昨年末の全日本選手権で、前日練習後囲み取材に応じた宇野昌磨は、とても晴れやかな表情をしていた。



「まだ発表があるかどうか分からないので、どこまで言っていいか分からないんですけど、多分ステファンのところにお邪魔する」。

 そう話す宇野はとても嬉しそうで、報道陣にも笑いが広がった。全日本には臨時コーチとして帯同していたステファン・ランビエールコーチの正式なコーチ就任発表は年明けだったが、ややフライング気味の宇野の発言には、新しい居場所を見つけた喜びがあふれていた。

 今季の宇野を見ていると、フィギュアスケートにおけるコーチの重要性を再認識させられる。幼い頃から指導を受けてきた山田満知子コーチ・樋口美穂子コーチの下を離れた宇野は、メインコーチをおかないまま今季の開幕を迎えた。しかしその結果、グランプリシリーズ初戦・フランス杯では今までないほどジャンプが崩れ、8位に終わる。キスアンドクライで一人涙する姿が痛々しかった宇野だが、フランス杯後スイスに赴きランビエールコーチの指導を受けながら練習を積んだことで、どん底を脱した。グランプリシリーズ2戦目・ロシア杯では、4位という順位以上に精神的に上向いたことが感じられる演技を見せる。そしてその後も全日本に向け調整を続けたスイスは、宇野にとり「すごく温かいところ」だったという。

「厳しい練習というよりも、やることはやるけど、優しさがあるというか……僕にとっては、求めていた環境であるかなと思います。グランプリシリーズ2戦目で、やっと今シーズンがスタートできた」。

 その言葉を裏付けるように、宇野は全日本で優勝。勝負にこだわり過ぎて自分らしさを失っていた昨季の反省から、宇野は今季「楽しむ」ことを目標に掲げていた。宇野にとり、ランビエールコーチは「やっとスケートを楽しむ練習をするように戻してくれた、かけがえのない存在」だ。

「『このコーチのために一緒に戦っていきたい』という気持ちがありました」。

 技術的なことに関しても自分で納得して進んでいきたい宇野にとり、ランビエールコーチとの関係は理想的であるようだ。

「もちろん、日頃たくさん『こうした方がいいよ』と言われることはある。でも、それを真に受けるのではなくて、自分なりに今までやってきたことと照らし合わせて『ここは一致するところがあるな』という部分を、かみ砕いて自分のものにしようと思っています」

 ランビエールコーチもまた新たな生徒である宇野に大きな期待を寄せており、オリンピックチャンネルの取材に対し、宇野には「限界がない」と語っている。また同門のスケーター、島田高志郎とデニス・ヴァシリエフスについて、宇野は「一生懸命スケートに向き合う、本当に真面目な二人」とコメントしており、よい影響を受けているようだ。スケーターにとってコーチの変更は、所属するチームの変更ともいえる。

 今年から本格的にスイスに拠点を移した宇野は、新しい環境に慣れるため2月の四大陸選手権を辞退、今はランビエールコーチの指導の下、プログラムを磨いている。信頼に基づいたコーチとの関係がいかにスケーターを飛躍させるのか、3月に行われる世界選手権での宇野の滑りを楽しみに待ちたい。(文・沢田聡子)

●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」