(大越龍文・野村証券シニアエコノミスト)
 国際的な原油価格指標の一つ、米原油先物価格(WTI=ウエスト・テキサス・インターミディエート、期近物)が4月20日、史上初のマイナス圏に入った。終値は1バレル当たりマイナス37・63ドル。各地の取引所で取引されるさまざまな商品の中でも、マイナス価格は過去に例がない。

 マイナス価格とは、「引き取り手がおらず、原油を手放すためにお金を支払わなければならない」ことを意味する。なぜこんな事態が起きたのか。

 新型コロナウイルスが流行し、人の移動や物流が制限され、経済活動が停滞する中、輸送用燃料を中心に原油需要が大きく減退した。これに対して産油国間の減産規模が小さいことから、供給過剰状態が続くと市場では観測されている。

 一方、米国では、生産停止に時間を要するシェールオイルの生産が当面続く。余った原油を在庫として貯蔵する必要が生じるが、米国内の貯蔵施設の稼働率は急上昇しており、近く満杯になる恐れがある。そこで、貯蔵できない可能性の高まった原油を、お金を支払ってでも手放そうとする動きが生じた。特に今回は、期近である5月物先物の最終取引日である4月21日を控え、「売り」が集中した。(コロナ経済)

減産量まだ不十分

 WTI価格が時にマイナスになるような状況は、しばらく続く可能性がある。もともと原油市場は、米国シェールオイルの生産量が増加し、14年ごろから供給過剰が常態化してきていた。原油の上値が抑えられる状態に対抗し、サウジアラビアなど石油輸出国機構(OPEC)諸国とロシアなど非POEC諸国からなる「OPECプラス」による協調減産が行われ、20年3月までは、18年10月の産油量を基準にOPECプラス全体で日量170万バレルの減産が目標となっていた。実際には、この目標を超えて減産が進んだが、世界の原油市場の供給過剰状態を解消することはできなかった。そこを、コロナ禍による需要減退が襲った。

 サウジアラビアとロシアの対立が悪化し、協調減産は3月末で失効したが、4月12日のOPECプラスの会合では、5〜6月に過去最大規模の日量970万バレルの協調減産を実施することで最終合意した。

 だが、需要減退の規模を考えれば、この程度の減産では、価格の下支え効果は限られている。

 図1に世界の石油消費量の内訳を示した。国際エネルギー機関(IEA)の17年の統計によると、約7割が船舶燃料である重油などの残留燃料油、軽油、ジェット燃料・ケロシン、ガソリンという輸送用燃料で占められている。19年の世界の石油需要量は日量約1億バレル。IEAの統計を当てはめると、このうち日量約7000万バレルが輸送用燃料需要に当たる計算になる。

 新型コロナの感染拡大を受けた人の移動や物流の制限は、この輸送用燃料需要を直撃した。3月の最終週(3日30日〜4月3日)に米国で供給されたガソリンは前年同週比マイナス48・3%と、ほぼ半減している。17年の世界の石油消費の約26%がガソリン消費であることから、19年のガソリン消費量は日量2600万バレルと試算される。仮に世界が米国と同じ状況になると仮定すると、日量約1300万バレルのガソリン消費が消えることになる。

 他方、米シェールオイルも例外ではなく、コロナ禍で大きな打撃を受けた。WTI価格が20ドル台にまで落ち込むと、生産コストが40ドルとされるシェールオイルの採算割れが深刻化する。実際、シェール生産業者の米ホワイティング・ペトロリアムが経営破綻した。

 米国エネルギー情報局(EIA)が4月7日に公表した短期エネルギー見通しによると、WTIの価格が20ドル程度に下落すると、米国の原油生産量は日量1300万バレル弱から日量1100万バレル程度にまで落ち込むという。ただし、こうしたOPECプラスの協調減産やシェールオイルの減産を考慮しても、大きな供給過剰が残ると見込まれる。