大ピンチを迎える。4番手が連続四球のあと、3ランを浴び、1点差でなおも無死一塁。この場面で、中学時代に投手経験のある杉谷が5番手として公式戦初登板。思いがけず、憧れの甲子園のマウンドに立った1年生が「よっしゃあ!」と張り切ったのは言うまでもない。

 ところが、初球の108キロカーブがすっぽ抜け、いきなり死球。たった1球で降板となった。しかも、直後に6番手が同点タイムリーを浴びたあと、押し出しのサヨナラ四球を許したため、杉谷はたった1球で敗戦投手に……。ちなみに智弁和歌山の勝利投手・松本利樹も1球勝利とあって、勝ったほうも負けたほうも1球の珍事となった。死球を与えた側と与えられた側の違いはあれど、「死球」「たった1球」「珍事」のキーワードつながりは、前記の珍死球の話とピッタリ一致しているという点でも興味深い。

 死球にまつわる珍プレーをもうひとつ。必死の死球アピールが認められなかった結果、打ち直しの打席で幸運の女神が微笑んだのが、15年6月24日のロッテ戦(旭川)だ。

 4対0とリードの日本ハムは4回1死無走者で杉谷が打席に立ったが、1ストライクから益田直也の2球目が右足つま先付近へ。当たったかどうか微妙ながら、杉谷は「痛っ!当たった!」と左足で飛び跳ねながら、死球をアピールした。

 だが、土山剛弘球審の判定は「ボール!」。それでも杉谷はめげることなく「当たった!」と言いつづける。かつての“グラウンドの詐欺師”達川光男(広島)を彷彿とさせるユーモラスなシーンに、スタンドのファンも腹を抱えて笑った。

 栗山英樹監督が確認のためにベンチから出てきたが、土山球審の説明に納得すると、「あんな変な顔して抗議しても、審判の判定も変わらないよ」と笑いをかみ殺しながら、あっさり引き揚げた。

 頼みの綱だった指揮官も去り、最後は跪いての必死のアピールも却下され、結局、打ち直しとなった杉谷は、カウント2−1から右翼上空に高々と飛球を打ち上げた。ライト・清田育宏が両手を上げ、捕球の構えを見せたが、ここから“世にも不思議な物語”が幕を開ける。なんと、薄暮の中で、清田は打球を見失ってしまい、後方にポトリと落ちるラッキーな三塁打となったのだ。

 この一打が呼び水となり、直後、レアードが試合を決める右越え2ラン。エース・大谷翔平もロッテ打線を3安打完封し、7対0と完勝した。

 結果的に死球で一塁に出るよりずっとおいしい思いをした杉谷は「神様が見てくれていたんだな、と思いました」と喜色満面だった。

 昨年5月12日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)では、2打席連続死球を受けたが、2度目は「当たってたよ!」と何度もアピールした末に、リプレー検証でボールから死球に判定が覆るという、これまた杉谷ならではの珍死球。くしくも相手ベンチにいた“元祖”達川ヘッドコーチをも苦笑させている。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。





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