津田大介「幻想だった? 米都市と地方の対立」

津田大介「幻想だった? 米都市と地方の対立」

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米国の都市部と地方部で対立構造があるとされるが、真実ではないとする主張を取り上げる。

*  *  *
 2016年の大統領選挙以降、米国では国内が分断していると盛んに叫ばれている。

 もともと保守層を代表する共和党、リベラル層を代表する民主党による二大政党制が定着しており、世論は大きく二分されてきた。こうした分断はしばしば、「金持ちで現実を知らない都市部のうぬぼれたエリート」と、「簒奪(さんだつ)され、貧しく怒れる地方の住民」との対立として描かれてきた。16年の大統領選挙も、前者の代表たるヒラリー・クリントン氏に、後者の味方であるトランプ氏が勝利したと評価する向きが少なくない。16年6月に出版された『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』は、夢も希望もなく困窮する田舎の白人労働者の姿を描いたものとして注目を集め、これこそがトランプ大統領を支持する人々の姿だとされた。

 しかし、こうした「都市部の金持ちエリート」対「地方の貧しい労働者」という構造は、米国の分断を表したものなのだろうか。

 この対立を「真実ではない」と断言するのは、公共政策を専門とする南カリフォルニア大学のエリザベス・カリッド=ハルケット教授だ。彼女は昨年12月に米ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿した記事で、過去5年分の国勢調査対象1万6732カ所の社会経済・人口構成データをもとに行った分析を明らかにしている。

 人口10万人超の都市部、人口5千〜1万5千人の田舎町、人口5千人未満の農村部に分けて、住民の住宅所有や失業状況、世帯収入や教育、人種・民族的多様性などのデータを調べた。その結果に彼女は驚かされたという。教育を除く大半の指標で、田舎町や農村部の中央値は都市部と同等か、それを上回っていたのだ。

 調査対象となった45州のうち28州で、年収1万ドル未満の極度の貧困世帯の割合は田舎町のほうが都市部よりも低く、また失業率でも40の州で田舎町のほうが都市部よりも低かった。一方、都市部のほうが田舎町や農村部よりも高かったのは、大学卒業者の割合くらいだという。

 つまり、世帯収入や失業率、格差などの経済的状況を比べたところで、都市部と地方との間に著しい違いがあるわけではなかった。にもかかわらず、都市部の金持ちエリート対地方の貧しい労働者という間違ったステレオタイプに基づいて米国が二分され、「ありもしない分断」が作り上げられているとハルケット教授は指摘する。

 もちろん、農村部に貧困、失業、格差に苦しむ労働者がいることは確かだ。しかしそうした問題は、都市部も同様に抱えているのである。

 問題は都市部のエリートと田舎の労働者の対立ではない。アマゾンやネットフリックス、あるいはソーシャルメディアの普及で都市と地方の文化格差は縮まっている。米国社会の本当の分断の種は、ウェブにこそあるのかもしれない。

※週刊朝日  2019年1月25日号


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