四大陸選手権では五輪2連覇を果たしたプログラムを再演し、フリー「SEIMEI」で観客を魅了した羽生結弦選手。AERA 2020年3月9日号では、ブライアンコーチの目から見た今季の羽生の成長と戦略をインタビューした。



※【前編】『「結弦は答えがもうわかっている」 ブライアン・オーサーが語る羽生の再始動』より続く

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──四大陸選手権のフリーは、4回転3種類4本でした。

 もともと、4回転ループは入れない計画でした。このジャンプ構成が技術的な限界だとはもちろん思っていません。けがなく終えることが何より大切だということを考慮しての作戦でした。米国のネイサン・チェン選手(20)も1月の全米選手権ではフリーで4回転4本に抑えていました。

──今季は4回転ルッツを復活させました。

 2017年にけがをしましたが、今季に練習を再開してからは、2年前よりも質のいい4回転ルッツを練習で跳んでいて、技術的には進化したと言えるでしょう。再開したばかりのころは怖さがあったと思いますが、その段階は乗りこえました。以前は調子がいい日にだけ跳べていたのが、いまはどんなコンディションでも跳べるように調整するステージにきています。

──4回転アクセルは?

 結弦はGPファイナルの練習で、みなさんの前で初披露しましたね。しかもコーチが不在という隙を狙って(笑)。そのニュースを聞いて、私はちっとも驚きませんでした。結弦の性格ならあり得ることです。アイスショーのフィナーレで気持ちが高まっている時なども、新しいことに挑戦する「劇場」をよくやりますから。でもそのときはあまりいいジャンプではなく、転倒でした。トロントでの練習のほうが、もっと惜しい4回転アクセルだという印象です。

──あと少し、技術的には何が必要だと思いますか?

 結弦の一番の課題は、トリプルアクセルと4回転アクセルが、少し違う跳び方をしなければならない点です。つまり、違うジャンプとしてコツを習得しなければなりません。

 結弦のトリプルアクセルは、跳びあがってから回転を始めるまで、大きな浮遊の時間があります。信じられないほど美しいジャンプです。でも4回転半回るには、跳びあがったらすぐに回転を始めなければなりません。

──もっと大きく跳んで滞空時間を延ばせばいいのでは?

 それは違いますね。結弦のトリプルアクセルは大きく跳ぶタイプなので、これ以上の高さはいりません。高さを出そうとすると筋力に頼って力み、回転が遅れます。必要なのは、跳びあがって回転を始めるまでのタイミングを早めることです。テイクオフでの僅かな感覚の差なので難しい。早く回転を始めると、高さがキープできなかったり、姿勢が歪んだりします。少しずつ調整しているところです。

 結弦はもう「答えがこのあたりにある」というのはわかっています。彼の身体の中に答えはありますから、もう私からいろいろ口を出す必要はないという段階にまできています。

──今後の試合での戦略は?

 結弦にとっては、4回転5本でのパーフェクトな演技は一つの目標ですし、4回転アクセルも降りたいでしょう。しかしコーチとしてこだわっているのは質です。選手は、ジャンプの数を競い合う「ゲーム」をしたくなります。特にチェンというライバルが目の前に現れると、数を跳びたくなります。しかしスケートの本質は「数ではなく質」。結弦は「力強いけれど無駄な力のないスケート」という究極の美を持っているので、自分らしさを生かすことが最強の戦略です。私の使命は、結弦が嫌になるくらい「質のほうが大切だ」と言い続けることです。

──チームを組んで8シーズン目。羽生選手が遂げた進化は?

 私にとって結弦は、8年前にトロントにやってきた17歳の少年のまま変わりません。しかしこの8年で、外部の目は変わりました。彼は有名人になり、果たすべき義務を負い、そして常にファンを幸せにしたいと願っています。つまり責任感が変わりました。だからこそホームである私たちは、結弦がスケートを好きで楽しむ気持ちを忘れないでいられるよう、「いつも通り」を大切にしています。

 結弦は25歳になり、誰からも尊敬されるスケーターになりました。ジャンプだけでないスケートの本質的な美しさがある。結弦には「僕のスケートは美しいんだ」というのを伝え続けてほしいです。

※AERA 2020年3月23日号より抜粋