世界で始まる豚肉争奪戦 米中対立で日本の養豚業も危機!

世界で始まる豚肉争奪戦 米中対立で日本の養豚業も危機!

 輸入品に高額の関税をかけ合う米国と中国。その影響は中国の畜産家に大きな打撃を与えている。飼料として使われている大豆粕(だいずかす)がほぼ倍の価格まで高騰し、廃業の危機に瀕しているのだ。「大豆ショック」は日本の食卓にも及ぶ。緊迫した現状を愛知大学現代中国学部・高橋五郎教授が解説する。



*  *  *
 米国と中国の対立は、すぐには終わりそうにない。

 トランプ大統領と習近平(シーチンピン)中国国家主席は、主要20カ国・地域(G20)首脳会議があったアルゼンチンで12月1日に会談。貿易問題について90日間以内に交渉することを決めた。

 貿易戦争の「一時停戦」を受けて、輸入再開に向けた動きも報じられている。しかし、トランプ大統領は期限内に交渉がまとまらなければ追加制裁を発動する姿勢だ。交渉の責任者は強硬派で知られるライトハイザー通商代表で、合意の見通しはいまだ立っていない。

 米国の狙いは中国に揺さぶりをかけ、二国間で米国に有利な自由貿易協定(FTA)を結ぶことにある。そうなれば、大豆をはじめとして中国の農業は、ますます弱体化する。仮に中国がアメリカ産大豆の輸入を再開しても、大豆原料業者や養豚業界がすぐに元に戻ることは困難で、一度受けた痛手も簡単にはいえない。

 中国では母豚の生産を始めてから新たな肥育豚を出荷するまで、早くて1年半以上かかる「ピッグ・サイクル」がある。いったん母豚数が減ってしまうと、生産増には時間が必要なのだ。業界専門筋によると、母豚数は9月は8月に比べ0.3%減っていて、いまも下げ止まっていない。

 全体の豚飼養頭数(在庫)も、この3カ月で前年同期より2.3%減った。経営に困って豚を“投げ売り”した結果だとみられる。

 国内での生産が減れば、世界一の豚肉消費国である中国は輸入を増やす。輸入国の間で豚肉の争奪戦となり、当然、国際価格は上がる。日本は豚肉の輸入依存度が高く、影響は避けられない。

 心配はこれにとどまらない。中国からの食品輸入量は、米国に次いで2番目に多い。特に大豆関係は中国に頼るものが目立つ。大豆調製食品の2017年の輸入量90万トンのうち9割、大豆粕輸入量155万トンのうち4割が中国からだ。

 中国での大豆粕の品不足は、日本にも深刻な影響を与える。今年10月までの中国からの輸入量は、5月以降急増し、昨年同期を7%程度上回る勢い。中国での不足を見込んで、駆け込み需要が高まったためだ。

 日本では飼料作物の生産は少なく、豚のエサは輸入に頼っている。値段が上がっても、確保しなければならない。大豆粕の輸入単価は、6、7月に前年同期の約2割増しとなった。足元ではやや落ち着いているものの、10月までの平均単価は1キロ44.6円から51円へ1.14倍も上昇した。

 日本の養豚の生産コストは、7割近くをエサ代が占める。円安傾向のため、輸入に頼る飼料価格はもともと上昇していた。

 そこに中国の大豆ショックが加わった。飼料代の値上がりは生産コストの上昇に直結する。日本の養豚農家は海外よりも規模が小さく、経営体力も弱い。品不足が長引けば、利益はなくなってしまう。

 日本の養豚農家は、中国と同じように厳しい状況に置かれている。農家数は1960年代には約80万戸もあったが、2018年には4470戸まで減った。米国やカナダ、デンマークなどからの輸入が増え、国内自給率は半分ほど。今回の大豆ショックで、廃業する養豚農家がさらに増えてもおかしくない。中国の大ブーメランは日本にも飛んでくるのだ。

 こうした問題はほかの農産物にも広がる。本誌3月2日号(「中国農業が衰退!!  日本の食卓に大打撃」)で紹介したように、中国からの輸入が減ることで、いろんな食品に影響が出ている。

 野菜とその加工食品の輸入量は06年には208万トンだったが、16年には168万トンまで減少。そのあおりで、野菜の値段は中長期で見ると上昇している。東京都中央卸売市場の価格を12年と16年で比較すると、ニンニクやショウガ、ゴボウやニンジンなど中国からの輸入が減った野菜は軒並み値上がりしていた。

 中国農業の衰退や貿易戦争は日本の食卓にも及ぶ。消費者にとっては日本の農家に頑張ってもらい、「食の安全・安心」を守ってほしいが、先行きは厳しそうだ。

 中国の農業の立て直しはうまくいっておらず、貿易戦争は長引いている。日本も海外から農業分野の市場開放を求められている。日米二国間の貿易協定に関する交渉が、来年1月半ばから本格化する。米側は中国に突きつけたのと同じように保護主義的な要求を前面に出し、事実上のFTAを結ぶよう迫ってくる。

 私たちの食卓が将来どうなるのか。米中はもちろん、日米の交渉の行方からも目が離せない。

※週刊朝日  2019年1月4‐11日合併号より抜粋


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