宇野勝は名古屋を愛している。現役時代から40年以上の“関係”を持つ街への思いは、強くストレートだ。自らの経験を踏まえ、現在の中日ドラゴンズについて、そしてファンとの思い出などを幅広く語ってもらった。



*  *  *
――昨シーズンを振り返って

宇野:開幕前、このメンバーなら良い勝負をする、展開次第では優勝もあると思った。攻守ともに充実していたから、まさか巨人とあそこまで離れると思わなかった。巨人は(原)辰徳がうまくやった。開幕延期など難しい年だったからこそ、監督の差が出た。経験を重ね、辰徳は良い監督になった。日本シリーズでは負けたけど、長丁場のシーズンで結果を残すのが凄い。


――現在の中日の戦い方について

宇野:個人的な意見だけど、年間を通じて戦い方に魅力がない。例えば、塁に出たらいつもバントをする印象で面白くない。『形がある』とも言えるが、勝ててないから説得力もない。本当に大事なところなら(バントも)納得する。でも年間通じて同じで、終盤でも同様だった。あれだけ首位とゲーム差がついていたのに、Aクラスに入れそうだからバントが増えた印象もある。首脳陣の考えと、周囲が求めている野球が違うんじゃないかな。


――中日ファンの気質、常に勝利を求める?

宇野:中日ファンはチームを思う気持ちが強い。その思いが逆に出てしまう時もあり、考えが2つに分かれてしまったりする。昨年も前半戦の戦いを見て、『与田監督ではダメだ』と騒ぐ人が出た。黙って見守る人もいる。またマスコミや財界も騒ぐ。1つになってないから、全体が良い方向へ行かない。根本では勝利を求めている。でも人間はわがままな部分もあって、新鮮味がなくなると飽きも出始める。落合(博満)監督の時には、強かったけど客が減った。マスコミなどは『面白くないから減っている』と煽る。『俺らにどうしろと?」という感じだった。


――ファンを球場に呼ぶために必要なことは?

宇野:僕が現役時代の中日は、特徴ある選手が並んでいた。時代というだけでなく、チームの方針、編成の問題もある。チームカラーを作れば、ファンも戻って来る。3連覇時の広島は色が出ていた。出塁したら、決まって送りバントするのを見たいのか? それがチームカラー? 昔の川相昌弘さん(元巨人、中日)や平野謙さん(元中日、西武)のような、突出したバント技術で記録を作る選手ならお金を取れる。でも今の選手の中で、送りバントでお金を取れるものはいない。勝つためには必要な作戦だけど、お客さんが見たい面白い野球ではない。


――チームには個性が必要

宇野:プロ野球は客を“魅せるもの”があれば、何でも良い。例えば、ダヤン・ビシエドの1年目、16年の開幕から3試合連続本塁打など打って、一時客が増えた。またソフトバンクは強いだけでなく、個性溢れる選手がどんどん出る。周東佑京の足、甲斐(拓也)キャノン、柳田悠岐の本塁打……。個性が出ればチームの実力だけでなく、人気も上がる。


――絶対的に必要なのは本塁打

宇野:ナゴヤドームは広く外野スタンドが遠く感じる。まぁナゴヤ球場が狭過ぎたというのもある。それでも中日は本塁打が少な過ぎる(20年のチーム本塁打は70本でリーグ最低。1位は巨人、DeNAの135本)。ファンも本塁打を見たいはず。得点力も上がるし逆転試合も増える。現役時代はナゴヤ球場の右中間、スコアボード下辺りに本塁打を打つことも多かった。中日の応援席だから、『宇野のホームランボールが欲しくてそこにしか座らなかった』という話を聞いて嬉しかった。そういうファンは、今もたくさんいるはず。


――ナゴヤ球場時代の“ヤジ”についての思い出

宇野:ナゴヤ球場はファウルゾーンが狭くて客が近くに感じる。グラウンド上に熱気もビンビン伝わって来るし、当然、声援やヤジもはっきり聞こえる。俺の場合はヤジを受けやすいタイプだったから、結構ヤジられた。いろいろなヤジがあったよ。ストレートに『何やってんだ辞めちまえ』もあったし、笑える感じのものもあった。打てなかったりミスしたりして言われるのは、納得していた。でも練習中におちょくられるとムカッと来た。『おーい、今何やってんだって?』って笑いながらバカにする。頭に来て、客の前のファンスへボールを投げつけたりした。今やったら大問題だろうけどね。


――夜の名古屋の街では……

宇野:プライベートで食事をしていると、いろいろ言われることも多かった。面と向かってではないけど、ヒソヒソ聞こえるように言われた。大阪なんかは直接言われることも多いらしいけどね。勝負の世界だからしょうがないが、やはり気まずい。食事を切り上げたりしたこともあった。調子が良い時は、話しかけてくる人は多かった。みんな中日のことよく知ってるから、嬉しいんだろうね。でも奢ってもらうようなことはなかった。人と話すのは好きだし、よほど時間がない時以外は対応していた。球場外では普通のおじさんだったよ。


――中日の今後について

宇野:中日は強い。普通に戦ったら優勝もある。良い選手が揃っているし、個性も加わればお客さんも球場へ来てくれる。そういう意味でも根尾昂や石川昂弥は実力とキャラの両方が立ちそう。足が速い。肩が強い。長打がある。世間的にも注目を浴びている。実力と個性を併せ持っていて、これからの中日に必要不可欠な存在。2人ともポジションにこだわらず、まずは試合に出て欲しい。試合でもっと成長できて凄い選手になれる。そして個性を発揮できてお客さんも呼べる。


「ちょっと長いよね。やっぱり勝って欲しいよ」

 現場を離れてしばらく月日が経つが、1日たりとも古巣のことを考えなかったことはない。今ではすっかり名古屋人になった宇野が望むことは『中日復活』のみ。11年以来のリーグ優勝、そして07年以来の日本一を待ち望んでいる。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。