「怒涛、怒涛、怒涛!!」

中村倫也はドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)第8話放送前、自身のTwitterでそう呟いていた。先週の第8話放送が終わると、その言葉通り、SNS上では「怒涛すぎました…」「展開が爆裂過ぎて、あっという間に1時間過ぎた…」「こんなに感情かき乱されるドラマもなかなかない」などとファンは沸いた。「#美食探偵」「明智さん」はトレンド入り。「え?美食探偵どうなんの?」「次回が気になりすぎて寝れない」と、最終回に向け視聴者の心はザワついている。


本作は、三度の食に命をかける私立探偵・明智五郎(中村倫也)が、弁当屋の小林苺(小芝風花)を巻き込みながら、食にまつわる殺人事件を解決していく。苺は明智に恋心を抱くが、事件を操る殺人鬼“マグダラのマリア”(小池栄子)と明智は、禁断の愛で惹かれ合っている。


ドラマのキービジュアルで苺の背景は白、マリアの背景は黒。その境目に立つのが明智。怒涛の展開に沸いた第8話だが、その中には様々な「対比」があった。最終回を前に、今回はそんな視点で8話を軸にドラマ『美食探偵』を振り返ってみたい。



「ねぇ、人殺しがアイドルしちゃダメって、誰が決めたの?」

苺(小芝風花)の友人で地下アイドルのココ(武田玲奈)は、マリアの手に墜ち、ストーカー化したファン・田畑(森永悠希)に、食べると7日後に死ぬという毒キノコ・ドクツルタケを食べさせた。「今ならやり直せる。だってココちゃんはマリアに操られてただけなんだから」と涙ながらに訴える苺。しかし、正論は通じない。必死に信じようとする希望の言葉に、「ねぇ、人殺しがアイドルしちゃダメって、誰が決めたの?」と、絶望的な言葉が返ってきた。明智(中村倫也)の言った「君の友達は、もうこの世界にはいない」というセリフで、苺のいる世界とマリアのいる世界はあまりにも大きな隔たりがあるということが、はっきりと明示された。ここからマリア・ファミリーがいきいきと計画を実行し、ココは何事もなかったかのように笑顔でステージに立つ“黒”側の世界が描かれた。


絶望から救ってくれるのは、明智お手製のちくわの磯部揚げ。明智にとって苺が作るちくわの磯部揚げは、どんなに嫌な事件があった後も、食べると「妙に心がやすらぐ」「この世界に二つとない」一品。明智が作った磯部揚げを味見した苺は「悪い。最悪です。よくもまあこの程度の料理で今までねちねちねちねち人の料理のこと言えたもんですねぇ。」と、いつもの調子を装う。そんな苺を見つめる明智。このシーンの二人の愛情深い表情に救われる。


明智:「僕の事務所で、一緒に暮らさないか?」
苺 :「は?」

ピアノのグリッサンドにウッドベースの音楽が流れたら、一気にコミカルな世界へ。シリアスからコメディへ。毎度のことながら、魅力的な劇伴とともに切り替わるスイッチが楽しい。ここから明智の過保護、高橋くん(佐藤寛太)の「あけT!うらやま!!!」発言、苺&桃子(富田望生)のパジャマトーク。コミカルとシリアスの対比を伴って、“白”側の世界が描かれていった。


そんな“白”の世界も、衝撃のラストに向かってどんどん“黒”で塗りつぶされていく。年老いた“貴婦人”が苺を誘き出し、命を狙う。貴婦人に変装していたマリア(小池栄子)はその顔を剥がし、タブレットで苺に見せたのは、ドクツルタケを食べて七日目を迎えた田畑(森永悠希)とココ(武田玲奈)の姿。田畑が吐いた黒い血を顔に浴びてほほ笑むココの狂気たるや、それはおそろしいものだった。

“黒”の世界へ誘うマリア(小池栄子)の中にも、相対する側面がある。「夢と現実は別」「つまらない男と結婚した。私はそれが女の幸せだと思い込もうとした」。現実に絶望していたマリアが、本当の幸せは何なのかを明智との出会いで知り、殺人を「ワクワクする楽しいこと」だと思うようになった。また、いつも余裕で不敵な笑みを浮かべるマリアだが、明智に対して見せる表情はちょっと違う。苺のために必死になる明智に「すっごい嫌!」と、どこか余裕のない可愛らしさものぞかせる。


苺(小芝風花)はマリアに「狂ってる」と言った。マリアが歪んだ愛を見せつければ見せつけるほど、苺の切なさは増し、“白”の純度がどんどん上がっていくように感じられる。その最たるものが、小芝の迫真の演技で視聴者の涙を誘った明智への告白だろう。「私はただ、あなたのことが好きなんです!行かないで…」。まっすぐな愛は、明智の心にどう響いたのか…。

少し視点を変えて、奈落の底に落ちそうになる苺を明智が助ける場面。第1話では崖から落ちそうになった苺に、「崖で正論なんて吐くからそうなる」「自業自得ってやつだな」と、苺に手を差し伸べなかった明智。第8話では、「どうせ正論でも吐いたんだろ」と言いつつ、これまで見せたことのない必死の形相で苺を助けようとする。「自業自得、ですか?」と尋ねる苺に、「あぁ。でも知っての通り、僕はウザがられるほどの過保護でね。」と必死で苺の命を守ろうとした。



『美食探偵 明智五郎』は、相対するものが幾重にも重なって紡がれる重厚なストーリー。怒涛の展開であることは間違いないが、役者陣の引きつけられる演技も含め、その魅せ方の対比が効果的になされ、視聴者はさらに感情を揺さぶられるのかもしれない。


しかし、全く別の世界にいる苺とマリア・ファミリーにも共通項がある。「私は誰かに自分の料理を食べてもらって喜んでもらえたら嬉しいって、ただそれだけなんです!」。苺が語った純粋な思いは、林檎(志田未来)・シェフ(武田真治)・れいぞう子(仲里依紗)も持っていた気持ち。そしてマリアだって。その思いを一番感じて受け止められるのは、「人生で食事ができる回数は限られている。だからその一食を妥協してはいけない」と三度の食に命をかける明智五郎(中村倫也)、その人だ。

マリアと苺からの愛情、マリアと苺に対する自分の複雑な愛情、シリアスとコミカル、リアルとフィクションなど様々な境界を請け負ってきた中村倫也演じる明智。


最終話の「最後の晩餐」では、苺は純白のドレスを、マリアは黒のドレスを着て囲む。


境界線に立つ明智(中村倫也)は、どんな道を選ぶのか、しかと見届けたい。放送は今夜10時から、30分拡大。




■日曜ドラマ『美食探偵 明智五郎』

最終話 6月28日(日)22:00〜23:25(30分拡大SP)

原作「美食探偵−明智五郎−」東村アキコ(集英社「ココハナ」連載)
Ⓒ東村アキコ/集英社 
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