米大統領選で当選確実となった民主党のジョー・バイデン次期大統領が、外交活動を本格化させている。共和党のトランプ大統領は日本時間11月16日夕現在、敗北を認めていないものの、各国首脳は祝意を表明して期待を寄せる。だが、新政権の誕生は、日本にとっていいことばかりではない。



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 米国のバイデン次期大統領は、早くも対中国を主眼とするアジアシフトを打ち出した。11月12日、菅義偉首相との電話協議で、日本防衛義務を定めた日米安保条約第5条が沖縄の尖閣諸島に適用されると明言した。

 日本など同盟国との関係を重視するというバイデン氏らしいリップサービスと受け取れる。日本側を喜ばせる約束の裏には、それ相応の“見返り”を求めてくるとの見方がある。軍事評論家の前田哲男氏が指摘する。

「米国の対中国政策で、日本は重要なカードです。アジア軍事戦略のパートナーとして重用しながら、日本政府と自衛隊に米軍への最大限の協力を引き出させるでしょう」

 米国は昨年8月、ロシアと結んでいた中距離核戦力(INF)全廃条約を失効させている。条約で地上発射型の中距離ミサイルの保有や開発を禁止していたが、その重しが取れた。失効からほどなく、米国は中距離巡航ミサイルの発射実験を行った。前田氏が続ける。

「米国はいま、新型トマホークなど中国に対する攻撃ミサイルを盛んに開発しています。日本を含めたアジア太平洋地域に配備したいと考えている。特に、日本の南西諸島を指定してくる恐れがあります。沖縄の石垣島や宮古島などでは陸上自衛隊のミサイル基地化が進められており、一体化させることも考えられる。いま非常に分厚い対中包囲網が形成されつつあり、この流れはバイデン氏が大統領になっても変わらないでしょう」

 米国が日本に中距離ミサイルを配備すれば、中国とロシアが対抗措置を取ることは間違いない。

 10月26日〜11月5日には、日米両国が合同軍事演習を日本周辺の海域で実施。11月3日からはインド、オーストラリアを含めた4カ国で、インド洋のベンガル湾でも演習が行われた。

 外交・安全保障問題で情報発信などを行うシンクタンク「新外交イニシアティブ」代表の猿田佐世弁護士がこう懸念する。

「4カ国による軍事演習は中国への牽制が狙いですが、南シナ海で行われるようなことがあれば、さらに強烈な軍事圧力をかけることになります。対中強硬路線は、残念ながらバイデン氏になっても変わらない。東南アジア諸国は米中対立の激化を本当に心配しています」

 2021年度以降の在日米軍駐留経費、いわゆる「思いやり予算」の日本側負担を定める交渉も始まったばかりだ。20年度防衛省予算で1993億円に上っているが、トランプ大統領はその4.5倍の年80億ドル(約8400億円)の支払いを要求している。

 沖縄国際大学大学院教授の前泊博盛氏は言う。

「1980年代の米国が莫大な双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)を抱えていたことから、思いやり予算は増額されていきました。いまは日本の財政赤字が深刻化しており、貧しい人がお金持ちに貢いでいるようなもの。『思いやりすぎ予算』と言ったほうがいい」

 前回、15年のオバマ政権下での交渉時は約130億円増えた。トランプ氏ほど法外なことは言わないまでも、増額要求は避けられないだろう。

 トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)諸国にも防衛費を国内総生産費(GDP)比2%超にするよう要求。現在、2%超を支出する国は倍増し、フランスなど10カ国となった。だが、この話には裏がある。猿田氏が明かす。

「実は、バイデン氏は米外交誌への寄稿の中で、NATO諸国の防衛費引き上げについては、もともとオバマ政権が要求した成果であり、トランプ氏の手柄ではないと主張しています」

 オバマ政権でバイデン氏(当時・副大統領)は、沖縄県名護市辺野古に基地を新設する現在の普天間移設計画を堅持してきた。辺野古海域では軟弱地盤が見つかったが、日本政府は無理やり埋め立て工事を強行している。日本側が強く要求しない限り、普天間飛行場の返還もままならない。

「全国の沖縄化も進んでいます。例えば北海道の演習場では、射程20キロ近い長距離砲を使用するなど、沖縄ではできなかった演習を自衛隊と米軍が共同で行うようになっています」(前泊氏)

 北朝鮮政策でも、バイデン氏は無条件で首脳会談に臨んだトランプ氏を批判。金正恩・朝鮮労働党委員長を「悪党」と呼び、核能力引き下げを会談の条件にしている。

「金氏はバイデン氏の出方を探るため、ミサイル実験や核実験を再開する恐れもあります」(前田氏)

 自国第一主義に走ったトランプ政権が終わっても、その恩恵を日本も享受できるとは限らない。(本誌・亀井洋志、池田正史、秦正理)

※週刊朝日  2020年11月27日号