『打てる捕手』依存の弊害。

 広島の調子がなぜか上がってこない。勝ち方を知っているチームだけに、納得いかないシーズンだ。



 多くの原因が挙げられる中で、広島の不調は、打撃優先の捕手起用に理由があるという声も強い。

 リーグ3連覇を果たし、現代における最強チームと呼ばれた面影はない。4連覇のかかった昨年はCS出場すら逃し、3連覇の功労者である緒方孝市前監督は昨シーズン限りで辞任。生え抜きで根強い人気があった佐々岡真司新監督を迎えたが、投打が噛み合わない。以前の『暗黒時代』を連想される重苦しい戦いが続く。

「接戦や逆転で勝ってきた3連覇時とは別物のチームに変貌を遂げてしまった」

 広島担当記者は大きな変化を挙げる。

「失点を抑えて終盤まで粘るのがゲームプラン。その中で重要なのが捕手の役割。近年は打てる捕手が主流で広島も同様。しかし大事な場面では守備に長けたベテラン石原慶幸を起用、守備を固めてきた。その石原も今年は1軍登録を外れることも増えている。結果、打撃型捕手しかベンチ入りしていないから、試合がもつれると脆さが露呈する」

 広島OBは「佐々岡監督の戦い方に驚かされた」と今季の戦いぶりについて語る。

「広島の伝統を重視し、守備を基本にチームを組み立てると思った。その場合は石原の存在は欠かせないが、新しい試みに挑戦しているようだ。今年で41歳という年齢的なこともあり、石原後のチーム作りに着手している感がある。石原には調整をさせておき、重要な時に1軍合流させるのではないか」

 捕手育成と今季の戦いを両立させようとしているのでは、と推測する。

 現在の正捕手は、侍ジャパンでも存在感を発揮する会沢翼。昨年の一時期は4割近い高打率をキープ、クリーンアップを任されたこともある。続くのは出場機会が増えている4年目を迎えた左の好打者、坂倉将吾。また中堅どころでは勝負強く、昨年は自己最多65試合出場の磯村嘉孝がいる。そして17年夏の甲子園で6本塁打の新記録を打ち立てた中村奨成は今年、プロ入り後初めて1軍での試合出場を果たした。

 広島捕手陣には他球団なら中軸を打てるだけの強打者が揃っている。しかし捕手の守備という面だけ見ると、誰もが成長の余地があると言える。

「打撃成績での競争が注目されがちで、肝心の捕手としての評価が二の次になっていた感はある」

 在京テレビ局のスポーツ担当者は、広島の捕手起用の傾向を分析する。

「打高投低の傾向が顕著になり、点を取らないと勝てなくなった。捕手は『自衛隊』などと呼ばれ守備を最重視されていたが、時代は変わりつつある。各球団同様、広島も打てる捕手が使われる傾向が強い。会沢、坂倉、磯村の3人は打撃で試合出場を競い合っている感じがある。中村も打撃に関して光るものがあっての1軍登録。現状の広島はチームとして打ち勝っていくことが求められる。捕手も打てることが最も大事で、その上で捕手としての経験も積ませる方針」

 球界では阿部慎之助(現・巨人2軍監督)、城島健司(元ダイエーなど)あたりから守備を打撃でカバーする捕手が現れ始めた。現在も森友哉(西武)、大城卓三(巨人)などはその系譜であり、広島も似たような捕手起用になっている。

「飛び抜けた投手が投げる日は、得点力が下がっても守備重視の捕手起用で良い。だがそういう存在の投手は少ない。広島も大瀬良大地がハマった試合が安心できるくらい。リードを守り逃げ切るにも肝心なブルペン陣が安定感に欠ける。トータルで考え、打ち勝つための選手起用にならざるを得ない。しかしながら捕手で『打てる』と言っても、阿部クラスの実績を残せるほどの打撃ではない。昨年の絶好調時の会沢レベルなら打ち勝つ野球には直結するだろう。しかし今は攻守において、どの捕手が試合に出てもどっちつかずの状態になっている」(在京テレビ局のスポーツ担当者)

 理想を言えばかつての古田敦也(元ヤクルト)。師匠・野村克也譲りの『ID野球』を備えた捕手力と、首位打者獲得する打撃力を兼ね備えていた。だがNPB史上に残る古田のような『打てて守れる捕手』は生まれにくい。攻守のどちらを優先するのか、ベンチとしても頭の痛い問題ではある。

「打ち勝つ野球が必要なのはわかる。だが局面によっては『1点を与えない緻密な守備』が大切になる。そのために重要なのは捕手としての技量と経験。試合に出なくても、打てなくても、そういう捕手をベンチに置いておくだけで意味がある」(広島OB)

 周囲の待望論が届いたのか、苦戦が続くチームに石原が戻ってきた。そして8月20日のDeNA戦では、今季初スタメンでマスクを被った(※石原は28日に再び登録抹消)。

「石原さんは別格。チームの雰囲気が変わりそう」と球団関係者はベテラン合流に大きな期待をかける。

「リーグ3連覇前の勝てない時期も知っている数少ない存在。ここまでチームの調子が悪いと、若手を中心に雰囲気は悪い方向へ向かいがちになってしまう。そんな中でも泰然としていて、ちょっとのことでは慌てるそぶりも見せない。また雑に見えるプレーをした選手を、ベンチ裏の見えない場所で諭したりしていた。こういう存在が強いチームには必要です」

 3連覇時には黒田博樹や新井貴浩という兄貴分がいて、チームの雰囲気を作り上げたのは有名。同様の役割ができる石原の存在は大きい。

 特に調子の出ない『左のエース』クリス・ジョンソンへの影響は大きいはずだ。

「石原のことを心から尊敬している。来日時から日米の違いなど、野球からプライベートまで細かいことを石原が教えてくれた。自分が投げる時は、可能なら捕手を石原にして欲しい、と語ったこともあった。外国人投手にここまで信頼される捕手はなかなかいない。今年は結果が伴わずストレスをためていたはず。信頼できる捕手が受けてくれれば、技術、精神の両方で上昇気流に乗れるはず」(球団関係者)

 ローテーションの軸と期待されながら開幕から勝ち星がないが、今後は石原と組むことなどで調子を上げられるか……。

「勝つことと育成の両立は難しい。特に捕手の場合は時間がかかる。今、佐々岡監督はその真っ只中で苦しんでいる。実力はあるチームなので歯車が噛み合えば必ず勝てる。粘って上位チームに喰らい付いていくこと。そのためにも捕手のバランスを大事にして欲しい」(広島OB)

『打てる捕手を試合に使って守備面も育てる』方法に比重が偏り過ぎていた。そしてチーム自身の歯車が大きく狂った。非常事態に『守れる捕手』石原の存在感は大きい。これから先の戦いで、必ず必要となってくる場面もあるはずだ。

 同時にその中で『打てて守れる捕手』が育っていけば、広島の未来はさらに明るいものになる。しかもそんな理想的捕手が同時に数人生まれる可能性すらある。やはり広島は楽しみな球団だ。