子どもの乗り物酔い「実はめまい予備軍かも」 医師に聞いたトレーニング法

子どもの乗り物酔い「実はめまい予備軍かも」 医師に聞いたトレーニング法

 家族旅行はいつも憂鬱だった。楽しそうなきょうだいたちを横目に、ただひたすら横になって吐き気が治まるのを待つ。車酔い、船酔い、電車酔い、飛行機酔い……あらゆる乗り物酔いで子どものころの旅行や学校の遠足の思い出といえば、真っ先に辛さと悔しさが蘇る。そんな記者が、めまい治療の第一人者で、横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科部長の新井基洋医師に聞いた。お盆休みの旅行や帰省で同じように憂鬱を抱えている子たちを救う方法はあるのか?



*  *  *
――乗り物酔いは、やはり子どもに多いのでしょうか。

 そうですね。年齢別に見ると、ピークは二度あります。一つは3歳ごろ〜小学校高学年まで。平衡機能を司る小脳がまだ発達段階にあって、自律神経もまだ未成熟だからです。そしてもう一つは50歳以上。加齢によって小脳(バランスの親分)や内耳(三半規管と耳石器)の機能が落ちてくるのが理由です。

 乗り物酔いは医学的には動揺病と呼ばれ、症状は頭が重くなる、生あくび生唾が出る、脱力感、顔面蒼白、思考力低下、吐き気や嘔吐、冷や汗、あぶら汗など、自律神経系のものが多いのです。

――考えただけで気持ち悪くなってきました。原因は何なのでしょうか。

 きっかけは睡眠不足や空腹、読書、匂いなどがあり、「酔うかもしれない」と考えることも一つのスイッチになってしまいます。

 揺れを感知する三半規管と加速度を感知する耳石、目からの情報、足の裏から得る情報がずれると、脳が混乱し、不快な感情を起こします。脳はストレスを感じ、自律神経系のバランスが崩れて、症状が出るのです。しかし、酔いやすい人と酔いにくい人など個人差があり、遺伝的な傾向もあるようです。

 私の小学校時代の友人にも社会科見学やバス旅行ではいつも青ざめた顔でエチケット袋を手に持ち、目的地に着いてからも気分が悪くて活動には参加できず、バスの中で寝ている子がいました。本人は前日から気が滅入って睡眠不足にもなっていただろうし、憂鬱になり、悪い条件が揃っていくわけです。

 さらに、患者さんの中には「バスで吐いてしまって、あだ名がついた」という方もいました。社会科見学もできないし、本人にとっては踏んだり蹴ったりですよね。

――その気持ちよくわかります……。対策は。

 吐き気が始まってしまったら手を付けられませんが、それまでに衣服を緩める、座席を倒す、なるべく遠くを見る、風にあたることが予防になります。いろんなデメリットがあっても参加したい(させたい)場合は、市販薬を使うのも手でしょう。

 バスガイドさんが歌を歌ったり、クイズをしたり、手や足を使ったレクリエーションをしてくれますが、あれは乗り物酔いをしやすい子にも良い影響があると考えられます。飛行機で配られる飲み物や飴玉も、耳管機能を促します。

 自家用車よりもバスの方が辛いという人が圧倒的に多いのですが、それは横揺れするからです。車の重心に近いところは横揺れしないので、バスなら前から2、3列目までの席がオススメです。可能なら運転手さんの動きが見える席で、遠くの景色を見ながら、道を曲がる時は運転手さんと同じように体を傾けてみると良いでしょう。

――車内で本を読んだり、スマホを見たりするとてきめんです。あれはどうしてなんですか?

