青山学院大学の完全復活で幕を閉じた今年の箱根駅伝。高速化が際立ったが、背後には、トップランナーを魅了した厚底シューズという“黒船来航”があった。AERA 2020年1月20日号では、高速化の一因となった“夢のシューズ”の実力に迫った。



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 今年の箱根駅伝は、優勝の青山学院大学と2位の東海大学がともに大会新記録のタイムを出すなど、「高速化」で新時代の幕開けを印象付けた。学生時代は早稲田大学で山登りのスペシャリストとして活躍したプロ・ランニングコーチの金哲彦さん(55)によると、今年の高速化の原因は3点あるという。

 1点目は気象条件。往路は追い風で気温も上がらず、記録を出すには絶好の条件。通常は向かい風になる復路でもそれがなかった。2点目は学生の意識レベルの飛躍的な向上だ。2015年に青学が10時間49分27秒という史上初の10時間40分台の記録で圧勝しその後4連覇、19年に東海がそこにチャレンジし勝ったことで学生の意識レベル、トレーニングの質が向上したという。

 そして3点目がシューズだ。

 シューズアドバイザーで藤原商会代表の藤原岳久さん(49)によると、今年、実に出場210人中177人、84.3%の選手がナイキの「ヴェイパーフライネクスト%」というシューズを着用した。選手の足元を彩ったピンクや黄緑色のシューズだ。昨年のナイキのシェアが95人で41.3%であることを考えると倍増したことになる。

 特に注目を浴びたのは、「アディダス・スクール」と言われアディダスと蜜月関係を保ってきた青学が今回初めて全員がナイキを履き、その上で復活優勝を果たしたという衝撃だ。

 5強と言われていた青学、東海、東洋、駒澤、國學院のうち、東海、東洋、駒澤のウェアスポンサーはナイキで、國學院はスボルメだがヴェイパーフライは履ける環境。青学だけがアディダスで、ナイキ対アディダスの構図になっていた。

 アディダスで戦ってきた青学は、昨年11月の全日本大学駅伝では最終区で東海に逆転され完敗。このことがナイキ着用を決断させたのではないかともいわれている。アディダスは、「アディゼロ エバーグリーンパック」という青学のチームカラーを思わせる緑色を使った、青学へのエールを込めたモデルも作った。しかし、それが箱根路を彩ることはなかった。

 選手たちを魅了したナイキのヴェイパーフライとはどのようなシューズなのか。藤原さんは、

「夢のようなシューズ。水の上を走っているみたいで、足を置いているだけで前に行く感覚」

 と語り、こう続ける。

「クッションがすごくあって軽いが、カーボンプレートが入っているので、跳ねるような推進力、そして厚底なのに薄底のような接地感がある。また、速く走る以外にも疲労感を抑えるという効果もあります。現状、スピードを維持するシューズでは、これを超えるものはないと言わざるを得ません」

 ただ、履けば誰でも速く走れるというものではなく、履きこなすにはコツが必要だと言う。

「クッションがあるので軟らかく、決して安定する靴ではありません。スプーン状の硬いカーボンプレートの真上から足を乗せるように接地することによって推進力が出る仕組みです。フォームがしっかりしていることが前提のシューズです」

(編集部・小柳暁子)

※AERA 2020年1月20日号より抜粋