第3次世界大戦は止められるのか G20首脳会議が残した不安

第3次世界大戦は止められるのか G20首脳会議が残した不安

 各国が国際的な問題を話し合い、解決策を見いだすべき首脳会議。アルゼンチンで12月1日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)首脳会議は、自国第一主義の台頭で存在意義が形骸化する危うき姿を浮き彫りにした。

*  *  *
 閉幕を受けて、記者会見もせずに、あっという間に帰国の途についた米国のトランプ大統領が、全てを象徴していた。

 11月30日から2日間の日程で開かれたG20首脳会議。貿易不均衡問題で対立する米中首脳会談の行方や、米国による保護主義への対応が最大の関心事だったG20だが、経済問題とは別の大きな懸案事項が二つあった。

 一つは、サウジアラビア人記者カショギ氏殺害への関与が疑われるサウジのムハンマド皇太子が出席したことで、真相解明に向けて各国首脳がどう対応するか。もう一つは、ロシアによるウクライナ艦艇の銃撃・拿捕(だほ)事件だった。とりわけ、銃撃・拿捕事件はG20開催直前に起きたばかり。欧米各国の安全保障にも関わる事件で、主要8カ国(G8)首脳会議からロシアが除外される理由となった同国によるウクライナ南部クリミア半島の一方的な併合(2014年)に起因する問題だ。欧米首脳には看過できない重要課題のはずだった。

 事件が起きたのは11月25日、ロシアの国境警備隊が、クリミア半島の近海を航行中だったウクライナ軍の艦艇3隻に発砲し、乗組員を拘束した。ウクライナは「ロシアによる地上侵攻に備える」として同28日から30日間、半島に接する地域に戦時法を適用し、今も臨戦態勢にある。ロシアは併合を機に半島を実効支配しており、すでに配備済みの地対空ミサイルシステムに加え、最新鋭地対空ミサイル「S400」の配備を発表するなど要塞(ようさい)化を進めている。

 14年以降、ロシアとの首脳会談のたびにオバマ大統領(当時)が問題提起してきたクリミア併合だが、自国第一主義のトランプ大統領はあまり興味を示さない。同主義の大先輩であるプーチン大統領との個人的な関係強化を重視するトランプ大統領は6月末、クリミア併合を認める可能性を排除しないととられかねない発言をして、ホワイトハウス幹部が慌てて否定したほどだ。今回の事件を理由に、G20で予定された米ロ首脳会談の中止を急遽決めたトランプ大統領だが、本当の理由は別にあったとみられる。

 G20直前に起きたもう一つの出来事が、トランプ大統領の意識を外交問題から遠ざけていた。大統領の個人弁護士を務めたマイケル・コーエン氏が11月29日、ロシア疑惑を捜査中のマラー特別検察官に対し、同疑惑に関する米議会への偽証を認め、その理由をトランプ大統領への「忠誠心」と証言。大統領の発言と一貫性を持たせるためだったと報道されたからだ。疑惑への大統領の関与を調べている特別検察官との司法取引だった。

 ワシントン・ポスト紙の記者、ボブ・ウッドワード氏が書いたトランプ政権の暴露本『FEAR(訳書名・恐怖の男)』によると、大統領はロシア疑惑の捜査に関する報道を極度に気に掛け、実際に報道があった日は職務が全く手に付かないほどの異常な動揺に陥るという。自国以上に自分第一主義のトランプ大統領だけに、ウクライナどころではない状況だった。

 プーチン大統領との直接会談で事件を非難する姿を国際社会に見せる方が対ロシアで強い姿勢を強調できるのに、ロシアとは公の場で関わらない方が疑惑の払拭(ふっしょく)に得策だと考えたとみられる。実際にトランプ大統領は拿捕問題について、非公開の夕食会でプーチン大統領と言葉を交わした程度だった。ムハンマド皇太子に記者殺害関与疑惑の解明を迫る姿もトランプ大統領には見られなかった。

 自国第一主義を徹底するトランプ政権に代わり、奮闘したのがマクロン仏大統領やメルケル独首相ら欧州首脳たちだ。

 ロイター通信などによると、プーチン大統領と、それぞれ個別に会談したマクロン大統領やメルケル首相は、ともにウクライナ艦艇の乗組員の解放を要求。サウジ人記者殺害事件に関してもマクロン大統領は、ムハンマド皇太子に対し、真相解明へ国際的な調査団を受け入れるよう強く迫った。英国のメイ首相もムハンマド皇太子と会談し、殺害に関与した人物の責任追及と再発防止を訴えた。

 ともに孤立状態とみられたプーチン大統領とムハンマド皇太子だが、それでも、これまで一枚岩だった欧米の外交包囲網からトランプ大統領の米国が引いた形となったことは、G20を乗り切る追い風となった。大歓迎して手を差し出したプーチン大統領にムハンマド皇太子が笑顔で応えるなど、むしろG20を両国関係強化に利用したようにも見えた。拘束されたウクライナ艦艇や乗組員の解放についてもプーチン大統領は一歩も引かずにロシアの立場を貫き通した。

 国際問題の解決に積極性を見せないトランプ大統領も、これまでのG20の首脳宣言に必ず含まれてきた「保護主義と闘う」という文言の削除に影響力を発揮するなど、自身の主義は貫いた。各国が国際問題に関与、協力して解決策を見いだそうとするグローバリズムの象徴であるべき首脳会議が、自国第一主義に執着する一部の国に主導権を握られ、譲歩まで強いられる。自国第一主義の台頭が、首脳会議の意義や本質を形骸化させるまで深刻化している。

 ただ、それでも米国は完全にトランプ化したわけではない。

 トランプ大統領が首脳会議に出席していた12月1日、マティス米国防長官はカリフォルニア州であった国防フォーラムで、ウクライナ船の自由な航行を約束した03年の合意にロシアが「白々しく違反した」と非難。11月に投開票された米中間選挙にもロシアは介入しようとしたとして、激しくプーチン大統領を批判した。

「我々は簡単には信用できない人間に対応している。米ロ関係は明らかに悪化している。民主的なプロセスを腐敗させようとする彼の行動に対抗しないといけない」

 そんなマティス国防長官が自国第一主義をめぐり、トランプ大統領に突きつけた言葉が、前出の暴露本『FEAR』に記されている。今年1月19日に開かれた国家安全保障会議での一幕。トランプ大統領が、韓国や台湾、中東や北大西洋条約機構(NATO)の防衛のため、米国が巨額の費用を拠出していることを無意味とし、なぜ直ちに中止できないのか、長々と持論を展開していた時のことだ。

 金銭的な損得勘定しか理解せず、安全保障や情報収集に欠かせない同盟国の重要性を軽視するトランプ大統領に、しびれを切らしたマティス国防長官が発した一言が、大統領を沈黙させたという。

「第3次世界大戦を防ぐために我々はやっている」

 国際協調の重要性を説いてきた閣僚たちをトランプ大統領は次々と更迭してきた。それでもマティス国防長官ら数人の良識人は政権にまだ残っている。国際協調主義と綱引きをしながら、それでも自国第一主義の勢いがますます強まっていくトランプ政権。それがまさにG20という首脳会議の舞台でも垣間見えた現状から、国際情勢の行く末に不安を感じた。(アエラ編集部・山本大輔)

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