英国民が「EU離脱よりよほど怖い」と恐れる? 「次の首相」候補

英国民が「EU離脱よりよほど怖い」と恐れる? 「次の首相」候補

 EUからの離脱を巡り政治の混乱が続く英国が、12月に総選挙を迎える。ジョンソン政権が過半数を確保できるかが焦点だが、さらなる混乱も待ち受ける。AERA 2019年11月18日号に掲載された記事を紹介する。

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「社会人として支持し続けた政党と直接対決するような行動を取ることはできない」

 英国のメイ前政権でナンバー2の財務相を務めたフィリップ・ハモンド氏が5日、12月の総選挙に出馬しないと発表した。ジョンソン首相が率いる保守党では今、閣僚級を含む大物議員が、次々に総選挙への不出馬を表明している。背景にあるのは、EUからの離脱を巡る保守党の「変質」だ。

 ハモンド氏はEUからの離脱を問う2016年の国民投票では残留派で、その後、離脱はEUとの合意に基づくべきだという穏健派に転じた。保守党の重鎮として、残留と離脱に揺れる党内のバランスを取ってきたが、合意なき離脱も辞さないとするジョンソン首相の意向に背いて、9月に離脱阻止の法案を支持したことから、ほかの保守党議員20人とともに党を除名され、以後は無所属で活動していた。

 二大政党に有利な小選挙区制を取る英国では、政党の公認なしに無所属で勝利することは極めて難しい。ハモンド氏のほか離脱に慎重なアンバー・ラッド元内相、ニッキー・モーガン文化相ら閣僚級も相次いで不出馬を表明。保守党は、ジョンソン首相のもとで明確な「離脱政党」になりつつある。

 2005年、当時の小泉純一郎首相が、「郵政民営化」への賛否を踏み絵に、反対する議員を除名、総選挙で「刺客」候補を送り込んだ「郵政選挙」さながらの事態だ。議席数650の下院で、単独過半数(326議席以上)を狙うが、除名した議席分をすべて取り戻せるとは限らない。

 政党の変質は与党だけではない。最大野党の労働党も揺れる。労働党は都市部の住民や若者ら「残留派」と、労働者階級の多い地方の「離脱派」の両方を支持者に抱える。そのため、コービン党首は総選挙で離脱、残留の立場を明言せず、「半年以内にEUと再合意し、その結果を国民投票に問う」との立場だ。

 コービン氏は、草の根の党員票に支持基盤を持ち、鉄道の再国有化などを掲げる党内の急進左派だ。かつて労組依存から中道左派へとかじを切って支持を広げ政権を維持したブレア元首相らの「ニュー・レーバー(新しい労働党)」路線には批判的な立場を取る。富裕層を批判し、貧富の格差解消を訴えるためにはポピュリスト的な手法も辞さない。

 9月の党大会では、イートン校などのパブリック・スクールを含む私立校(小中高レベル)の全廃を掲げ、補助金や税制面での優遇の廃止、私立校が持つ資産の再分配などを打ち出した。

 6日には、コービン氏と路線対立のあった中道穏健派のトム・ワトソン副党首が「個人的な理由」から不出馬を表明。英メディアは、ワトソン氏が友人らに「労働党は、もはや自分が入党した政党ではない」と語ったなどと報じた。最大野党の党首は「次の首相」候補だが、世論調査では、コービン氏の首相としての資質について、「ある」が20%前後なのに対し、「ない」が6割から7割に達する。産業界などからは、「ブレグジット(EU離脱)よりコービン政権誕生の方がよほど怖い」との声も漏れる。(朝日新聞東京本社編集局長補佐(前ヨーロッパ総局長)・石合力)

※AERA 2019年11月18日号より抜粋


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