オタクが才能を発揮できた素晴らしき時代。いま日本人が学びたい、ルネサンス美術【ヤマザキマリさん】

オタクが才能を発揮できた素晴らしき時代。いま日本人が学びたい、ルネサンス美術【ヤマザキマリさん】

いまもう一度、「ルネサンス」を見直したい理由

ルネサンス。多くの人は、中学や高校の授業で習ったな……という記憶を思い返すに違いない。といって、同時に「ルネサンスとは?」なんて聞かれると、しどろもどろになる、という人も少なくないのでは?

実は日本にはルネサンス美術の名作を見ることができる美術館が多くある。さらにいうなら、ルネサンスはいまアートの世界で注目度の高まっているジャンルだ。イタリアで10年間美術を学び、漫画『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』など古代ローマをテーマとした作品で知られるヤマザキマリさんに、ルネサンスの魅力について伺った。

ルネサンスの画家は今でいう『オタク』だった

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ヤマザキさんは、「ルネサンスは既成概念という縛りを解く力、改革的精神だと思う」という。「そういった改革精神を持った人を支えられる、経済力が大きく動いていた時代がルネサンスという時代だったと思います」

ヤマザキさんがマンガというツールを通じて表現したいと願っている、古代ローマ世界や古代ローマ人の幅広い精神性。ルネサンス時代に古代ローマの発掘品から触発された表現者達と共通している意欲と言えるかもしれない、という。自身が描く古代ローマをテーマとしたマンガに、同じイタリアのルネサンスの画家から受けた影響についてたずねると、こう答えた。

「『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスやハドリアヌス帝、またプリニウスも、要は今でいうボーダーレスなマニアック人間だと言えますが、世間体に縛られず自由な探究心を謳歌していた人々をとにかく描きたかったんです。まわりから白い目で見られることがあっても屈せず、技術や知的探究心といった人間の可能性へかける意欲が逞しい。得意なことを謳歌した結果、後の人々に多大な影響力を及ぼすことができたという姿勢はマンガという媒体を使って、それまで西洋史に興味の無い人も含め、多くの人に知ってもらいたかった点です」

突出したオタク精神を発揮できて、表現は進化する

ルネサンスの画家の中で好きな画家を聞いたところ、「記号的な宗教的モチーフに画期的な人間味を加えたジョットや、そのジョットからも影響を受け、さらにそこにダイナミックな動きと技術的な精巧さを加えて、古代ローマで表現されていた人間のかたちに近づけたマザッチョなど、既存の絵画論や法則にとらわれない斬新な発想を持った表現者達は沢山います」とおいてから、遠近法に拘り過ぎてしまったパオロ・ウッチェッロを挙げた。

ルネサンス04

「それまで職人として決められたレールの上を行くべき職種だった絵画の考え方を全く別のものとして捉え、実際その思いが作品にも露見しているわけです。微笑ましいと言うか、多分多くの画家にとってはどうでもいいことに執着している姿勢が頼もしい。そんな変わった人であっても仕事の依頼はあったわけですから、素晴らしい時代だったなと思います」

「やはり、今の時代に対しても言えますが、突出したオタク精神を発揮できる人が認められてこそ、表現はより進化していけるのだと思っています。ルネサンスのすごいところは、それにパトロン達も気付いていたということですね」

長いものに巻かれる空気からは、「すごいもの」は生まれない

ある才能に秀でた人材と、それを生かすために必須のサポートする人材。新たなムーブメントを生むための図式は、近代も現代も変わらない。

ヤマザキさんはルネサンス時代に満ちていた改革的精神と比較し、現代日本における風潮にも触れた。

「現代でも、画期的な作品を生んでいる人は、そういう性質の人です。長いものに巻かれず、自分はこれで良いと思って貫き通せる人。まわりが見えなくても、余計な社会性は必要なくなってきます。ただ、そういう人が力を発揮して生きて行くためには、寛容なパトロンと言えるバックグラウンドが必要になってきますが。条件が揃えば、生み出す側の人はあとは余計な事を考えず、どんどんその能力を発揮していけばいいのだと思います」

「今の日本では空気を読めない人は虐められたり疎外されたりしますが、そんなことをやっていたら何も改革に繋がらない。多様で特殊なものを積極的に取り込んで行かない限り、人間の魂を揺さぶるすごいものがこの世に出現することは難しいと言えるでしょう」

ルネサンスという華やかな文化の一時代は、単なるアートの一方向として片付けるのは安直すぎるのかもしれない。はたして、なぜいま、「ルネサンス」なのか? 私たちの中に蔓延している閉塞感、レールから外れることへのバッシング……そうしたものへの鬱屈とした思いが、もしかしたらルネサンスへの憧れに向かわせているのかもしれない。ルネサンス美術を鑑賞する際には、画面に満ちた自由の精神をぜひ汲み取ってみてほしい。

(出典:『ルネサンス超入門』)

(ヨシザワ)

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