トランプ大統領の無視できない破壊力 COP24に「刺客」送り込み挑発、妨害工作… 

トランプ大統領の無視できない破壊力 COP24に「刺客」送り込み挑発、妨害工作… 

 温暖化による地球破壊を食い止めようとする国際的な枠組み「パリ協定」を崩壊させようとしているトランプ米大統領。その破壊力は、12月15日にポーランドで閉幕した国際会議でも、気候変動同様に無視できないものになっていた。



*  *  *
 読み続けるのが苦痛なほどツイートを連発するトランプ米大統領が、言及すらせず、完全に無視した国際会議がある。12月15日深夜にポーランド南部カトビツェで閉幕した第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)。すでにパリ協定からの離脱を宣言し、その後も多国間のあらゆる交渉を軽視し続けるトランプ大統領らしい対応だった。

 COP24では、2015年12月に採択されたパリ協定の運用ルールが決まった。産業革命以降の気温上昇を2度未満、できれば1.5度未満に抑えることを目的とした協定の実現に向け、温室効果ガスの削減目標や具体的な道筋について報告や説明を義務化するなどの詳細を定めた。先進国と途上国に差をつけず、共通ルールの下で、地球温暖化という国際的な問題の解決に取り組む。運用開始は、当初の予定通り20年からだ。

 今回の合意は現時点で、米国も含む世界各国が対象になる。協定の規定上、20年11月まで米国は協定から実際に離脱することができないためだ。それならば、とトランプ大統領は、COP24に「刺客」を送った。ツイッターでは無関心だった国際会議の最前線で、あからさまな挑発、妨害工作に打って出た。

「技術革新で、よりクリーンになる化石燃料が、エネルギー革命で中心的な役割を果たす」

 国際エネルギーと環境を担当する米政府高官のウェルズ・グリフィス氏が12月10日、COP24の関連行事として米国が主催した脱炭素に反対する催しでスピーチすると、会場は大爆笑に包まれ、あちこちから罵声が飛び交った。

「恥を知れ」
「(化石燃料は)地下にとどめておけ」

 抗議の渦にのみ込まれたグリフィス氏は、発言の中断を何度も強いられたが、それでも強調したのは、トランプ大統領の持論だった。

「米国は豊富な天然資源をそのままにはしない。持続可能な環境の追求と引き換えに、いかなる国も経済的繁栄やエネルギー安全保障を犠牲にすべきではないと強く信じている」

 これを受けて英BBCなどの欧米主要メディアは、「米国の信頼をさらに傷つける催しとなったが、COP24の交渉内容には全く影響しない」などとする国際機関幹部や会議出席者らの批判コメントを次々と紹介した。パリ協定に合意した各国代表の立場を代弁しているようにも聞こえるが、現実は少し違っていた。トランプ政権の負の影響力が、パリ協定でも各国の結束を脅かし始めていた。

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は10月、気温上昇を1.5度未満に抑えるためには、30年までに世界の年間の二酸化炭素(CO2)排出量を、10年比で約45%削減する必要があるとする特別報告書を発表。そうでないと、猛暑や豪雨、海面上昇などの深刻な異常現象が悪化すると警告した。

 COP24では、この特別報告書の内容を「歓迎する」という文言を使って、採用することに米国が反対。これにロシア、クウェート、サウジアラビアも加わった。新たな「ギャング・オブ・フォー(4人組)」の結束した抗議により、文言は最終的に削除された。

 トランプ政権の負の影響は、それ以外の国でも見え隠れしている。トルコのエルドアン大統領は17年7月、米国の離脱を受けて同国もパリ協定を批准しない可能性に言及。19年1月にブラジルで政権が発足するボルソナーロ次期大統領も、トランプ大統領を見習ってパリ協定から離脱する可能性がある。また、米国の判断を理由に協定離脱の議論がたびたび行われる豪州は、COP24で米国が主催したイベントに環境大使を参加させ、「クリーンな化石燃料」を強調する米国に寄り添う発言をした。

 シンクタンクのアイルランド国際問題研究所(IIEA)は12月、「パリ合意vs.トランプ・エフェクト(トランプの影響)」と題する報告書を出し、トランプ政権がパリ協定に「ブレーキ」をかけた三つの悪因を挙げた。

(1)化石燃料に投資することの魅力を国際的に引き上げた。
(2)協定離脱の道徳的、政治的な言い訳を他国に与えた。
(3)国際交渉の信用を傷つけた。

 超大国である米国がお墨付きを与えることで、国際的な傾向に背を向けるリスクを軽減し、国際社会全体の利益と相反することでも実施しやすくなる。自国優先、業界優先、自社優先といった個別の利益を求めやすい環境を作り出していることが、トランプ・エフェクトの最大の罪だ。ただ、トランプ政権の環境政策を米国民が強く支持しているわけではない。

 米イェール大学が全米を対象に今年実施した世論調査によると、国民の70%が「地球温暖化が起きている」と認識し、61%が悪影響を心配していると答えた。環境保護は経済成長よりも重要と答えた人も70%に及んだ。また、再生可能エネルギー研究への資金提供、CO2を汚染物質と認定した上での規制、化石燃料関連企業への課税、太陽光パネルや省エネ自動車への減税措置など、パリ協定の趣旨にあうような政策については全て半数を超える賛同があった。少なくとも6割が、市民や連邦議会が地球温暖化問題を積極的に取り上げるべきだと答えた。

 トランプ政権の環境政策が、第一優先と公言する自国の世論に必ずしも即していない現状を浮き彫りにした形だ。

 それではなぜ、トランプ政権はパリ協定に背を向けるのか。

 化石燃料業界が支持母体の一つになっていることが取り上げられるが、それだけではない。パリ協定に限らず、環太平洋経済連携協定(TPP)などの多国間貿易協定やイラン核合意といった国際合意にかたくなに背を向けるのは、米国の主張が最大限反映された米国主体の枠組みになっていないからだ。米国の利益を最優先で促進できる内容ならば国際的な枠組みは大歓迎。そうでなければ二国間交渉を望むというのが、トランプ政権の目指す自国第一主義の本質なのだ。

 各国が関与する国際協力が不可欠な地球温暖化対策は、米国抜きでは絶対に実現できない。それを知っているからこそ、離脱の意思を明確に表明することが、トランプ大統領の口癖である「Leverage(目的実現のための影響力)」になる。

 実際に離脱が可能になる20年11月は、自身の再選をかけた大統領選と時期が重なる。それまでの間、離脱を最大の武器にして各国を揺さぶりながら、自国にとって優位な合意の形成を模索する。史上最悪の山火事やハリケーンなどの自然災害が頻発する米国で、世論が高まれば、今度は離脱撤回をLeverageにして、米国有利の条件をパリ協定で勝ち取ろうとすることもトランプ大統領なら十分にあり得る。

 空中分解した京都議定書と異なり、先進国も途上国も「公平」な削減義務を持たせることで、各国によるギリギリの譲歩を得たパリ協定は、いつ崩壊してもおかしくない薄氷の合意だ。各地で歴史的な異常気象が現実となる今、パリ協定を「最後のチャンス」と認識する人は多い。「トランプ・エフェクト」の広がりを食い止めながら、ディール外交に酔うトランプ政権をパリ協定に引きずり戻す良策を見いだせるか。各国政府のみならず、地球温暖化の直撃を受ける世界中の市民一人ひとりの危機感が試されている。(アエラ編集部・山本大輔)

※AERAオンライン限定記事


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