 三半規管や内耳が一番刺激を受けるのは、頭が上下するときなんです。めまいも顔を洗う、靴紐を結ぶ、下を向いてシャンプーする、目薬をさす、上の扉を開けるなど、頭が上を向く、下を向くときに起きるという人は多い。

 本を読むときは下を向き、細かい字を追うことでさらにめまいを誘発します。ダブルパンチなので絶対ダメですね。近くではなく、遠くを見ましょう。

 しかし、本質的な対策は脳を適応させること、練習させることです。人間の小脳は学習するので、より強い刺激を経験すると弱い刺激には耐えられるようになります。なので辛いかもしれませんが、一度経験してみる、いろいろなドライバーの車に乗るようにすることで慣れていく方法もあります。

 私がオススメしたいのは平衡トレーニングです。普段、平衡機能を鍛えるためにめまいの患者さんに指導している独自のメソッドで、『寝ているだけでは治らない! 女性のつらい「めまい」は朝・夜1分の体操でよくなる!』(PHP研究所)から、今回は初級・中級・上級の3つを紹介します。

 トレーニングに即効性はありませんが、1日1セットを半年前〜最低でも1カ月程続けると違いが出てくると思います。夏休みの家族旅行で乗り物酔いした方、今年の遠足には行けなかったという方は、次のチャンスまでにやってみてはいかがでしょうか。

※めまいを誘発し、訓練するためのトレーニングです。気分が悪くなることがあるのでご注意ください

<初級> ゆっくり横
きき手の親指を立て、体の正面に腕を伸ばす。顔は動かさず、親指の爪を見ながら、腕を左右へ動かす。「いち」「に」と言いながら、1往復1秒ぐらいのペースで10往復、爪を追う。

<中級> 左右
きき手の親指を立てて、体の正面に腕を伸ばす。親指の爪を見ながら、頭を左右に回す。「いち」「に」と言いながら1往復1秒ぐらいのペースで10往復、頭を左右に動かす。

<上級> 上下
聞き手を体の正面に伸ばし、その親指を内側に水平に寝かせる。親指の爪を見ながら、頭を上下に動かす。「いち」「に」と言いながら1往復1秒ぐらいのペースで10往復。(首の調子が悪い人は無理しないようにしましょう)

――大人になって乗り物酔いは克服したつもりでいましたが、この動きはかなり辛いです。

 このトレーニングは、めまいのチェックにもなります。頭と一緒に目が一度離れ、後から親指に戻ってくる、爪が動いて見える、クラっとするという人は耳の三半規管の機能低下が隠れていて、めまい予備軍かもしれません。もしくは片頭痛によるめまい、その両方を持っている可能性もあります。そういう人はお腹も壊しやすいや腹痛がよく起きます(腹部片頭痛という)。

 良性発作性めまいは、小児の発作性、繰り返す(耳鳴りや難聴がない)めまいの代表です。その子たちの多くは車酔いをすると考えられ、家族に片頭痛がいるなど片頭痛との関連が深いのです。

「車酔いは病気じゃない」「体質だよね」と考える人が多く、みなさん車酔いという症状ではなかなか病院まで来ませんが、めまい外来に来た方を中心に聞いてみると、3人に2人は乗り物酔いを経験していました。両者はどうも関係性がありそうなのです。

 そういう場合もトレーニングで改善する可能性が十分にあると思います。

 ちなみに、今まで乗り物酔いが無かったのに、乗り物酔いになったという人はめまい予備軍と考えて良い。私も体調が優れないとき、めずらしくお酒を飲んだ翌日などにめまいや乗り物酔いを経験したことがあります。二日酔いは頭痛のほうに気を取られがちですが、同時にめまいが誘発させる人も結構います。アルコールが血中から内耳のリンパ液に移行し、加えて小脳機能の抑制をするので、大人の場合、旅行前や旅行中は嗜む程度が良いですね。

●あらい・もとひろ/1964年生まれ。埼玉県出身。医師・医学博士。89年に北里大学医学部を卒業後、国立相模原病院、北里大学耳鼻咽喉科を経て、現在、横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科部長。北里方式をもとにオリジナルのメソッドを加えた「めまいのリハビリ」を患者に指導している

(聞き手/AERA dot.編集部・金城珠代)


関連記事

おすすめ情報

AERA dot.の他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

生活術 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

生活術 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索