500万円台で「格安」宇宙ツアーが実現? サブオービタル旅行とは…

500万円台で「格安」宇宙ツアーが実現? サブオービタル旅行とは…

「私たちは、誰もが気軽に宇宙旅行を体験できる人類の第1世代になります。社会に与えるインパクトは絶大でしょう」

 宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんは、人類が宇宙旅行時代に入る移行期に直面している、と強調する。



 清水建設で宇宙開発室に配属され、宇宙の専門家とのネットワークを築いた大貫さん。2002年に同社を退職後、米国で「ゴールドラッシュのような宇宙ビジネス業界の勃興」に触れ、帰国後はJAXA(宇宙航空研究開発機構)勤務を経て独立した。大貫さんは言う。

「宇宙が無限であるように宇宙ビジネスの可能性も無限です」

 今、注目されているのは高度400キロの地球周回軌道を目指す「オービタル(軌道)旅行」と、高度100キロ超の宇宙空間に到達する「サブオービタル(準軌道)旅行」だ。

 サブオービタル旅行は地球を周回するのではなく、弾丸が弧を描くように飛ぶ「弾道飛行」で地上と宇宙空間を往復する。垂直打ち上げ型は10分程度、空中発射型は2時間程度の旅程だが、客席の窓から地球を眺めたり、数分間の無重力を体験したりできる。特筆すべきは1席2千万円台という搭乗価格だ。

 大貫さんはこう語る。

「この料金で宇宙に到達するインフラができるのは宇宙産業の革命です」

 サブオービタルの商業運航レースの先端を走るのが、米国の「ヴァージン・ギャラクティック」と「ブルーオリジン」だ。

 大貫さんが「本命視」するのは、「アマゾン・ドット・コム」の創業者、ジェフ・ベゾス氏が設立したロケット開発会社「ブルーオリジン」。同社のサブオービタル機「ニュー・シェパード」は、ITを駆使した全自動制御機のためパイロットは不要で、乗客6人が乗り込むカプセルをロケット先端部に搭載している。

 地上から垂直発射で打ち上げ後、カプセル部分は切り離されて高度100キロ超の宇宙空間へ。カプセル部分はパラシュートで帰還。ロケットブースターは再着火し、地上に戻って回収、いずれも再使用される。

 同社は15年以降、同じ機体の試験機で計5回、高度100キロを超える宇宙空間への無人飛行に成功している。17年12月に投入した改良型のニュー・シェパードで宇宙服を着たマネキンを搭載して無人飛行実験を実施。今後、有人飛行実験を重ね、19年中に商業運航をスタートさせる見込みだ。ただ、19年の販売開始が告知されている搭乗チケットの発売時期や価格については公表していない。

 一方、これとは対照的に、05年から1席25万ドル(約2800万円)で大々的に搭乗予約を呼び掛けてきたのが、ヴァージン・ギャラクティックだ。世界で約700人分の座席が予約販売済みという。同社と独占契約を結ぶ代理店が日本にある。

 東京・西新宿の高層ビル群の一角。国内外のツアー旅行を手掛ける「クラブツーリズム」本社ビルの歩道沿いの壁には、地球と宇宙船を組み合わせた合成写真に「スペースシップ2で行く宇宙旅行」と書かれたポスターが貼られていた。

「今のところ、このポスターを見て宇宙旅行を申し込んだ人はいませんが、宇宙もカバーする旅行会社であることをアピールしたいと考えました」

 こう話すのは、「クラブツーリズム・スペースツアーズ」の浅川恵司社長だ。

 クラブツーリズムがヴァージン・ギャラクティックと日本国内でのチケット販売の独占契約を結んだのは05年。運航開始を控え、14年に分社化し、宇宙旅行取り扱い業務に特化したクラブツーリズム・スペースツアーズを設立した。

 同社によると、これまでに40〜80代の20人(男性16人、女性4人)が搭乗チケットを購入。平均年齢は60歳、最高齢は85歳の女性という。男性の7割が不動産、出版、ITなどの会社経営者。ほとんどが創業社長だという。夫婦や親子といった身内同士で申し込んだ人はいなかった。動機は「青い地球を眺めてみたい」「無重力を体験したい」といった宇宙への好奇心に集約されるという。

 ヴァージン・ギャラクティックの「スペースシップ2」はパイロット2人を含む8人乗り。母船となる航空機の胴体下部に取り付けられて離陸後、高度15キロで切り離し、空中発射する。ロケットエンジンの噴射時間を約90秒に抑えたことにより機体のコンパクト化につなげた。「早ければ19年末」(浅川社長)の商業運航開始を見込む同社は、将来的に日本人ツアーのチャーター機の手配も予定している。

 宇宙飛行士のような本格的な訓練が必要ないのも、サブオービタル旅行の利点だ。米国では04年に改正された「商業宇宙打ち上げ法」で搭乗者の自己責任を原則とする有人宇宙旅行が解禁されており、3日間の米国での準備訓練を含め最短7日間で参加できる。

 クラブツーリズムの1700人の顧客を対象にした調査によると、600万円が宇宙旅行の「適正価格」と考える人が多いことがわかった。

 一方、35年時点の年間市場予測(14年発表)によると、サブオービタル旅行は宇宙産業全体でもトップの最大3万1500人、1500億円の需要を見込んでいる。

 宇宙空間を経由する弾道飛行は、地球上の2地点間の移動を飛躍的に短縮させることにもなる。地球のどこでも数時間で結ぶ飛行技術が確立されれば、既存の大手航空会社の参入により需要がケタ違いに増大することも予想される。浅川社長は言う。

「サブオービタル飛行の安全性が確立されれば、2地点間飛行の需要も相まって500万円台の宇宙旅行ツアーも将来夢ではないかもしれません。商業機の1号機が飛べば、世の中の受け止めが変わるでしょう。今は嵐の前の静けさ、とも言えます」

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2019年1月14日号


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